32.父さまの憂鬱な毎日
ソルやサボの訪問に、疲れを感じた私はまた、午睡をしてしまった。
「・・・あ・・りす・・」
「・・アイ・・ス」
また、夢の中で、私を呼ぶ声が聞こえた。
「アイリス!アイリス!このニブちん。私の声が、わからないの?」
その声は、妖銃アレンであった。
「あ、アレン。また会えた!嬉しい!」
久しぶりに、私に声をかけてくれたアレンは、相変わらず黒のレースのドレスを纏った、穏やかなロマンスグレーの淑女であった。
「アレン、聞いて。私、3人から直接プロポーズされたわ。この1週間で。父なんて、大混乱よ・・・私より、父の方が無茶なプロポーズに翻弄されているわ。」
「そうねぇ、レオンにソルにサボ。なかなか、見ものだったわね。」
「ほんと、赤に青に白の薔薇だなんて。なんで揃いもそろって、薔薇なんて持ってくるのよ。」
「そりゃ、プロポーズといえば、定番よね。あら、あなた嬉しくないの?」
「一人からならともかく、3人とも薔薇・・・これから、薔薇の花を見ると、複雑な気持ちになるわ。」
赤の日から1週間。私の状況はジェットコースターのように、上がって下がって。赤の日さえ終われば、安定すると予想していたのに、今はより酷くなっている。何故だろう・・・
「アレン、また貴方と会話したいときは、どうしたらいいの?」
「そうねぇ、決まった方法はないけれど、あなたが眠っている時は、比較的話しやすいわね。熟睡しているとダメだけど。」
「やっぱり、眠った時でないとダメなのね。」
「貴方の声は、聞こえているわよ。だから、本当に必要な時は、呼んで頂戴。お願いアレン、って。」
「そんなことでいいの?」
「会話できるかどうかは、その時の魔力とか、妖力のバランス次第のようだけど。」
とりあえず、アレンとの会話が今後もできそうなことにホッとして、私は気になっていたことを聞いた。
「ララクライン様の隠れている所とか、わかりそう?居場所を見つけたいの。」
「ん~、私の予想では、お父さんと話してみると、面白いかもしれないわよ。」
「父さまが、何か知っている?」
「直接というより、間接的にね。ほら、貴方のお父さんも、王制復古派っぽいじゃない?彼らにしてみたら、仲間にしたい人でしょ。そういう人には、接触しているものよ。」
「そうか、父さまね。後で話をしてみようかしら。」
その後も話が盛り上がってきたが、夕食が近づいたことを知らせるノックの音を聞くと、
「いつでも、あなたの味方よ。アリエス。アデュー・・・」
アレンはそういって、夢は終了するのであった。
◇◇◇◇◇
二人きりでの夕食。このところ、いろいろ騒がしくて落ち着かない日々であるが、父の知らなかった面を知ることができて、アイリスも家に馴染んできていた。
こうして父と娘で食事ができるのは、過去のわだかまりを考えると、嬉しくもあった。
「アリエス、お前も母さんに似て美しく育ったが、それはそれで・・・悩みも増すな。」
「父さま、それはやっぱり、3人も押しかけてきたことでしょうか。」
「そうだな、この1週間で3人か・・・。お前も成長したな。実感したよ。」
「お騒がせして、すみません。」
「いや、それはいい。3人とも、お前の父である私に許可を求めるところは、誠実でいい青年達ではないか。ただ、それぞれな・・・。あー、なんだ。一筋縄ではいかない相手ばかりだな。」
そう言うと、はぁ、とため息をついていた。気持ちは良くわかる。
「一人は皇帝の皇子か。まぁ、気持ちの良さそうな奴だが。南西の地の領主となると、ずいぶんと離れたところに住むことになるな。ソルディーエルであれば、変わらず近くに住むことは出来るが、生涯帝国の監視がつくであろうし。あの傭兵は、お前に自由を与えてくれそうだな。だが、海外の生活かぁ。で、お前はどう思っているんだ?」
「父さま。私は変わらず、レオンハルト皇子と結婚したいと思っています。ただ、それにはララクライン様を見つけないといけませんが、私も動くことができません。どうしたものかと、思っています。」
正直に私の気持ちを伝えると、父は少し考える様子を見せて、私に教えてくれた。
「・・・アイリス、スイレン宮に行ってみなさい。少し前、スイレン宮の一部を借りたいと、申請に来た者がいた。彼が今回の事件と関係があるのかわからないが、可能性はある。」
「それは・・・王政復古派と関係がある方なのですか?」
「お前の探し物がみつかるといいが。それ以上は、私にもわからない。」
「父さま、ありがとうございます。そうですね、スイレン宮ですか。行ってみます。」
スイレン宮は、サルベニア王国の離宮で、現在残る唯一の王宮跡でもある。私の祖母が、私に残してくれた、大切な宮殿。普段は閉じられていて、人が住んでいるわけではない。必要に応じて、開放されるだけであった。
旧サルベニア王国民にとって、精神的な支えとなる、シンボル的な建物だ。それは、王政復古派にとっても、重要な所でもある。だが、普段は管理人がいるだけなので、その管理人を取り込んでしまえば、隠れ住むこともできる。
どうやって、門の騎士を避けて外出しようかと悩んでいたところ、コンコンと、バルコニー側の窓を叩く音がした。
そこには、レオンの伝令魔鳩がいた。レオンにどうにかして連絡をとりたかったとこだ。良かったと思い、窓を開けて鳩を入れると、レオンからの手紙が渡された。
―――帝都に向かっている。―――最後に、愛しているよ。レオンハルト―――
相変わらず、短い手紙だった。でも、最後の一言を呼んで、胸の中がほわっと暖かくなる。
この言葉は、私も、直接言ったことはないけれど、―――愛している。
まだ、口に出して伝えていないけど、次に会えた時は、きちんと伝えよう。うん、大丈夫。今はレオンと歩む未来を信じよう。
そして、アイリスもレオン宛に手紙を書き、スイレン宮が怪しいので、行ってみようと思う、と書き記した。そして書きながら、ふと、レオンと魔力共有ができたことを思い出す。
今日、サボは周囲の人の視界を誤魔化して、誤ったビジョンを見せる魔術を使っていた。あれなら短時間であれば、今の私なら使うことができそうだ。
赤いピアスを触り、ありがとう、と呟く。
離れていても、レオンは近くにいて、助けてくれる。明日は、忙しくなりそうだ。そう思い、アイリスは眠りについた。
3人から無茶なプロポーズに翻弄されているのは、お父さんでした。




