十一話 ステラとヒューリー
西の町ではステラは歓迎を受け、その後、東の町、北の町と順番に回っていくこととなった。
毛玉達は皆温厚であり、ステラをどの町も歓迎してくれた。そして全ての町をまわり終えたステラは、腕輪に髪飾りにイヤリングに指輪までつけており、大層自分は豪華になったものだなと苦笑を浮かべた。
町の魔物たちの笑顔が頭をよぎる。
皆が憎しみなど抱かず、穢れが祓われると嬉しそうに飛び回っていた。
ステラは今、王城に戻り、ヒューリーと共に星を眺めながら紅茶を飲んでいた。
少しだけ風は冷たいけれど、後ろからヒューリーに抱きしめられているからか寒くはない。
人の体温がこれほどまでに心地がいいものだとは、ステラは思わなかった。そして、いずれヒューリーに食い殺されるとしても、この温かな魔人にならば良いと思っていた。
「ステラ。寒くない?」
優しい声で尋ねられて、ヒューリーにぎゅっと抱き締められたステラはその胸の中でこくりとうなずいた。
「とっても温かいです。私は今、生きてきた中で一番幸せです」
嬉しそうに微笑むステラを、ヒューリーはさらにぎゅっと抱きしめる。
「私もステラに出会って、今が一番幸せだよ」
人と触れ合うことは幸せなこと。ステラはそれをヒューリーに出会って知った。限りのある時間かもしれないけれど、ステラはそれでもよかった。
魔物の森の毛玉達はほとんど洗い終え、そして、明日は魔物の森の大樹の穢れを落としに行く予定となっている。大樹は魔物の森の全域に根を伸ばしているというから、ステラが大樹の穢れを落とせば本来の魔物の森の姿に戻るのではないかと、国王であるレルドは言っていた。
ステラは、それを聞き、嬉しいような、自分の役割が終わって寂しいような気持ちを抱いていた。
「ステラ。どうしたの?」
悲しげな瞳を浮かべたステラに、ヒューリーは小首をかしげる。
「いえ……森が元の姿に戻るのは嬉しいのに……私、自分勝手なのです。自分の役目が終わるようで……寂しいと思ってしまう」
その言葉に、ヒューリーは笑いをこぼすと言った。
「何言っているの? ステラの役割は終わりじゃないよ?」
「え?」
「聖女様であるステラは、この国にいてくれるだけで、幸福を運んできてくれる存在だよ。それに、私はずっとステラと一緒にいたい」
「ヒューリー様」
確かに、いずれヒューリーに食い殺されれば、ずっと一緒にいることになるのだろう。
ヒューリーはステラの頬に手を当て、そして額にキスを落とす。
「何も心配することはないよ。ステラ。ふふ。早く君を食い殺したいな」
頬を赤らめながらそう言うヒューリーに、ステラは、小さく頷いた。
「はい。きっとヒューリー様に食い殺されたなら、この不安はなくなるのでしょうね」
ヒューリーは顔を真っ赤にすると、小さく息を吐いた。
「可愛いこと言わないで。もう、こっちがどれだけ我慢していると思っているんだい?」
その言葉に、ステラは、やはりヒューリーは自分を早く食べたいのだなと思いながら、ふと思う。少しくらいかじられるくらいならば、いいのではないかと。
ヒューリーを我慢させるということが、ステラは少し罪悪感を抱いた。
「あの、少しだけなら……食べてもいいですよ?」
「はぁっ!?」
ヒューリーは目を丸くして、ばっとステラの体を反転させると、自分と向かい合わせに座らせて言った。
「そんなこと言っちゃダメだよ。ちゃんと我慢させて。正式に食べる日を楽しみにしているんだから!」
その言葉に、ステラ自身も驚き、そしてこくりとうなずいた。
「ご、ごめんなさい。そうなのですね」
「うん。そうだよ。私は一国の王子だからね。ちゃんとけじめはつけないとね」
ステラの頭をよしよしとヒューリーは撫でながら、少しだけ、拗ねたように呟いた。
「こっちの理性を試してさ……ステラは小悪魔すぎる」
「?」
きょとんと小首を傾げるステラを、ヒューリーはぎゅっと抱きしめながら大きくわざとらしくため息をついた。
「罪が深い聖女様だよ。本当にさ」
「ご? ごめんなさい?」
「うん。ステラ、一応念のために言っておくけど、他の男にそれ言ったら、怒るからね」
「はい」
素直にうなずいたステラに、ヒューリーは満足げにうなずきながら天を仰ぐ。
「父上が、穢れが落ちて本来の全力の力を取り戻したら、森全体を他から守るように結界を張る。それさえ終われば一安心なんだけれどね」
「そうですね」
人間の国と争うつもりはない。ただ静かに暮らしていきたいという魔物達の姿勢に、ステラは魔物とは人間よりもよっぽど理性的で優しい生き物なのだなと改めて思う。
そしてそんな国にこれて、本当に良かったと思うのであった。
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