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婚約破棄され捨てられた令嬢は、魔物の森で毛玉を洗う  作者: かのん


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九話 王城のお掃除

 目の前で黒く輝く腕輪を、ステラはじっと見つめると、呼吸を整え、それをゆっくりと手に取った。


 毛玉とは違い、どこか重苦しい雰囲気を感じるそれを、ステラは桶に入れられた水に浸し、丁寧に洗っていく。


 すると、黒い穢れの下からは銀色の美しい本来の姿が見え隠れする。そして磨き上げるようにして指で撫で上げ、やっと綺麗になったとステラが腕輪を台座へと置いたとたん、それは元の黒い穢れた腕輪へと戻ってしまった。


「これは……どういうことでしょうか?」


 ステラが首を傾げると、肩に乗っていたヒューリーが同じように首を傾げる。


「きゅ~?」


 もう一度ステラは腕輪を手に取り洗ってみるが、台座に置いたとたんにまたすぐに穢れに染まってしまう。


「何ででしょうか……」


「きゅー……」


 昔ガントーレ王国から贈り物として届いた腕輪は、穢れを纏い、その穢れによって城を黒く染め上げた。


 この城の穢れの根源である腕輪を一番最初にステラは洗いに来たのだが、いくら穢れを落としても、置いたらすぐに元に戻ってしまうのである。


 どういうことだろうかと思いながら、ステラは綺麗にもう一度洗った腕輪をじっと見つめ、そして今度は置くのではなく自分の腕にはめてみた。


 すると、腕輪は銀色に美しく輝くばかりで、黒く穢れることはない。


 ステラは腕輪を外して今度はヒューリーの頭の上に乗せてみた。


「きゅ~……ぎゅ!!」


 次の瞬間ヒューリーごと真っ黒に穢れに染まってしまい、ステラは慌ててヒューリーを綺麗に洗い流した。


「ご、ごめんなさい」


 綺麗に洗われた後、ヒューリーは人の姿になると、ステラに言った。


「大丈夫。……たぶん、城の穢れをひきつけてまたすぐに黒くなるのだと思う。……城の穢れがなくなればおそらく黒くなることはないのではないかと思うけれど……どういう仕組みなのかな? うーん」


「では、取りあえず私の腕に着けていてもいいですか? この腕輪から穢れが出てくるならば、城を掃除してもまた穢れで汚されそうなので」


「うん。ステラがいいのであれば、そうしてもらえると助かる」


「はい」


 自分には不釣り合いなほどに美しい腕輪なのに、いわくつきとはもったいないなとステラは思った。


 腕にはめてみると、そこまで重たくはなく、しっくりとくる。


「綺麗なのに、もったいないですね」


「気に入ったの?」


「えっと、はい。いわくつきではありますけど、こんなに綺麗な腕輪は初めて見ました」


 ステラの言葉に、ヒューリーはじっと腕輪を見つめながらうなずいた。


「そうだね。確かに見事な品だよ。こんなにも美しい物を穢れに染めるなんて人間って不思議な生き物だよね」


「えっと、そうですね」


 自分も人間なだけにステラは苦笑で言葉を返す。


 ステラはそれからエプロンをつけ、頭には三角巾を被り、手には雑巾を持ってヒューリーと共に城の掃除に取り掛かった。


 穢れは不思議なことに森の泉の水の方が落ちがよく、城の毛玉達が森の中を行き来して運んできてくれる。


 最初こそ意気込んで掃除していたステラであったが、いかんせん城の内部が広すぎて、まったく掃除が進まない。


「どうにか上手い方法はないものかな」


 ヒューリーの言葉に、ステラも考える。


「本当にですね。それに私、お城の屋根の上とかはさすがに手が届きませんし……どうしたものでしょうか」


「そうだねぇ」


 ステラとヒューリーは悩みながら、どうやったら効率よく掃除が出来るのだろうかと考えるようになった。そして数日をかけて二人は考えに考え抜いて、ある一つの方法に行きついた。


「本当にいいんですか? ヒューリー様」


「うん。良い方法だと思うんだよ。毛玉雑巾戦法」


「ふっ……」


 ステラは笑いそうになるのをぐっと押さえる。


 最初にヒューリーから提案された時には、そのネーミングセンスについ声を上げて笑ってしまった。


 しかもその方法と言うのが、本当にその名の通りなのである。


 ヒューリーは毛玉姿に変わると、泉の水にぽちゃんと入りそして穢れに染まった床に転がった。


 真っ白な毛玉がごろごろごろと転がっていく姿は、とても可愛らしいのだが、転がれば転がるほどに白かった毛並みが真っ黒に染まっていく。


「きゅ~」


 そして床が綺麗になったのと引き換えに、ヒューリーは真っ黒に染まった。ぴょんぴょこと戻ってきたヒューリーをステラは綺麗にまた洗い穢れを落とした。


 ヒューリーは人の姿に戻ると、瞳を輝かせてステラに言った。


「ほら、上手くいった。これなら皆で手分けしてすれば、掃除も上手くいくんじゃないかな」


「たしかにそうですね。ですが、大丈夫ですか? 穢れて気分が悪いとかはないですか?」


 心配し手を伸ばしてくるステラに、ヒューリーはその手をぎゅっと握ると、頬に当てて嬉しそうに微笑みを浮かべた。


「心配してくれるの?」


「え? は、はい」


 とろけるような微笑みに、ステラは一瞬でかっと顔を赤らめる。


 手が熱い。


 その手にヒューリーはちゅっと口づけて言った。


「ステラが洗ってくれるなら、私は大丈夫だよ。他の皆だって、城が綺麗になるなら協力してくれるさ」


「そ、そうですか」


 意識しないように、そうステラは一生懸命に思うのだが、ヒューリーの瞳はじっと自分を捕える。


 自分はいつか食い殺されるのだ。だからヒューリーは自分にこんな瞳を向けるのだと頭の中で言い聞かせるが、ステラは顔がほてってしょうがなかった。


「……可愛いなぁ」


「ヒューリー様! からかわないで下さいませ」


「うん。ごめんね」


 手をすっと離され、それが寂しいような気がしてステラは頭を振る。


 その様子をヒューリーはまた見て、楽しそうに微笑みを浮かべた。


 それから一か月ほどをかけて、ステラは毛玉達と共に城を綺麗に磨き上げていった。


 毛玉達が大量に床や天井を転がっていく姿は見ていて可愛らしい。


 真っ黒になった毛玉達をステラは綺麗に洗い、そしてまた毛玉達は転がっていく。


 穢れによって黒く染まっていた城は、今では輝く様な美しい白銀の城へと変わり、最後の穢れを落とした瞬間毛玉達は喜び、皆ぴょんぴょこぴょんぴょこ飛ぶものだから、地面が揺れた。


「ステラ。ありがとう」


「いえ、皆さんのおかげです。私だけだったら、屋根には手が届きませんでしたから」


 ぴかぴかになった城を庭から皆で見上げ、ステラはこんなにも美しい城だったのだなと嬉しく思った。


 王城の庭も今では美しい色とりどりの花が咲きほこり、噴水もキラキラと美しい澄んだ水が流れている。


 その時、国王レルドが王城内より一通の手紙を持って現れた。


「ステラ、ヒューリー。話があるんだが、今時間はいいかな?」


 一体何だろうかとステラは小首を傾げた。




 

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