37.婚約式前夜
翌日、すっきりと目覚めた私は、早速、妖銃アレンを使った妖魔煙の開発に取り掛かった。イメージは、煙が細かな粒子となって、身体の中に入っていき、呪いの塊を砕くか、壊す。
妖銃の銃弾は、妖力と魔力の組み合わせだ。煙にするまでは、もうできているから、それが細かくなるようにイメージする。人間の体内を通り抜けるような、煙。呪いだけを捕まえる煙。
部屋にこもって、取りつかれたように妖銃にかかりっきりになった。しかし、最後のところで完成できない。焦る日は続き、とうとう、合同婚約式の前日になってしまった。
その日の夜、コンコンと窓をたたく音がした。バルコニーに、誰かいるようだ。
「誰かいるの?」
「アイリスか、俺だ、俺。レオンだ。」
「レオン!」
やっと帰ってきてくれた!嬉しい思いで、急いで窓を開けた。最近は伝令魔鳩も来ていなかった。
「会いたかった。アイリス。遅くなってすまない。」
部屋に入ってくるなり、レオンは感動の再会を味わいたいと、手を伸ばして、唇にそっと触れた。でもそのすぐ後に、しょんぼりとした顔になった。
「すまん、帝都では、何も情報が得られなかった。せっかくララクライン嬢をみつけることが、できたのに。」
「そんな、うまくいく時もあれば、いかない時もあるよ。私、レオンの分けてくれた魔力で、何度か助けられたよ。」
会えなかった日の、出来事を話していく。離れていても、この赤いピアスがあったから、助けてもらっていた。それは、忘れないでほしい。
「そういえば、帝都で聞いた話だが、ソルディーエル王子は、やはり事前に組み合わせのことを聞いていたみたいだな。リード家の手の者が働いたのかもしれないが。今回の計画は、やはりあいつが絡んでいるのかもしれない。」
「ララクライン様は、ソルが関わっているようなことは、言ってなかったけど。」
「ホレた相手のことを、悪く言うやつは、そうはいない。別ルートで探ってみるべきだった。もしかしたら、その線で呪いをかけた、魔術師を見つけることができたかもしれない。」
「そうね、呪いに関して言えば、リード家ではなく、王政復古派の関与が強いのかも。」
レオンは、最後まで諦めたくないと、ぎゅっと私を抱きしめた。明日の夜は、婚約式だ。
私は、呪いそのものを焼き切る、新しい妖魔煙の開発をしていることを、レオンに話した。ほぼ完成しているが、マズイことに最後の大きな難関があった。呪い、の探知だ。
私のイメージの呪いは、黒いモヤモヤが、身体のどこか、頭とか胸とかに張り付いている。その黒いモヤモヤを、妖魔煙で捕まえて、砕いてしまう、というのが私なりの「呪いの解呪」だ。
だが、その呪いそのものを探知することが、難しかった。身体のどこに張り付いているのか、もしくは全身にくまなく張り付いているのか。
そのことを話すと、意外なことにレオンがあっさりと答えをくれた。
「ああ、それなら、身体中をスキャンすればいい。頭の先から、足先まで。ほれ、手をこうかざしてだな」
レオンはいきなり、私の身体を魔術の一つで、調べるそぶりをした。初めて見る魔術、『スキャン』であった。
「すごい、レオン!そんなことできたのね!」
「ああ、これすると、ホレ、お前肩こりすごいな。とか、身体のどこに不調があるのか、よくわかるぞ。」
レオンは、意外と身体を視る能力があるらしく、かなり細かく不調の原因が視えると言った。ただ、視えても医者ではないから、治すことも何もできない。だから、あまり使わない魔術だと言っていた。
今、私はレオンが持っている魔術を、ピアスを通じて共有している。これを組み合わせれば、呪いを見つけ、砕くことができるかもしれない。
「レオン、行こう!ララクライン様のいる、スイレン宮に行くよ!」
いきなり立ち上がった私に、レオンは驚いていたけれど。ようやく、解決の方法がひらめいたのだから、行くしかない!明日の夜は婚約式ということもあり、すぐに私たちはスイレン宮に行くことを決めた。




