34.私を待っていた人たち
アイリスがスイレン宮の入り口に立つと、中から異様な感触があった。ピリピリと肌に刺すような感触。これは、魔窟の森で、魔物に会った時と似ている。
なぜ、この魔物の感触が、宮殿の中からするのだろうか。―――怪しい。気を張り巡らせて宮殿に入ろうとした時、肩をぽんと叩かれた。
「きゃあぁぁ―――あ?師匠?」
「ちょっと、姫。耳元で大声を出すのは、やめようね。」
軽口を叩いてくる、普段と変わらない師匠の姿があった。
「師匠、どうして私がここにいると、わかったのですか?」
「姫。その赤いピアスが、姫様の居場所をバッチリ教えていることくらい、気が付こうね。それでもって、行こうとしている先に、どうやら魔物がいる感じがしたから、さ。やっぱり姫を守るナイトの出番かと思うよ。さ、行くよ。」
そういうと、サボはアイリスの手をさっと取り、先に進んだ。サボがいてくれれば、安心できる。これまでサボが負けた戦を知らない。やる気を無くして、戦線離脱したことは、あるみたいだけど。
二人が門の中に入ると、スイレンの花の咲き誇る沼地が広がった。宮殿の周囲を囲む沼だ。スイレンの花の季節になると、宮殿がスイレンの花の上に浮かぶように、美しい姿を見せるのであった。
その沼地から、異様な魔力を感じる。いったい、なぜ、ここに魔物が放たれているのか。
と、そう思っていた瞬間、左右からシャーッ、シャーッという音をさせた魔蛇達がアイリスを狙って、襲い掛かって来た。
『プロテクション』
咄嗟に自分を守るための、魔術を展開する。ピアスの防御魔術の効果もあって、みえない壁がアイリスの周りに完成した。
バチッ、バチッと魔蛇が壁に当たる。当たっても、すぐに体制を立て直して再度攻撃するため、近づいてくる。気が付くと、何十匹もの魔蛇に囲まれていた。まだ、沼地からは続々と集まってくる感触がする。―――マズイ。
とにかく、妖銃アレンで撃退するしかない。防御魔法がどこまで有効かわからないが、レオンの魔力を借りている身である。この状況を早く抜け出さないと、魔力枯れになってはたまらない。本当に、いつ魔力が切れるかわからないのが、歯がゆい。
アレンを構え、狙いを定める。今回は、単純に魔弾丸で行こう。いつものように妖力を練り上げ、魔力を乗せようとするとーーー
ダダダダダダ―――
機関銃のような、連打する爆裂音がした。―――サボであった。
アイリスが反撃できるよう、様子をみていたが、やはりのそのそしている間に、魔蛇が増えてきているのを見て、手助けを始めた。
「姫、ボヤッとしないで、1匹づつでもいいから撃つんだ。大丈夫、この距離なら、外さないでしょ。」
「は、はい。師匠。やってみます。」
アイリスは再度、妖銃アレンを構えて、魔蛇に狙いを定める。―――ドン、ドン、――ドン。しらみつぶしに、魔蛇を撃っていく。あらかたの魔物はサボが仕留めていたが、荒っぽい銃弾から避けた魔蛇は、アイリスが丁寧に撃ち殺していった。
気が付くと、辺り一帯は魔蛇からでてきた魔石が大量に転がっていた。どうやら、もう魔蛇は退治したか、沼に逃げ帰ったようだ。沼に住みつかれても困るが、今はそれを相手にしている時ではない。
誰がいるのだろうか・・・何が出てきてもおかしくない空気の中、サボとアイリスは二人で宮殿の中へ、入っていった。
「父さまの話によると、この北東の一角を借りる申請が、だされていたようだわ。北東だから、こっちだよね。」
と、宮殿の中へ入ろうとすると、サボに肩をつかまれ、動きを止められた。
「一応、聞いておくよ。この中には、王制支持者とか、姫のファンもいるかもしれないけど、僕は敵とみなせば撃つよ。いいね。」
ここは普段の魔窟の森とは違い、魔獣が相手ではない。人が相手なのだ。
「うん、・・・わかってる。でも、できれば私に撃たせてほしい。あ、私、アレンで麻酔弾を開発したの。これなら、気絶させるくらいの効力だから。」
「そうか、姫は器用だねぇ。いいよ。姫の希望はなるべく考慮する。僕もなるべく、体術で気絶させるくらいにしておくよ。」
サボにしてみれば、気絶させる方が面倒だろう。でも、なるべく人を傷つけることはしたくない。
「ま、問題は姫が、人に向かってアレンを打てるかどうか、かなぁ」
これまで私は、人を標的にしたことがなかった。なので、今回が初めての戦闘経験になる。できれば避けたいけど、そうとは言っていられない。
沼地に魔物を放ったような者たちだから、何を仕掛けているかわからないが、強い殺気などが放たれれば、戦に慣れているサボのことである。瞬時に判断して、対応してくれるだろう。
注意しながら、人の気配がないか確認し、奥の部屋へ進んでいく。
一つの部屋で、人のいる気配がした。サボが、「しっ」と私を黙らせる。そして、待て、と私を抑えた。
その後は早かった。サボが部屋の中に滑り込んだかと思うと、ドサッ、バキッという音がしばらくして、音が止んだ。サボが出てきたので、部屋を見てみると、男の人が5,6人、倒れていた。
「師匠、この人たちは?気絶しているの?」
「ああ、この先の部屋に、目的の人がいるらしいよ。行ってみよう。」
そう言うと、ずんずんと先に進むのであった。倒れている人たちのことも調べたいが、とにかくサボについていかなければ。
その先に一つ、ドアの下部から明かりの漏れている部屋があった。北を向いたその部屋は、日差しははいらないが、スイレンの咲く沼も良く見える部屋だった。
ドアの左右に私とサボが立った。二人とも、妖銃を構えている。サボが、目で合図をしてきた。
――トン、トン
「どなたか、いらっしゃいますか。」
私が問いかける。女の方が、緊張が解かれるからだ。
「はい、どなたですか?」
女の人のしっかりした声で返答があった。
「アイリスと申します。この宮殿の管理をしているものです。確認したいことがありますので、入らせていただきますが、よろしいですか。」
「あ、そうですか。はい、どうぞ。」
返答がされたので、サボと入室する。妖銃は片手に持ちながら。
そこにいたのは、ソファーに座りながら本を読む、ララクライン・リード公爵令嬢であった。見張りもだれもいない、その人は一人で部屋にいたのだった。




