40.呪いを解く。
静かになった部屋で、私は早速、呪いを解く作業にとりかかる。
「妖銃の銃弾を受けた時、衝撃の痛みを感じます。また煙が呪いを攻撃している時、どのような痛みがあるかわかりません。なので、麻酔をかけたいと思いますが、いいですか?痛みで動くよりは、麻酔で寝ている方が、成功すると思います。」
私が解呪のための麻酔の説明をすると、ララクライン嬢は落ち着いてその提案を受けてくれた。2時間くらいの効き目の麻酔弾を、まず腕に撃つ。
「ドン」
鈍い音がする。妖銃を、人に向けて、こんな風に使うのは初めてだ。効き目も早いので、予めベッドに寝てもらっていて、正解だった。
「よし、次は妖魔煙ね。」
妖力と魔力を練り上げる。組み合わせ方と、バランスを考えながら銃弾を作る。とりあえず3発あれば、いけるだろうか。
一発目は、魔術で狙いを定めておく。
『スキャン』
黒く硬い呪いがある、心臓に向けて、パァァンと発射する。煙は一旦、全身を包むが、次第に心臓周辺に集中していった。だが、黒い塊に効果があったかどうか、わからない。ここまできて成功しなかったら、どうしようかと焦る。
『スキャン』
もう一度身体をみると、心なしか黒い塊に亀裂がはいっているようにも見えるが、変わらないようにも見える。
パァァンと、二発目を発射する。同じように、煙が全身を包むが、すぐに心臓の辺りに集まって来た。
連続すると、身体にも負担があるかもしれないので、しばらく待つ。
ララクライン嬢は、妖魔煙を受ける時は、身体がビクッと反応するが、今のところ静かに眠っているようだ。白い肌が、少し青白くなっているが、仕方ないことかもしれない。医学の知識のない私には、わからないことが多い。
―――もう、そろそろいいかな。
『スキャン』
何度目かのスキャン。今もレオンの魔力を奪っているのだろう。おかげで、かなりはっきりと呪いの影を捉えることができた。―――やった!薄くなっている。
「パァァン」
3発目を打ち込む。今度は心臓の辺りにまっすぐ、入っていった。
ララクライン嬢は、ぐっと苦しそうな表情をし始めた。
『スキャン』
呪いが砕かれていて、小さくなっている。あと、少しでいけるかもしれない。
最後だ、がんばろう。妖力を練り上げる時、私の額に汗が流れる。緊張しているな、はは。でも、これで最後だ。
「パァァン」
心臓を狙う。打ち込んだ瞬間、ララクライン嬢の身体がビクッと跳ね上がるが、そのまま寝ている姿勢を保っている。
『スキャン』
念のため、全身をくまなくみておこう。頭の先から、つま先まで、呪いのかけらが残っていないかを確認する。
「よかったぁぁぁ。なんとか解呪できたかな。後は、無事にララクライン嬢が、目覚めてくれるといいのだけど。」
ホッとしたところで、レオンに無事解呪できたことを伝えたいなぁと思って外を見ると、3人の男達が沼地の近くの庭園で、それぞれにらみ合っているのが見えた。・・・何か、嫌な予感がする。
ソルとサボは、長年の関係があるからいいけど、レオンはサボと会うのは、2回目だ。それも、さっきは蹴られていたし、前回は銃口を突き付けられていた。
すぐに走って行って、様子を確認したいが、ララクライン嬢のことも心配だ。この場を離れるわけにもいかない。
そうしている内に、レオンが二重鞭を取り出した。あ、これはマズイ。話をするのに、鞭は必要ないよね。ハラハラしながら、外をみつめるしかできなかった。
◇◇◇◇◇
―――ちくしょう、さっき蹴られた腹が、まだ痛ぇや。サボ、あいつ、容赦なく蹴って来たからな。骨の一本くらい、折れているかもな。治療魔術で治したいが、今はアイリスが「スキャン」で魔力を使っている。まだまだ魔力切れになるほどでもないが、無駄遣いしない方がいい。
俺は、サボの提案どおり、アイリスの解呪の邪魔をしないように部屋を出た。途中、のびている王政復古派のオッサン達や、用心棒で雇われていた奴らを、宮殿の外へ運び出す。明日になれば、憲兵が来て収容していくだろう。
スイレン宮に残っていた者を、園庭に運び終わると、俺とソル、サボの3人になった。
「で、ソルディーエル王は、この事態をどうするのかな?」
サボが、自分の髪をくるくると遊ばせながら、興味ないけど仕方ないから聞いてやる、といった感じで質問した。
「どうすると聞かれても。既に予定外ばかりですよ。それに、私がどうしようと、サボ師匠は、もう決めているのではないのですか?」
ソルディーエルは、殺気だった目でサボを見ている。
「サボ師匠、あなたもアイリスに求婚したと聞いている。公爵に正式に挨拶したとも。貴方はそのようなことを、遊びでつきあう相手には、しない。本気でアイリスを狙っているのでしょう。」
知らなかった事実に、俺は驚いて二人の顔を見る。ソルディーエルは、真剣な目で睨んでいる。
「あ~あ、大人しく攫っていこうと思っていたのに。そうだよ、僕には珍しく、本気の恋、かな。」
そう言うと、サボはアイリスのいる部屋の方を見つめる。
「うん、呪いは無事に解けたみたいだね。すごいね、あの子。ますます手放せないよ。」
ククッと笑い、口の端を上げる。
「サボ、攫って行くとは、アイリスのことか!」
俺は我慢できず、叫んだ。
「そうだよ、君たちの大好きなアイリス。明日の合同婚約式の最中に、目立つように現れて、攫って行くのも面白いかもね。」
余裕のあるサボは、あえて煽るように、二人に言った。
「そんなこと、帝国が許すわけ、ないだろう。その場で捕まるか、追手がかかるぞ。」
俺は、自分の武器である二重鞭に手を置く。
「僕が、そんな下手なことをするわけないでしょ。妖銃使いサボの名は、伊達じゃないつもりだけど。帝国が僕を敵にするかなぁ。たった一人の娘のために。」
確かに、傭兵でもあるサボは、その存在が一個師団並みの戦力になる、と聞いたことがある。
ソルディーエルも、自分の剣に手をかけている。
「あれ?君たち、僕と遊びたいのかな?―――いいよ、遊んであげようか。二人とも、死なない程度に傷つけておけば、明日の婚約式も出られないしね。あ、王様は車いすで出席できるくらいにしておくよ。でないと、面倒なことになりそうだしね。はは。」
俺は、怒りが沸点に到達しそうだ。こいつをここに、足止めできるくらいに傷つけておかないと、明日はヤバイかもしれない。本当に、アイリスを攫われて、海外にでも行かれたら・・・どうしようもない。
俺には、帝国を説得することも、逃げることも難しいというのに、サボはそれを軽々と出来ると言う。その実力に見合った自信が羨ましい。俺との実力差は、わかる。だから、刺し違えてもいい、サボを足止めできれば。
二重鞭に魔力を込める。ピシャリ、と鞭がしなる。
ソルディーエルも、静かに剣を構える。アイツも必至だろう。アイリスを攫われたら、計画も何もない。
サボは、おもむろに妖銃を取り出した。
「ガキ相手に、こいつを使うのも勿体ないな。殺したら、アイリスを悲しませちゃうしね。」
ニタっと笑うと、サボは取り出した妖銃をホルダーに戻す。そして、両手を胸の前で組み合わせると、ゆっくりと左右に広げながら、細長い魔剣を生み出した。
「すげぇ、魔剣もつくれるのかよ、どこまでチートだよ。」
俺も二重鞭を固めて、ソードモードにする。剣には剣の方が、フェイクをしやすくなる。臨機応変に、しなる鞭にする方が攻撃できる。
ただ、俺には決定的に不足していることがあった。実戦経験、というやつだ。ちょっと前に、学園を卒業しただけの俺だ。帝国魔術師の訓練を少し受けたが、それだけだ。ソルディーエルのように、騎士団にいた奴なら、まだどこかで人と戦ったことはあるだろう。傭兵として名を知られているサボ相手に、どこまでできるか。
考えていても仕方がない。俺は、負けることを覚悟して、切込みにかかった。




