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7.赤の日のアンケート調査

 卒業課題も概ね提出し、残りの学園生活をのんびりと過ごしていたその日、一枚の紙が18歳の学生に配られた。1か月後の『赤の日』のための、アンケートである。記入したことが全て叶えられるわけではないが、想っている相手がいる場合、考慮してくれるという噂のあるものだった。


「アイリス様にも、アンケートが来ましたか?やっぱりお相手のお名前は、ソルディーエル王子ですよね。」


 同じクラスの、私の数少ない友人であるエリーゼ嬢が、話しかけてきた。私よりも背の低い、ふわふわした彼女は、旧王国の侯爵令嬢である。もちろん、ソルと私が結婚し、旧王国のシンボルとして、心の支えとなることを待ち望んでいる。


「そういうエリーゼは、どうするの?」


 答えたくない質問には、質問で返すことにしている。


「私は、特に想っている相手もおりませんし、帝国の貴族子息と組み合わされるでしょうから、開き直って楽しみにすることにしましたわ。」


 旧サルベニア王国の上位貴族の令嬢である彼女は、大抵サザン帝国の貴族と婚約し、多分、遠い領地へ嫁入りすることになるであろう。卒業=赤の日で、私たちは別れることになる。別れることは悲しいけれど、元々の原因は王国が敗けたからだ。


「エリーゼ、遠くに行くことになっても、友達でいましょうね。」


「アイリス様とソルディーエル様がいらっしゃれば、遠く離れていても、心の故郷として想っていますわ。」


 友人であっても、彼らは私を旧王族の一員として自然に敬っている。それが当たり前であるかのように。それがいかに帝国にとって危険思想と思われているか、気づかない。


ただ、彼女の子どもの代になれば、旧サルベニア王国への想いは薄れ、帝国へ忠誠を誓うであろう。そうして、帝国は領土を拡大してきた。


「アイリス、お前にもアンケートが来たのか?」


 エリーゼも帰り、誰もいなくなった夕暮れの教室で、レオンが声をかけてきた。


「ええ、来たわよ。あなたも帝国の皇子といえども、赤の日には参加するのでしょ?」


「まぁな。強制参加だな。」


「あなたもアンケートは届いたの?でも、この紙に書いたことが、どこまで参考にされるのかしら。結婚したい人の名前とか、タイプとか。結婚したくない相手、なんて、私には書ききれない程いるわよ。なんなら全ての男性、って書きたいくらい。」


 私の諦めにも似たつぶやきを聞いたレオンは、いつもの冗談交じりの顔ではなく、その赤い眼で真っすぐ私を見てきた。気が付くと、壁を背にした私に、レオンは腕を伸ばして私の顔のすぐ横に手をついた。そして周囲に聞かれないよう、でも押しの強い口調で話しをした。


「アイリス、アンケートは、俺の話を聞いてからにしろ。」


 いつもの命令口調だけど、今日は真剣度が違う。壁ドンしながらなんて、ズルいと思いつつ、私はちょっとゾクッとして、返事をした。


「―――わかったわ。私、何書いていいのかわからないもの。期限まで、提出しないから。」


 そう答えると、レオンは顔を緩めて、いつものように揶揄う口調で話してきた。


「そうだお前、この前の魔蔦のお礼、パンツはもういいから、明日俺に付き合ってデートしろ。レオンハルト第7皇子の命令だ。」


 ちょっと意地悪な感じで笑いながら誘うレオンを見て、私もつられて笑ってしまった。デートとか、そういうことはとりあえず、今は楽しめばいいかな、と思い始める。レオンとこうして出かけることも、赤の日でお互いに相手が決まれば、もう難しいと思うし。


「わかった、いいよ。デートしよう。うん、気分転換になるかもね。じゃ、よろしく。1日限定の仮彼氏だね。」


 私が冗談半分でそういうと、レオンは私の遊びに付き合ってくれるように、答えた。


「じゃあ、今からお前は俺の仮彼女っていうことで。待ち合わせは広場の噴水で。可愛くして来いよ。」


 そういうと、おでこをピンと指ではじいた。ニカっと笑った笑顔に、思わずドキッとしてしまう。レオンはそう言い放つと、振り返らずに急ぎ足で教室を出て行った。


 レオンと休日に会うのは珍しい。変態皇子と二人きりになることに、ちょっとした恐怖を感じたが、今日の様子からすると、それほど変なことを考えているようには思えない。


 アンケート用紙を見て、近づいてくる『赤の日』を思い出し、少し憂鬱な気持ちになっていた私だったが、気分を切り替えようと教室を出ていった。


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