第3話 帰り道
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5月11日水曜日
翌日、
『雪緒ちゃんとはもうあそばないんだよねー』『だってこいつどんくさいだけだもん』『だよねー、あはは』
そのような会話が昌の耳に入ってきた。
別に聞き耳を立てていたわけではないが、ボッチゆえに休み時間は周りの話し声が否が応でも耳に入ってくるのだ。
クラスメイトたちがぞろぞろと連れ添って教室から廊下へと出ていく。
それを見送ってから雪緒が自分の席へと戻り、すんっと座る。
別に怒っているでも泣いているでもない。
ただぼーっと黒板の方を眺めていた。
いや、どういう感情だよそれっ。
横目でそれを見ていた昌は心の中で突っ込む。
こうして八重樫雪緒はいつもの輪から呆気なくはみ出てしまった。
放課後、もうひとつ変化があった。
帰り道を歩いている昌はその足を止める。
「……」
ちらり。
肩越しに振り返ると、そこには雪緒の姿があった。
のけ者にされてしまったため彼女もひとりだ。
昌とは数メートル離れたところで雪緒がこちらを窺っていた。
「……」
昌は無言で数歩進んでからまた足を止める。
すると、彼女も同じように止まった。
すたすた。ぴたり。
すたすた。ぴたり。
振り返るとやはり雪緒の姿があった。
そう、なぜか彼女は昌の後についてくるのだ。
試しに歩調を緩めてみるが、雪緒が抜き去ることはなく一定の間隔で後ろにいる。
気のせいじゃないよな……。
今度は少し歩くスピードを速めると、
「えっほ……えっほ……っ」
雪緒は掛け声をかけながらそれにも合わせてきた。
そこから急速反転。
すると、楽しそうに「ふひひ」と笑っていた彼女も慌ててブレーキをかけた。
「なに? おれの後ついてきてない? なんかようじでもあるの?」
「え? え? あの……」
面食らってもごもごとしながら指をいじっている雪緒。
そんな彼女が口を開く。
「……つ、ついてきてない。帰り道が同じ方向なだけ」
マリオカートの赤甲羅もびっくりなくらい追尾してきていたのにこの言い分だ。
カチン。
昌には本当にそんな甲高い金属音が頭の中から聞こえたような気がした。
「あっそ」
踵を返してまた早歩きで進み始めた。
それに合わせて雪緒も後を追いかける。
数分後、二股の道に出たので昌はまた振り返ってぶっきらぼうに彼女へと尋ねる。
「どっち?」
「え? え……?」
「だからどっちにいくんだよ」
昌は左右の道を指さした。
彼女はそわそわとしながら自分を指さしている。
「ユキヲ、が?」
「そう」
彼女は「うーんと、えーっと」と逡巡している。そして、まるで自信がないテスト問題を答え合わせるすように言った。
「こ、こっち……?」
向かって左の道。
それは昌がいつも使っている正規の下校ルートだ。
反対側の道はぐるっと大回りになってしまうので雪緒の答えはある意味正しいと言えよう。
しかしこれはクイズでもなぞなぞでもない。
「そうか。じゃあおれはこっちから帰って回り道してくから。べつべつだな」
「え? ……」
「たまたま帰り道が同じだっただけだったよな?」
「あ……」
「おれのあとについてきてないんだもんな?」
「う、うん」
つい今しがた自分で言ったことだ。
雪緒が選択した道をとぼとぼと歩いていく。
ふん、成敗!
彼女の少し煤けた背中から視線を切り、昌は反対側の道を行くことにした。
しかし程なくして。
――ばたばた。
ばたばたばたばた。
後ろから慌ただしい足音が近づいてきた。
「ん?」
昌が振り返る。
まさかというかやはりというか、その音の主は雪緒だった。
「なんだよ。お前はあっちの道って約束だろ」
「ユキヲいったよ! でんちゅーまで!」
「は?」
「しかもにほんさきのでんちゅー!」
人差し指と中指を立てた手をずびしっと突き出してくる。
どうやら反対側の道を少し進んでからこちらに来たと言いたいらしい。
なんなの、こいつ。
何のためにおれがわざわざ遠回りしたと思ってるんだよ。
意図していないと思うが突き出した手がブイサインに見え、それがまた昌のイライラした感情に拍車を掛けた。
「アホか! もう知らん!」
「え? え? あ……」
肩を怒らせずんずんと速足で進む。
それに雪緒が続いた、先ほどよりもちょっとだけ近づいて。
結局、彼女は最後までついてきていた。
昌の住んでいる部屋は2階にあるので錆びた階段を上がっていると、アパートの門の前で佇んでいる雪緒と目が合う。
「……」
「……」
ユキオがなかまになりたそうにこちらをみている
なかまにしてあげますか?
「答えはいいえ、だな」
昌はそう独り言ち、玄関のドアを閉めた。
最後まで読んできただきありがとうございます。
続きます。
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