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8.デートの日の朝の訪問

「アイリス、今日は出かけるのかい?」


 レオンとデートの日の早朝、ソルが突然、寮にアイリスを訪ねて来た。誰もいない学生寮のロビーで、ソルと二人、ソファーに隣同士で座って話をすることになった。


「う、うん。エリーゼたちと、街でお買い物しようって、昨日の放課後に突然、そんな話になったの。ソルには伝えていなかったわね、ごめんなさい。」


 レオンと出かけるとは、口が裂けても言えない。そんなことを知られたら、ソルが烈火のごとく怒る姿が目に見える。やっかい極まりない。


 あとで、エリーゼと口裏を合わせておこう、と思いつつ、隣に座るソルをみつめた。


「そうか、実は急遽、呼び出しがあったので帝都に行くことになった。泊りがけだから、1週間は留守になると思う。その間は会えないから、顔だけでも見ておこうと思って来たが・・・。」


 ソルは、身体の向きをアイリスの方に向けると、その両手を包み込むように、握ってきた。普段よりも、距離が近いような気がする。レオンのことがバレないようにと思うと、背中に冷や汗が流れる。


「そうなの、帝都に呼び出されるなんて、何かあったの?」


「いや、何かはわからないのだが、私を指名しているから、サルベニア領に関することかもしれない。まぁ、行ってくるよ。アイリスの予定は?」


「今日と明日は、学園も休みだから、買い物が終わったら寮でゆっくりしているわ。卒業すると、なかなか会えない友達もいるから、今日は出かけるのが楽しみなの。」


 卒業を目前とした最終学年の生徒は、授業が全て終わっている生徒もいる。アイリスも、最終課題を提出しているので、卒業は問題ないだろう。


「普段であったら、一緒に行けるのだが・・・街歩きといっても、気を付けるように。」


「ソルが一緒だと、エリーゼ達も緊張してしまうわ。大丈夫よ、いつもソルが連れて行ってくれるようなお店に行くだけだから。私よりも、ソルの方が気を付けてね。いつも心配してくれて、ありがとう。」


 エリーゼと出かける、なんて、ちょっと嘘をついてしまったけれど、ソルが仕事で帝都まで行くとなれば、レオンと街にいても、バレることはないだろう。


 ソルはなぜか、レオンを殊の外嫌っている感じがするから、特に知られたくない。


「でも、今日のアイリスはいつもと違うね。・・・可愛いよ。エリーゼに妬けてしまうな。次に私と出かける時にも、可愛くしてくれるかい?」


 今日の私は、いつも左右で三つ編みをしている髪を自由にして、サイドを細く編み込んでいた。髪を下すこと自体、私にしては珍しい。さくらんぼ色の髪が、ふわふわと舞っている。


 気分転換のついでに、髪の色にあわせて濃いピンクのワンピースを着ていた。あまり高くない背のわりには、ちょっと発育のいい胸が目立たないハイウエストのラインが入っている。


 スカートの丈は、制服よりちょっと長めだ。歩くことを考え、長めのロングブーツにした。


 ぱっと見は、街に出かけた、ちょっといいところのお嬢さん、という雰囲気でまとまっている。あと万一、戦闘に巻き込まれても、これなら最低限は動きやすい。


 普段は学園の制服か、ホットパンツの冒険者スタイルが多い。レオンに「可愛くしてこい」なんて言われたのを意識した・・・わけではないけれど。可愛いと言ってもらえると、やっぱり嬉しい。


 ちなみに妖銃アレンは、私の太ももに装着してある。これは可愛くないのかもしれない。


「わ、私だって、たまにはオシャレしてみたいっていうか。」


 ソルが、握っている手を緩めて、片方の手をそっと、アイリスの頭の後ろを支えるように、髪を撫で始めた。


「アイリス、私がいなくても、寂しくならないように。」


 ソルはそう言うと、いつもの別れの挨拶の時のように、アイリスの顎を上に向け、その唇に自身の唇を重ねた。


 ただ今日は、いつもと違って下唇を、そして上唇を食べるように、唇を求めてきた。初めてのことで、アイリスは驚いたが、ソルの手に頭を支えられ、動かすことができない。


 啄むように、ソルは何度も唇を重ねてきた。


「ソ、ソル!」

 

 どうして今日はこんなにキスが長いのだろうか。よくわからない。嘘をついている、という状況に重ねて、ソルからの執拗ともいえる口づけに、動揺した。


 そして、ようやく長い口づけが終わった。


「アイリス、私がいない間、寂しくなったらこのキスを思い出すこと。いいね、では、行ってくるよ。」


 そういって、満足そうな顔をしたソルは、出口の方へ向かっていった。


 レオンといい、ソルといい、それまでの関係を変えるような、距離感で迫ってくる。


 赤の日を前に、みんなが何かを意識して、何かが動き始めたような。アイリスは普段とは違う雰囲気を感じた。


 不安になると、いつもアレンを触ってしまう。今も、無意識のうちにアレンを触っていた。

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