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婚約破棄され捨てられた令嬢は、魔物の森で毛玉を洗う  作者: かのん


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十二話 大樹

 魔物の森の大樹は、森の中の泉のその先にあった。


 魔物の森に風が吹く。すると大樹は大きく揺れ、まるで歌を歌うようにざわざわと葉を揺らす。


 その音を、ステラは目を閉じて聞くと、ゆっくりと瞳を開き、息をついた。


 大樹の根本には、泉の水が小川となって流れており、その泉の水を吸い上げ、だいぶ色合いは良くなってきているが、穢れが落ちきっておらず、黒ずんでいる所が多く見られる。


 斑模様になり、葉も黒色の葉が目立つ。


「私達皆で、穢れを落としますから。あと少しの辛抱ですよ」


 ステラがそう声をかけると、大樹はまたざわざわと揺れる。


 まるでこちらの言葉を理解しているようなその様子に、ステラはヒューリーに尋ねた。


「本当に大きな木ですね。それに、私の言葉を分かっているみたいです」


 こくりとヒューリーはうなずく。


「魔物の森は、この大樹と共に生まれ、そして育ってきた。この大樹は、私達と共にある存在なんだ」


 共にある。その言葉に、ステラは静かにうなずいた。


 神のようにあがめるのではく、まるでずっと寄り添っていてくれる友を紹介された気持ちがした。


「そうなのですね」


 ステラはエプロンに、頭には三角巾を着け、ヒューリーたちと共に意気込む。


「皆で頑張って綺麗にしましょう!」


「きゅ~~~~~~」


 毛玉の魔物達は今日も今日とて可愛らしく毛を震わせながら、ステラと共に穢れを落としていく。


 ヒューリーも一緒になって真っ黒に染まってはステラに綺麗に洗い流されており、心地よさそうに毛玉を震わせる姿にステラはくすりと笑みを漏らした。


 ステラ自身も手があいている時には、大樹に手をあて、そして綺麗になるように祈りながら拭いていく。


「元気になりますように。綺麗になりますように」


 そう言いながらステラが一生懸命に働く姿に、毛玉達は負けまいと総出で綺麗にしていく。


 ただ、大樹は地中から森全体の穢れを吸い上げているのか、穢れを拭いても拭いても、またどこかが穢れていく。


 今日一日では、全てを綺麗にするのは難しいかもしれないなと、皆が思っていた時であった。


 大樹の根本から一本の芽が生まれると、ステラの身長ほどに伸びて、美しい花を咲かせた。


「わぁぁ。綺麗」


 真っ赤なその花はステラの方を見つめて花弁を揺らす。


 甘い香りは心地良く、ステラは大樹がありがとうとこちらに伝えて来てくれたような気がした。


「大丈夫です。時間がかかっても、綺麗にしますから」


 花は揺れる。


 その姿に、ヒューリーは人の姿へと変わると言った。


「すごいな。こんなの、初めて見る」


「そうなのですか?」


「あぁ。ふふ。ステラ、さすが聖女様だな。大樹も喜んでいるんだろうね」


 その言葉に、ステラは微笑む。


「もし、本当にそうならばとても嬉しいです」


 毛玉の魔物達が黒くなったのを、ステラは優しく、たらいにいれられた泉の水で洗い流しながら、ふと、手を止めた。


「何?」


 ステラの手が、わずかに疼く。


 手のひらを見ると、人の国でつけられた焼き印が赤黒くなっている。


 久しぶりに傷んだなと思っていると、ヒューリーが心配そうにこちらを覗きこんだ。


「どうしたの? ステラ」


「あ、いえ」


 手の傷をしっかりとヒューリーに見せたことはなかった。これまで痛むことも少なかったから、そのままにしていたのだが、今更痛むとは思わなかったのだ。


 手を隠そうとすると、ばっとヒューリーに手を掴まれる。


「あっ」


 隠そうとしていたわけではない。ただ、言うタイミングがなかっただけだ。


 ヒューリー達魔物は、ステラが自分から話をするまで、待っていてくれていた。それに甘えて、自分のこれまでの人生など、話していなかった。


 話すのが怖かったと言うのが、本当のところだ。


 話して自分がどんなに惨めたらしく、ゴミのように捨てられたのか、それを知られるのが嫌だった。


 ヒューリーは困ったように笑みを浮かべると、ステラの手を優しく撫でて言った。


「傷があるのはもう気づいているよ。話をまだ出来ないなら、いつまででも待つ。だから、話したくなったら話して。ただ、痛むのなら、治療はしたほうがいい」


 その言葉に、ステラは言葉を詰まらせる。


 その時、ぐらりと視界が揺らぎ、ステラはヒューリーへと倒れ掛かった。


「ステラ!?」


 頭を押さえると、ステラは力が抜ける感覚に襲われる。


「大丈夫かい!? どうしたのだ!?」


「ちょっと……めまいが」


「もしかしたら……大樹の穢れを落とすのに力を使い果たしたのかもしれない。ステラ、今日はもう、やめておこうか」


 ヒューリーの言葉に、ステラは慌てて首を横に振った。


「だ、大丈夫です! 大樹はこれまで待ってくれたのですから、早く穢れを落としてあげないと」


「ステラ」


 優しく名前を呼ばれ、ヒューリーはステラを抱き上げた。


「私達はね、魔物なんだ。時間はたくさんある。だから、焦らないで」


「でも」


「大樹は地中から大量の森の穢れを吸い上げている。だから、ステラが力を使い果たすのも仕方がないことさ。無理はいけない。今日はもう休もう」


「……はい」


 ステラは小さくうなずくと大樹を見上げて言った。


「ごめんなさい。また、明日来ますから」


 すると、次の瞬間大きく木が揺れ、そして一瞬にしてステラの周りに美しい小さな花々が咲きほこる。


 その光景に、ステラは目を丸くした。


「綺麗」


「ふふ。だいぶ大樹も力を取り戻したようだ。さぁステラ。今日はゆっくり休もう」


「はい」


 ステラは大樹に向かっていった。


「ありがとうございます。また明日」


 ざわざわと木は揺れ、そして、花弁が風に舞い上がる。


 ステラはその光景に笑みを浮かべ、明日は絶対に大樹を元の姿に戻して見せると誓うのであった。



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