36.アレン、ふたたび。
公爵家までの途中、サボが呪いの解呪について、説明してくれた。呪いは魔術の一つだ。呪いをかけるのは簡単だが、解呪は、それをかけた者以外は、解くのは非常に難しい、とのことだった。
呪いをかけることができる、魔術を扱える者は、このサルベニア領にも、帝都にも数えきれないほどいる。呪いに、これといった特徴もない。呪いをかけた者をみつけるのは、至難の業だ。
サボは、ララクライン嬢の現状は監禁状態であるが、ある程度の自由もあるし、時が来れば解呪してもらえるだろう。そのままにしておくのも、一つだ。と言って来た。
「姫、ソルディーエルと結婚して、監視下におかれるのが嫌なら、僕の手をとりなよ。寂しくは、させないよ。他の男なんて、すぐに忘れさせてあげるよ。」
サボの誘惑は、私に甘く、思わず落ちてしまいそうになる。
でも、もう少し、やれることがあるはずだ。伝令魔鳩に、ララクライン嬢の呪いのことを書いて、レオンに伝える。彼が、少しでも帝都で情報を得ることができればいいのだけど。
困った時は、いつでも妖銃アレンを触っていた。今も、その漆黒の色を纏った、私の相棒を撫でていた。
◇◇◇◇◇
帝都に着いた俺は、リード家のタウンハウスを訪問した。対応したのは、その家の執事であった。俺が何を聞いても「主人がいないので、何もお答えできません。」の一点張り。その主人は、帝都からさらに遠い南の領地にいるという。これ以上、日数をかけるわけにはいかない。
そう焦っていたところに、伝令魔鳩から、アイリスがララクライン嬢をスイレン宮で見つけたことを知らせてきた。よかった、と思ったが、その先を読んで目の前が暗くなる。
ララクライン嬢は、呪いを受けているため、スイレン宮から出ることができない、ときた。そのことについて、帝都で調べてほしい、とも。
俺は、藁をもすがる思いで帝国魔術師団長を、訪ねた。呪いは魔術だ。専門家に聞くのが一番だろう。
だが、その魔術師団長であっても、呪いの解呪はお勧めしない、と答えられた。呪った者以外が解呪を行おうとすると、かえって呪われているもの、今回はララクライン嬢に影響がでることが、あるらしい。
解呪の魔術を聞いたが、ベテランの魔術師でもやりたがらないそれは、俺に扱えるとも思えなかった。
出口の見えない迷路に迷いこんだようだ。俺、情けないよなぁ・・・とため息をつきながら、帝都で月を見上げた。
◇◇◇◇◇
その日の夜、また私はアレンと話すことができた。
「アイ・・ス・・・アイリス。」
「アレン!嬉しい。また会えたわ。」
夢の中のアレンは、優しい微笑みを絶やさない。
「アレン、今度は呪いよ。時間もないのに、呪いをかけた本人を探さないといけない。」
「アイリス・・・呪いを依頼した者の、目星はついたの?」
「うーん、リード家か、王政復古派か、どちらかと思うのだけど。王宮の沼地に魔蛇を放ったのは、リード家ね。王政復古派は、スイレン宮を大切にしているから、魔物に荒らさせることはしないと思う。でも、ララクライン嬢に呪いをかけたのは、王政復古派と思うわ。」
「あら、どうして?」
「さすがにリード家にしてみれば、一人娘を殺してしまうような、恐ろしい呪いなんてかけないと思うわ。」
「そうねぇ。真実なんて、どっちもどっちなのかもしれないわよ。王宮を魔物に汚された復古派が、仕返しの一つとして一人娘に呪いをかけた、なーんてことが、裏であったのかもしれないわね。」
「どちらにしても、婚約式までに解呪しないことには・・・レオンと婚約できない。」
私は少し、しょんぼりとしてしまった。
「あらあら、あんなに悩んでいたのに、もう、はっきりと答えはでたようね。」
「そうね、もう迷いはないかな。でも、状況はだんだん難しくなっていくけど。」
「あなたも、成長したわねぇ。私も長く生きて来たけど、貴方のようなマスターはいなかったわ。」
「私のようなマスターはいないって、どうして?」
私のように、弱い銃士はいない、と言われたら落ち込むけど。でもアレンの返答は違っていた。
「貴方のように、麻酔弾とか、魔蔦だけを焼き切る妖魔煙とか、新しい銃弾を開発するようなマスターは、いなかったわ。私も、新しい技を開発するのが、こんなに楽しいとは、思わなかったのよ。」
「そうね、魔蔦は私の天敵だから、必死だったわ。」
当時、魔蔦のみを対象とするのは、どうやったらいいのか、本当によく考えていた。銃弾を煙状にすると、全身に纏わりついている蔦をとらえやすいと気づいてからは、早かったなぁ…と、当時の開発を思い出す。
「あ!それと同じで、呪いだけをターゲットにした妖魔煙を作り出せないかなぁ・・・」
何か、ひらめいてきた。解呪ばかりに目がいっていたが、呪いそのものを焼き切ることができれば、ようするに解呪になる。
「アレン!ひらめいたわ。よし、やってみる。どうせ家からは出られないから、しばらく籠って開発よ!」
私の研究魂が、メラメラと燃え上がっている。明日から、いろいろと試してみよう。
気持ちが上向きになると、眠気を感じ始め、私はすうぅと眠りに入った。アレンが微笑んでいたように思った。




