41.全て、終わらせたかった。
外にいる3人を見ていると、レオンが鞭を剣のように固め、師匠に切り付けていた。応じる師匠も、細長い剣で受けている。ソルも、レオンと入れ替わるようにソルに剣を振っている。ああ、師匠がやっぱり流した。強い。
ああ、師匠が笑っている。あの顔は、遊んでいる顔だ・・・レオンもソルも、真剣な顔をして切り付けているけど、全てかわされている。反対に、サボの繰り出す攻撃を避けきれていない。
また、血が流れている。でも、致命傷ではない。サボは、動けるだけの余力を残させて、相手をしている。
「どうしてこう、みんな戦ってばかりなのよ!誰が戦えと言った!誰が!」
ギリ、と歯をかみしめる。止めに行きたいが、今はこの部屋を離れることができない。
イライラしていても仕方ない。ララクライン嬢の様子を見てみると、少し苦しいのか、脂汗を流していた。
「ララクライン様、頑張ってください。もう、呪いは解けましたよ。」
「―――はぁ、ソル・・ディ さ・ま。」
ソルの名前を呼んでいる。手を握ってあげると、キュッと、握り返してくれた。眠りが浅くなってきて、夢でも見ているのだろうか。苦しい夢なのだろうか。そうでないと、いいけど。
思えば、ララクライン様の何も、私は知らない。帝国に影響力の強い公爵家の一人娘。美しくウェーブした金髪と、可愛らしい容姿。ソルの隣に立っても、遜色ない容姿。できれば、ソルの助けになるような、内面も美しい方であると、嬉しいのだけど。
そう思ってお顔をみていたら、少し首を動かし、目を開いて、瞬きをした。
「ララクライン様!」
「あ・・・私。ここは・・」
目覚めたばかりだ。まだ、記憶が曖昧なのだろうか。
「ララクライン様、呪いは解けました。もう、大丈夫です。」
「あ。アイリス様?私、大丈夫って、呪いが解けたのですか?」
「はい、全て綺麗に消しました。明日の婚約式に行けますよ。ソルの隣に、立つのはララクライン様です。」
まだ、ぼんやりとされているが、私は園庭の様子が気になる。ララクライン嬢は、麻酔から覚めたばかりで心配だが、今は外で戦っているバカな男達を、止めなければ。
「ララクライン様、すみませんが、園庭が気になります。3人が、なぜか喧嘩を始めていますので、止めに行きたいと思います。」
「そうですか、よくわかりませんが、急ぎましょう。私も起き上がります。肩を貸してください。」
私たちは、非常用通路を使い、園庭に急いだ。ララクライン様は、まだふらふらしていたけれど、頑張って歩いてくれた。
園庭にたどり着くと、そこには、ソルとレオンが、ところどころ血を流しながら、ボロボロになって肩で息をしていた。師匠には、呼吸に乱れは全くなかった。余裕で立っている。
周囲には、目を覚ました様子の王制復古派の面々もいた。
「ソルディーエル様!」
ララクライン嬢が、駆け寄ろうとする。心配なのだろう、サボの圧倒的な力に、ソルはなおも歯向かおうとしていた。
「ララクライン嬢、無事なら、そこでお待ちください。」
「ソルディーエル様・・・ララは、ララは、お傍で生きたいと思っています。どうか、私を選んでください。愛しているんです。」
彼女の必死な告白が、ソルに届けばいいのに。ソルは、その告白さえ無視して、サボになお、切り込もうとしていた。
「師匠、どうして?止めてください。このままじゃ――」
こんな状況を見るために、頑張ってきたわけではない。何のために、呪いを解いたというのか。
「アイリス、僕が君を攫うよ、と言ったら、はは、二人とも必死になって、僕を止めようとしているよ。」
二人の攻撃を躱しながら、尚且つサボは二人を切り付けていた。
「師匠!私、師匠とは一緒に行きません。レオンを愛しているの!」
私も必死になって叫ぶ。レオンに届いてほしい。
「アイリス、待っていろ。明日の為だ!」
熱血バカには、届いていなかった。どうして、男はやっぱり話を聞いてくれない。
「アイリス、君は、スイレン姫だ。王国にとって、大切な姫だ。」
ソルが苦しそうに叫ぶ。叫びながらも、戦いを止めない3人。どうかしている。私の意思は、無視されるのか。
「ソル、私、貴方と王国の為には生きられない。王国、王国って言っているけど、もう王国は滅びたの!私は幻に付き合う気はない!」
彼にも、もう目を覚まして欲しい。私は、王国の偶像になるつもりはない。
「ス、スイレン姫様・・・なんてことを。」
王政復古派の者だろうか、私の名を呼ぶ。
私は、自分の相棒を取り出す。
「アレン、お願い。」
戦いを止めない3人、私をいつまでもスイレン姫と呼ぶ人達。全員、目を覚まして欲しかった私は、一つのお願いを、アレンにした。
「このスイレン宮を焼くわ。手伝って。あなたなら、できるでしょう?」
かつてない、壮大なお願いをする。私の人生で、一番のわがままだ。でも、この宮殿は私のもの。―――全て、私が終わらせる。終わらせてみせる。
私は、アレンを抱えると、妖力を練り上げて、魔力を編み込んだ。アレンが私の願いに反応するように、その銃身を赤く、大きくさせる。かつて見た、あの赤い妖銃アレンの姿だ。
かつて、サルビア宮殿を一瞬で炎に包み、全てを焼いた妖銃アレン。神秘的なその姿を、私がもう一度呼び出せると思っていなかった。だが、アレンは答えてくれた。今は、抱え込むほどに大きくなっていた。
銃口をスイレン宮に向ける。そして、狙いを定め、トリガーに指をかける。よし、銃弾も完成した。
そして月夜の明かりを受け、美しく輝くスイレン宮を、私は瞼に焼き付けた。
―――さよなら、私のスイレン宮。ありがとう。お前は最後まで、美しいよ。
「アレン、お願い。―――焼いて。全て、終わらせる。」
私は一気に、トリガーを引いた。
――――ズドォォォォォン―――――
空気を動かす爆音が響く。全ての空気が、止まる。そして、宮殿が燃える。赤い炎は、轟音と共に一気に宮殿を包み込んだ。
「アイリス!」
「姫!」
「姫様!」
そこにいた者は、各々の動きを全て止め、燃え盛るスイレン宮を茫然とみていた。そんな中、レオンだけは私を探していた。
私は、妖銃を撃った反動で飛ばされていた。衝撃で動かなくなった私を見て、レオンが駆け寄ってくる。
「アイリス、アイリス、お前・・・なんてことを。」
「レ・・オン・・」
レオンが私を抱きしめてくれる。でも、そのレオンもボロボロで血だらけだ。
「だい・・じょうぶ?」
「ああ、俺は大丈夫だ。お前、どこか打っていないか?」
「レオン、私、終わらせ・・た・かった。」
「しゃべるな、今は、しゃべらなくていい。」
「ぜ・・んぶ。アレン・・」
レオンの顔を見ていたら、安心してしまった私は、その腕の中で、ふらっと意識を手放してしまった。




