42.合同婚約式
今夜は、月が美しい。
今夜は、合同婚約式が開かれている。私は、赤いドレスを着て、レオンハルト皇子の隣にいる。
昨夜の、スイレン宮の火災が落ち着いたのは、私が目を覚ましたのと同じ、夜が明ける頃だった。燃え尽きた宮殿跡は、多くの国民にサルビア宮殿の崩壊の日を、思い起こさせた。
王制復古派の人々も、サルベニア王国の息吹が色濃く残っていて、歴史が詰まったスイレン宮が焼け落ちてしまった。その為、その勢力も気力も削がれたのか、勢いを無くしたようだ。
「レオン、よかった。貴方の隣にいられて、嬉しい。」
「俺もだ。って、イテェ・・・」
レオンは昨日の喧嘩、いや、サボとの戦闘の結果、身体中が切られ、ついでに腕も折られていた。今は、美しい正装のはずが、骨折のために腕をつっているし、額にも包帯を巻き、痛々しい姿だ。ソルも、同じようなものだった。
注目の王子と皇子が、二人揃って包帯姿である。何かあったと勘繰る人も多い。痛々しい視線を感じるが、今夜は合同婚約式だ。
そして、ソルは、無事に今夜、出席できるようになったララクライン様と一緒に、会場に来ていた。彼が事件の首謀者であったことは、どうやら伏せられているようだ。一番の被害者であったララクライン様の希望は、ソルの隣に立つこと。それが叶った今、きっと許しているのだろう。
金色のドレスが、神々しいほどに輝いている。そのお顔も、幸せな気持ちが表に現れていた。
「ソル、いえ、ソル兄さん。―――それと、ララクライン様、大丈夫ですか?」
これからは、ソル兄さんと呼び名を変えようと思う。もともと、私には兄のような気持ちしかなったのだ。そして、昨夜は解呪した後も、具合の悪そうだったララクライン嬢が心配だった。
「アイリス、心配をかけたね。もう、大丈夫だよ。私は、ララクライン嬢と今夜、婚約するから。」
そうハッキリ宣言されると、ララクライン嬢は真っ赤になった。よかった。今日のために、ソル兄さんの隣に立つために、彼女は解呪に臨んだのだ。解呪は、怖かっただろうなぁ。
「アイリス様。その節は本当にありがとうございました。また、リード家の領地に来られる際は、ぜひお知らせくださいね。」
笑顔が綻ぶ。彼女の勇気のおかげで、今がある。私には、感謝しかない。
「ソル兄さま、サルベニア王国民は、大丈夫でしょうか・・・」
心配していたことの一つだった。国民のことを考えていないわけではないが、私には荷が重すぎた。
「それは、まぁ、スイレン宮が燃えたから、大変な噂になっているよ。火災現場に、私たち二人もいて、傷ついていたからね。ただ、わずかだが、これで過去と決別で来た、という声もあるようだ。」
ソル兄さん、すっきりした様子で、よかった。私たちは、これまでいろいろな思惑に翻弄されすぎていた。そろそろ、自分の道を考える時だ。
「はぁ~、私、もうスイレン姫と呼ばれたくなかったのです。それに、喧嘩も止めたかったし。」
思わず本心を漏らす。そして、私は隣にいるアレンの手を握る。この人がいるから、安心して話ができる。
「そういえば、サボ師匠は?」
目が覚めてから、今夜の婚約式の準備で、私は昨夜のことが全くわかっていなかった。
「今朝、旅立ってしまったよ。アイリスには、手紙が残っている。後で、読むといいよ。」
レオンが説明してくれた。あと、スイレン宮を焼いたのは、師匠のサボがその場にいたため、彼がまた、妖銃アレンを使い、宮殿を焼いたということになっている。10年前、サルビア宮殿も焼いた彼は、さらにスイレン宮をも焼いた、という経歴が重なることになってしまった。サルベニア国民には、恨まれてしまうだろう。・・・ごめんなさい。
ただ、帝都での評判は違うらしい。妖銃使いサボに、新しい経歴が増えたようだ。未だ、宮殿を一瞬で焼くほどの力を持つ。と。
サボからの手紙は、1枚の紙に簡単に書かれていた。
アイちゃん。
(姫と呼ばれたくない、と叫んでいたので、これからはこう呼ぶね。)
別れの挨拶をすると、多分、アイちゃんが泣くからやめておくよ。
10年間、成長を見ることができて、嬉しかった。
妖銃アレンを、あれほどまで使いこなせるようになったこと、感動している。
妖魔弾の開発のセンスがすばらしい。呪いを解く妖銃使いは、初めてみた。
敵を倒すだけが、妖銃使いではない。生かす道を、探して欲しい。
そして、その道は、僕は教えることができない。
師弟関係は、終了します。
君の成長を、期待している。
世界は広い。
サボ
(レオンに飽きたら、いつでも言ってね。僕は飽きさせないよ。)
と、書かれていた。私は泣いた。サボとの10年間が終わった。ここまで導いてくれた、大切な師だ。これからは一人で歩いて行かないと、と思ったところで、握っている手の温もりを思い出す。
一人ではない、レオンと一緒だ。きっと、大丈夫。レオンは私を愛してくれいるし、私も愛している。
そうしている内に、式典が無事に終わろうとしていた。後は、誓いを一緒にするだけだ。
私は隣にいるレオンに宣言した。
「レオン、2年間は冒険よ。でないと、婚約しないからね!」
レオンは太陽のような笑顔で笑った。
「アイリス、そういえば、俺、もう一度聞きたいな。サボとやりあっていた時、お前が止めようと叫んだ言葉。」
「え?何て叫んだ?」
本当に、すぐに思い浮かばない。必死になって、叫んでいたことだけは覚えているが。たしか・・・
「あっ!あれ!」
「そう、あれ。」
思い出して、ちょっと赤くなってしまった私だけど、しっかりと二つの赤い目をみつめた。
「私は レオンを 愛している。・・・だったよね。」
「はい、正解。・・・アイリス、俺も愛しているよ。」
そう言って、レオンはちょっと屈むと、私に軽くチュッとキスをした。
「うっぅ、イテテ。」
まだ傷が痛むようだ。治癒魔法はかけないらしい。よくわからない男のプライドだそうだ。
合同婚約式の式典が、滞りなく進み、次は婚約指輪の交換になった。
「では、指輪の交換を」
私たちは、お互いの瞳の色の宝石の入った、指輪を贈りあった。私はルビーの指輪を受け取り、レオンはアメジストの指輪を受け取った。
「わりぃ、片腕がまだ使えないから、手、出して。」
レオンは、使うことのできる方の手で、私の薬指に指輪をはめてくれた。私も、彼に指輪をはめる。あとは、終了の宣言がされれば、晴れて私とレオンは婚約者同士だ。
赤の日に、帝国に決められると思っていた婚約者。それが、なぜか私が選ぶことができた。でも、選べなかった。選べなくて、苦しかった。でも、その苦しみも、レオンが溶かしてくれた。レオンはいつでもまっすぐに、私を選んで待っていてくれた。
―――私はようやく、婚約者を決めることができたのだ!




