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6.運命の赤の日を待つ

「ソル兄さま・・・でも、帝国の赤の日にならないと、何もわからないわ。今は、何も約束できないのは、わかっているでしょ。」


 今、私はソルの婚約者ではない。王国がなくなった後、王族と上位貴族の間にあった約束、婚約などは、全て白紙となった。


 帝国は、容赦なく属国とした国を解体させ、緩やかに帝国へと帰属させるような政策を敷いていた。その代表が、『赤の日』と呼ばれる婚姻制度だ。


 『赤の日』、それは18歳となった王族・貴族の男女が集められ、婚約者を帝国が選定する。平民は基本的に対象とならないが、優秀と認められた帝国高等学園の卒業者などは、強制的に参加となる。


 支配層、エリート層を、帝国が支配するための施策。非常に評判は悪いが、家柄、性格、そして体質なども考慮され、相手が選定されると言われている。


 『赤の日』に選ばれた相手と2週間後、合同婚約式を行い、20歳になるまでに各自で結婚式を行う。それに従わない者は、帝国への反逆とみなされ、辺境での強制労働の対象となる。


 もちろん、貴族としての権利や、それまで努力して得た教育、地位なども全て取り消される。ようするに、強制集団結婚制度である。


 属国となった地域の貴族は、基本的に帝国の貴族と組み合わされる。そうして、属国内での貴族間の結びつきを断ち切り、緩やかに帝国の支配に組み込まされていく。


 ただし、赤の日に18歳となる者であっても、事前に申請すれば2回まで延期することができる。ソルは、その権利を行使し、これまで2回、参加していない。


 そして、今年は18歳となった私と組み合わさることができるよう、待っていた。


「アイリス、確かに赤の日に選ばれる相手は、帝国の中央から指定されるけど、制度というのは何事も例外がある。私たちは、サルベニア王国の王族だ。国民は、王太子であった私と、スイレン姫と呼ばれる君が結婚することで、国の象徴である僕たちに希望を持ち続けることができる。」


「それは、帝国を刺激することではないの?それに、王族といっても、属国の出身者は帝国の人と組み合わされる決まりだ、と聞いているけど。ソルと私では、属国同士になってしまうわ。それも、かつての王太子とその婚約者なのよ。」


「アイリス、愛の力は制度を超えるよ。」


「・・・ソル兄さま、答えになっていない。」


「ん?まぁ、無理っぽい話かもしれないけど、障害があるほど燃え上がると思わないか?」


 そういって微笑んだ後、歩きながらソルはアイリスに説明した。


「心配しないで、アイリス。帝国は、属国とした領土の人民から、全てを取り上げない。私たちは、いわばシンボルだよ。このサルベニア国民にとって、希望の光として、重要な夫婦になる。今後の統治のしやすさを考えても、帝国は私たちを夫婦とし、国民を安心させる施策をとるよ。大丈夫、私の可愛いアイリス。」


「・・・でも、私は妖銃使いよ。」


「アイリス、王族としての責任も、考えないと。まぁ、まずは婚約式からかな。」


 以前、女は地図が読めなくて、男は話を聞かない、という言葉を聞いたことがある。ソルはまさしく私の話を聞いてない。私を尊重しているようで、妖銃使いである私の希望を意識して、わざと話をすることを避けている気がする。


 結局、ソルにとって私はいつまでも8歳当時の、守る対象の姫と思われている。守り、愛し、可愛がる。


 それが心地いいといえば、いいけれど、それでは妖銃使いとしての私はどうなるのだろうか。


 私は守られるだけの対象ではなく、必要があれば攻撃し、大切な人を守りたい。それが、ソルのいうところの国民が大切な人であるならば、その役目を果たそうとも思う。


 が、今やサルベニア王国は滅び、私はサザン帝国に生きている。


「結局、赤の日の結果次第だと思うけど。―――私、これからもソル兄さまと一緒に生きていくのかな。」


 私は近い将来、ソルと結婚することになるだろうと自然に思っていた。愛している、とまでは言えなくても、小さなころから身近な存在で、ソル以外のだれかと結婚することを考えられなかった。


 好意はある。だから、結婚すれば、この思いも愛になるのかもしれない、そう思っていた。


 学生寮の門のところに来ると、ソルは、そっとアイリスの顎をもって上を向かせた。


「アイリス、そろそろ兄さま、は卒業かな?さぁ、ソル、と呼んで。」


「・・・ソル。」


「ん、よくできたね。」


 アイリスの唇に、自身の唇をそっと重ねた。いつからだろうか、さよならの挨拶として毎回、触れるだけの口づけを求められていた。


 ふと、レオンの唇を思い出した。ソルとは違い、ちょっと乾いていた唇だったな。


 キスをしながら、他の男とのキスを思いだす―――それが、いかに相手を傷つけることか、思い至ることのできないほど、恋愛経験の少ないアイリスであった。


 唇を離したソルは、いつものように笑顔を見せて、帰っていった。夕日を背にしたソルの後ろ姿を見ながら、その時はまさか、自分が誰と婚約したいのかを悩むことになるなんて、想像もしていなかった。


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