47.伝記に記されている。
妖力も、妖銃も、奥が深い。
私はドクター・アイリスとして、凄腕の外科医として有名になりつつあった。
「レオン、私、妖力を扱うことのできる人を、きちんと育成する学校をつくりたいと、思っているのだけど。」
最近、私の医療妖銃使いの弟子入り希望者が、殺到していた。なるべく断っているが、中には妖力を持っている者もいた。普段、妖力があっても、大したことはできない。でも、その妖力を有効に使えることができるなら、有効に使いたい。その想いは、同じ妖力を持っている私にも理解できた。
ただ、妖力自体が珍しいのと、特に何か大きなことができるわけではないので、研究もされていない。私が妖銃使いとして、医療方面に開発したのも、初めてのことだ。
だから、研究所と養成を兼ねた学校を作りたい、という思いを、レオンに伝える。スポンサーの協力がないと、これはさすがに出来ない。
「う~ん、資金が問題だな。」
レオンも、アイデアは支持したいが、やはり資金がないと運営できそうにない。医療妖銃使いを、もっと育成したいが、これも個人の技量によるところが大きい。サボも優れた妖銃使いであるが、私のように、妖銃を医療目的に使うことは、さすがにできないと言っていた。
「何か、売れそうなものでもあればな・・・」
売れるもの、売れるもの・・・そういえば、以前、レオンが貴石に魔力を付与するのを見て、妖力を何かに付与できれば面白いのに。と思ったことがあった。
「そうだ!レオン、妖力を付与してみよう!そうすれば、おまじないアイテムとして、売れるかも!」
突拍子もない話でもあるが、探してみよう。何か、できるかもしれない。
ふと、以前ワインに妖力を流したら、スパークリングワインになったことを思い出した。
「ワインだ!レオン。ワインとか、アルコールがいいかも。」
早速、いろいろなアルコール飲料を試してみる。エールにウイスキー、ウォッカなど・・・でも、一番相性がいいのは、やはりスパークリングワインだった。
「レオン、できた!スパークリングワインになら、付与できたよ!」
嬉しさのあまり、愛する旦那にまず、実験台第1号になってもらう。
「これを一口飲むんだな。」
「そう、グイっと。一気に。あと、私のことを想いながらね。」
「アイリス、アイリス、っと。」
レオンは一気に飲み切った。ちょびっとだけど、アルコールが入っているので、子どもは飲めない。
「どう?」
「ん~、どうといっても、何とも。」
「そっか、すぐに効果はでないのかな。」
と、そう話していた私たちは、商品化できるのか、するとしたら大きさは、とか、違うことを話していた。
ふと、寝室にあった小瓶のことを、思い出す。そういえば以前、導眠剤が小瓶に入っていた。あれなら、大きさもちょうどういい。レオンと二人で確認に行くと、ベッドのヘッドボードのところに、それはあった。
「あ、あったよ。レオン、これこれ。」
探し出した小瓶を渡そうと、ベッドから降りようとしたら、反対にレオンはベッドに近づいてきたところで、突然滑った。ツルっと滑ったレオンは、「わぁっ」と言って、私の上に重なるようになった。
はずみで、チュッと唇が重なる。
「・・・」
「レオン、重い。」
「・・・」
「レオン?」
「効いている。」
「へ?」
「妖力、効いてる。」
「え?効いてるの?スパークリングワインの、妖力効果?」
「うん、実は、キスと、もうちょっと先のことを祈った。」
「へ?」
いつまでも、ベッドで私の上にいるレオンは、私の目を見つめながら、話してくれた。
「俺たち、結婚して3年たったな。」
「そうね。3年もたったね。」
「お前は、医師免許をとるため、忙しかったな。」
「そうね。2年もかかったね。」
「その後も、医者として忙しかったな。」
「そうね。遠くにも呼ばれたよね。」
「その間・・・子ども、我慢したよな。」
「そうね・・・。」
話の方向がなんだか怪しい。
「せっかく、落ち着いてきたと思ったら、今度は学校だとか、おまじない薬とか、また忙しそうだな。」
「そうね・・・。」
「ソルディーエルのところ、3人目を妊娠中らしいぞ。」
「・・・」
言葉がでない。ソル兄さん、頑張ってるね。
「もう我慢できん!アイリス、好きだ!大好きだ!」
何か、スイッチが入ってしまった。レオンはそう叫ぶと、妖力のいたずらの、その先を進めてしまった。
今日はもう、仕事にならないか。まぁ、それもいいか、と私は開き直る。
◇◇◇◇◇
その後、私は「ドクター・アイリスの恋のおまじない100%」と、「ドクター・アイリスのちょっぴり☆イタズラ 3回に1回は自分に返ってくるよ!」の二つを開発した。
恋のおまじない薬は、恋する相手のことを想って飲むと、3回妖力が働き、恋が成就する手助けをする。ちょっぴり☆イタズラは、妖力らしい、ちょっぴり復讐できる薬。ただし、悪用されても困るので、3回のうち1回は、自分がかかるようにした。そうすれば、無茶なことを祈らないはず。
イタズラ薬の実験台第一号も、やはり愛する旦那様だ。
「アイリス、これ、飲まないとダメか?」
「うん。でないと、実証できない。」
「でも、3回に1回は、自分に返ってくるんだろ?」
「そうなの、イタズラ薬だけど、相手にイタズラするだけじゃ、面白くないでしょ。それに、どれか一つは自分に返ってくるから、イタズラの内容も、可愛くなると思うし・・・。ダメ?」
「いや、お前にイタズラするのか。―――そういえば俺、いままで散々されてきたよな。お前の妖力で。」
「え?そうだった?」
あまり思い出してほしくない。妖力は、ちっちゃいことしかできないが、割と嫌なことができる。鼻毛が伸びるとか、1円ハゲとか・・・
「これ、夜のイタズラにも使えるのか?」
「ええと、それは・・・どうかな?」
変態皇子が、目を覚まし始めた。これは永遠に眠っていて欲しい。
「じゃあ、イタズラの内容を予め、リストにしておくとか。何もないところでコケるとか、黒板消しが頭の上に落ちるとか・・・他には?何かある?」
いざ、イタズラといっても、なかなか思い浮かばない。
「目隠しするとか、手足を縛るとか、鏡を持ってくるとか・・・」
それはイタズラなのか?レオンの発言は、とりあえず無視しておく。
「とにかく、飲んでみて、実証してみよう!妖力のできることは、ちっちゃいから、楽しまなきゃ!」
「そうだな、今まで俺に散々してきたんだから、少しは自分も思い知るがいい。」
そう言って、レオンは私の名前を呼びながら、小瓶の薬を一気に飲んだ。
どのイタズラが私に起こったかは、内緒にしておこう。レオンには・・・次の日の朝、ベッドにごそっと髪が抜けていて、1円ではなく、10円ハゲができていた。うう、ごめんなさい。
こうして半分、お遊びで作った薬が、その後大ヒットし、帝国のみならず、外国でも流通するようになった。
レオンいわく、恋のおまじない薬は、恋に悩む女の子よりも、独身男性の方に爆発的に売れているらしい。いわゆる「ラッキー・スケベ」が頻発するようだ。どうしよう、変態薬をつくっちゃったのかも。
でも、いいや。これで妖力が知られるようになれば。その方が嬉しいかな。それに、この薬はフォートレイ領の新しい産業となって、若者の働く場となってくれている。
おかげで、資金も十分に集まった私は、帝国初の、妖力研究所と兼ねた、妖銃使い養成学校を設立した。サボには、妖銃使いの講師になってもらいたいけど、やっぱり難しいかな。フラッと来て、フラッといなくなる先生じゃ、ダメだよね・・・ははは。
ドクター・アイリスは、「切らない稀代の外科医」という名と共に、「ピンクの小瓶の女王」としても、後世に名を広めた。
その彼女がかつて、可憐なスイレン姫と呼ばれていたことや、スイレン宮を焼いた張本人であることは、あまり知られていなかった。後に、彼女の伝記が出版された時、その事実に衝撃を受けた者は多かった。
フォートレイ辺境伯とその妻は、その穏やかとは言えない生涯を、睦まじく共に過ごしたと、伝記に記されている。
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