39.残念な男たち
明かりの漏れている部屋を、コンコンとノックする。
「ララクライン様、いかがでしょうか。アイリスです。入りますね。」
そう言って部屋に入ると、そこにいたのはララクライン嬢と、ソルディーエル王子だった。
「ソル、どうして貴方がここにいるの・・・。」
突然、部屋に入って来た私たちを見て、お互いに驚きのあまり、言葉を無くす。その沈黙を破ったのはソルだった。
「私も今日、宰相殿から、ここにララクライン嬢がいると聞き、駆け付けたところだ。」
宰相殿、あの一人だけ年をとられていた方か。宰相殿であれば、私の母のことも、良く知っているに違いない。私が生まれた後、しばらくして命を落とした母さま。私は記憶もないので、あまり感傷もないけれど。
ソルはソルで、ララクライン嬢の行方を追っていたようだ。
「ソル、私ならララクライン様の呪いを今、解くことができると思う。だから、邪魔しないでほしい。」
「アイリス!君は、そうまでして私と婚約しないと言うのか・・・。」
ソルは、悲しげな顔で私を見つめる。何か思いつめた様子のその顔は、しかし次の言葉を聞いて固まった。
「僕には、その演技は通用しないよ。王様。」
その場を凍り付かせたのは、突然現れたサボの一言だった。
「ソルディーエル王子、いや、第13代目サルベニア王、かな。ずっと僕の使い魔を張り付かせていたから、よくわかるよ。君が今回の事件の首謀者だってね。」
「―――!!!―――」
悲鳴は言葉にならなかった。
そうかもしれない、でも、そうであって欲しくない、ずっと思っていたが、やはり首謀者はソルなのか。
「王様は、どうしても姫様と結婚したかった。」
サボが、ゆっくりと語る。
「でも、帝都で、そこにいるララクライン嬢が、自分と婚約することになったと、知った。」
ソルの顔色が変わる。
「で、ララクライン嬢には、行方不明になってもらった。呪いつきで。」
ララクライン嬢も、白い顔をして黙って聞いている。
「王様は、魔物を放つとか、準備をいっぱいしたのに、この宮殿に僕とアイリスが来たことで、また焦っちゃったんだよね。へたな用心棒も雇ったりして。まぁ、粗方僕が片付けておいたけど。あ、ちょっと残しておいたのは、ご愛敬だよ。レオンハルト皇子。」
ソルが、サボを切りかかろうと動いた瞬間、サボが彼の妖銃を私につきつけた。
「王様、君、アイリスと一緒になりたいみたいだけど。残念だね。―――僕もなんだ。」
ソルは動きを止めた。私の頭には、銃口がつきつけられている。
「サボ!てめぇ、アイリスは俺のものだ!」
それまで静観していたレオンが、サボに殴りかかろうとするが、反対にサボの足がレオンの腹に決まる。「ぐえぇっ」と言って飛ばされたレオンは、壁にドンっとあたって止まった。
「レオン!」
助けに行こうと動いた私を止めたのは、サボの強い腕だった。左腕を私の腰に回し、サボは私に言った。
「うん、乱暴なことはしたくないけどね。姫には。でも、君を恋い慕う二人は、てんでガキだからさ、そのことも知って欲しくて。」
サボがどうしてここにいるのか、そして私はどうしたらいいのか。レオンは大丈夫だろうか。ソルはどうしたいのか。考えがまとまらない私は、混乱していた。
「サボ様。お願いがございます。」
混乱を治めるように、それまで沈黙していたララクライン嬢が、発言した。
「先ほどアイリス様は、私の呪いを解くことができると言われました。どうやったら、妖銃使いであるアイリス様が解呪できるのか。試していただきたいと思います。」
「君。解呪は、万一失敗したら、君にも影響が残るよ。それでもいいの?」
「はい、解呪できて、明日、ソルディーエル様の婚約者として、隣に立てる可能性があるのであれば、挑戦します。」
その言葉を聞くと、サボは私に質問した。
「姫の解呪って、どうやるの?」
「話すから、この銃口を下げて。」
サボは、ソルが襲い掛かる様子がないのを見て、銃口を下げた。
「妖銃アレンを使うの。ええと、魔蔦用に開発した妖魔煙を改良して、呪いだけを攻撃するようにしたの。ララクライン様の身体の中にある、呪いをスキャンできれば、そこを狙って撃つつもり。煙は、身体の中に入ることができるよう、粒子を細かくしたわ。」
「へぇぇ、面白いね。僕の弟子は、やっぱりすごいね。うん、面白そうだ。」
サボは私の腰に回していた手を離すと、ソルに近づいて行った。咄嗟のことで反応が遅れたソルは、剣を構える前に、サボに背中から銃口を、向けられた。
「剣士さん、狭い部屋の中では、剣は不利だと知っているでしょ。短剣も持たずに、迂闊だよ。」
さすがに、戦歴の長いサボは動きが的確であった。
「姫様、ではやってみよう。一番邪魔になりそうな、この王様は僕が抑えておくから、大丈夫だよ。」
とにかく、自由になったのでレオンに近づこうとすると、レオンは手を止めて、来るな、とサインした。多分、サボを刺激しないためであろう。その意を汲んで、私はララクライン嬢に近づいた。
「ララクライン様、しばらく、動かないでください。」
ソファーに座る彼女の両方の肩を持ち、魔術を発動する。
『スキャン』
全身をくまなくチェックすると、大きな黒い塊が、心臓のところにこびりついていた。これだけ硬いと、少し時間がかかるかもしれない。
妖銃アレンを取り出して、アレンに話しかける。
「アレン、お願い。あなたの妖魔煙で、呪いを砕きたいの。何発か必要だから、ちょっと時間かかるわね。よろしく。」
そして、ララクライン嬢にも説明をする。
「―――妖魔煙は、呪いだけをターゲットとしますが、かなり硬いので、時間がかかりそうです。様子をみながら、撃ちますので、そのまま楽にしていてください。」
時間がかかることを話すと、サボはレオンとソルを外に連れ出すという。
「部屋の中に、こんな男が3人もいたら、気が散るでしょ。ついでに片付けもしておくから、ゆっくり解呪してごらん。」
確かに、集中力のいる作業だったので、一人になれるのは、正直なところ助かった。
そうして、準備のできたところでサボ達は、部屋の外へ行った。―――そしてその先で、残念な男達は、ひと騒動起こしてしまうのだった。




