44.また、アイツに絡まられる私。
結論を言うと、私たちの冒険者としての旅は、1年も経ず終了した。私が弱すぎたのと、新しい目的ができたのと、・・・あと、レオンがいろいろと我慢できなくなってしまったから。
きっかけは、やっぱり魔蔦だった・・・。
「いやぁぁぁ!また捕まった!ダメ!こないで!絡まないで!」
ダンジョンを目の前にした、鬱蒼とした森の中で、私は宙ずりになっていた。仕掛けのように、一気に絡まって来た魔蔦は、私を空中で縛り付けている。
ギリ、ギリと絞めつけてくる魔蔦は、前回のように透明な液体とトロリと出していた。また、違う蔦は先の方に薔薇の棘のような、突起がついていた。それが、私の肌を切り裂く。
「うう、・・・痛い。」
マズイ、非常にマズイ。今回はダンジョンにも入っていない。レオンは先に行って、調べてくるから待っているように、と言われて大人しくしていたのに。
ふと、前回のようにピアスを触ることができれば、レオンを呼べることを思い出す。
「ピアス・・・耳、耳に触れることが・・・できな~い!」
人生、何事も思うようにいかない。何故か前回の魔蔦より、進化している気がする。触り方のいやらしさが、ハンパない。特に、胸のところや、首筋を念入りに撫でてくる。レオンが乗り移っているようだ。
液体は既に、私の防具の下の服を、粗方溶かしてしまっていた。さすがに胸当てや腰につけていた鎧は、溶かされずに、そのまま私が裸体になるのを防いでいるが、所々出てしまっている。いろいろとマズイ。
そして、たまに棘のある蔦が、ピリリと私の肌を傷つける。決して致命傷となるような傷や、血を流させない。だが、痛い。
このままでは、アレンを取り出すこともできない。ファイアを使うか、でも今の私の魔力は、以前より大きい。コントロールが下手な私が使うと、それこそ全身火傷になりかねない。・・・うう、マズイ。
「レオン、レオン、助けて~!」
私は悲鳴にも似た叫びを、森中に響かせた。結局、嫌な予感がしたレオンが戻ってきて、私のあられもない姿を発見する。
「ちょっ、お前!なにまた捕まっているんだ!よりによって、そいつはSM淫魔蔦だぞ!」
レオンは一瞬で、私を魔蔦から引き離してくれた。ちょっと棘がささっていたみたいだけど、私の方が重症だ。
「はぁっ、はぁっ、レオン・・・痛い・・。」
身体中に痣ができ、肌が切れていた。私は自分の意識を、手放してしまった。
◇◇◇◇◇
目が覚めたら、宿屋の天井が見えた。痛みは無くなっているから、レオンが治癒魔術を使ってくれたのだろう。でも、まだ痣や切り傷の痕が、生々しく残っていた。
「お、目覚めたか。少し、水を飲むか。」
上半身を起こして、コップに入った水をゴクリと飲む。――よかった。私、生きている。
「悪かったな、お前を一人にしてしまって。あそこなら、まだ大丈夫と思っていたけど。」
レオンは、少し顔を伏せながら、私に謝ってくれた。
「レオン、私が不注意だったからだよ。それに、弱いし・・・。」
「いいや、お前が弱いのは魔蔦だけで、他の魔物は退治できているだろぉ。大丈夫だよ。次からは、俺が守るよ。」
そういうと、レオンは防具の強化をしなくちゃな、とか、魔蔦除けを強化するか、とか。いろいろと話始めた。
私は、以前から考えていたことをレオンに話すことにした。いい機会だ。
「レオン、私、冒険者を辞めようと思う。」
「・・・アイリス。」
一瞬、沈黙が訪れる。
「私、この半年で、理解したというか、気が済んだっていうか。冒険者に向いていないよ。半年経っても、魔蔦に捕まるくらいだよ。」
「それは、俺が・・・」
「レオン。私、一人で自分を守れないようでは、冒険者は務まらないって、わかってる。いつまでも、レオンに甘えてばかりでは、いけないと思うし。その前は、サボ師匠に甘えていただけだよ。」
訓練していた魔窟の森を思い出す。あの時も、私はサボ師匠に守られていた。
「だから、もう、冒険者は引退する。レオン、どうかな。」
「俺は、お前が納得できたのなら、それでいい。」
そう言うと、レオンはそっと私の頭を撫でてくれた。
「よく、頑張って来たな。」
胸の奥から、苦い思いがこみ上げてくる。小さな頃からの夢だった、冒険者を諦める。その決断は、私にとって小さなものではなかった。
大粒の涙が、両方の瞳から流れる。嗚咽が漏れる。レオンは、そっと私の頭を、彼の胸に引き寄せた。
「うっ、うぅぅぅ・・・」
「俺がいるよ。大丈夫だ、いつまでも泣いていい。」
そうして、レオンは私を抱きとめながら、そして髪を撫でてくれた。そして泣き止むまで、長い時間待ってくれていた。
◇◇◇◇◇
「レオン、ありがとう。もう、大丈夫だよ。」
気が済むまで泣かせてもらった私は、気持ちを切り替えることにした。
「わかった、スープを持ってくる。」
階下の食堂へ、食事をとりにいってくれたようだ。お腹もすいてきたので、ちょうど良かった。少しベッドから降りようと思ってふと、自分の着ているものをみた。
あれ?私、確か、鎧で、他の服はすごい溶けちゃっていて・・・でも、今は鎧なんてつけていないし、胴長の寝間着を着ている。下着も、パンツははいているようだ。・・・誰が着せてくれたのだろう。身体もべたついていないし。後で、レオンに聞かなきゃ。
スープを持って、部屋にレオンが戻って来た。早速聞いてみる。
「レオン、私、魔蔦に襲われた後、かなりひどい姿だったと思うけど、どうしたの?」
「う、それはだなぁ。とりあえず、気を失ったお前に治癒魔術をして、マントにくるんでこの宿屋に戻った。あとは、俺が・・・」
「レオン。ええと、きれいに身体を拭いてくれたのは、レオン?」
「ああ。」
「全身?」
「はい。」
「服、全部だめだったよね・・・」
「はい。」
ちょっと睨むと、レオンはお手上げとばかり両手を挙げた。
「触っていない!ちょっと触ったけど、いやらしく触っていない!大丈夫だ。ちょっと見たけど、ちょっとだけだ!」
「ちょっとって。もう。」
「ゴメン。もう見ないし、触らない。」
「え?もう触らないの?婚約してるでしょ。私たち。」
しょんぼりしていたレオンは、この一言で何かスイッチが入ってしまったようだ。その後は怒涛の勢いで、「冒険者を辞めるなら、結婚だな!」と、一気に結婚の準備に入ることになってしまった。




