27.それぞれの決意
私は、妖銃アレンを腰に下げ、いつもの冒険者スタイルに着替えた。これであれば、あまり「アイリス姫」と認識されにくいし、戦闘もできる。
まだ、人に向かって妖銃を撃ったことはないが、今回は必要になるかもしれない。そうしたこともあるかと、麻酔弾を開発してきた。魔獣相手ではあったが、一時動きを止めることはできた。
準備をしていると、コンコンと窓を叩く音がする。伝令魔鳩が、メッセージを持ってきたようだ。窓をそっと開け、手紙を受け取る。レオンからだ。あのピアスを買ったアクセサリー・ショップで会おう、と書いてある。目立たないように会うためだろう。宝飾店であれば、奥に個室もある。客の一人としてお店に入っても、怪しまれないだろう。
まずはレオン。その次はソルと会ってみよう。今、彼がどうしているのか気になるし、もしかしたら居場所を知っているのかもしれない。私たちのことは、一度きちんと話さないといけない。
「私、本当に誰と婚約することになるのかなぁ・・・、でも、弱気にならない!」
気合を入れるため、パン、パンと両手で頬をたたく。よし、まずはレオンに会わなくちゃ。
◇◇◇◇◇
俺は黒い指ぬきの皮手袋をつける。手の甲には、魔法陣を描いて、力を強めている。この方法を、帝都の魔術師団長から習っておいて、良かった。両手を握り、そして開く。よし、魔力の調子もいい。黒のパンツに黒のロングコートを着ると、黒ずくめになってしまった。
まさか、帝国の決定事項の『赤の日』の発表内容が、覆されるとは。説明されても、納得なんかできるわけがない。学園で、彼女と出会って、最初は照れ臭くもあって揶揄っていた。でも、それも終わりだ。アイリスが俺の婚約者だ。今更、覆されてたまるものか。
まずは、あのララクライン嬢を探す。そのために、戦う必要もでるかもしれない。対人魔術は、まだ付け焼刃だが、これまで身に着けてきた魔獣用の応用だ。あの剣豪と言われるソルディーエルとも、敵対することになるかもしれない。できれば、あの妖銃使いのサボとは戦いたくないが。
最悪の事態も、考える。万一ララクライン嬢を見つけられなかったら、アイリスを連れて、帝国から逃げるか・・・。できればその手は使いたくない。正直なところ、逃げ切れる自信がない。俺が、帝国にどうにかされても構わないが、アイリスが逃げ切れなくて、捕まった場合はやり切れない。
さっき、伝令魔鳩を飛ばしておいたから、アイリスもアクセサリー・ショップに向かっているだろう。主人に頼んで、個室を案内してもらえば、少しは会って話せるだろう。接近禁止令なんて、糞くらえだ。アイリスも不安に感じているだろう、俺が支えなければ。
―――いや、俺が不安になっているのかな。アイリスが俺を選んでくれるのか。もし、やはりソルディーエルと結婚したいのであれば、このまま静かにしていたいだろう。それなら、それでも構わない。俺は、俺の希望を叶えるために動く。
「よし、行くか。」
パチン、パチンと俺の相棒の二重鞭を鳴らし、コートの内側にセットする。婚約式まで、あと10日だ。それまでに、俺たちの未来を決めてやる。
レオンは決意を新たにすると、急ぎ足で街に向かった。
◇◇◇◇◇
このお店に来るのは、一か月ぶりだ。アクセサリー・ショップの入り口のドアを開けると、色とりどりの髪飾りや、ネックレスが目に飛び込んできた。以前来た時は、レオンは仮カレなんて、宙ぶらりんな存在であった。今は、婚約者だ。ちょっと危ういけど。
店に入ると、私の目立つ髪の色をみた店員さんが、声をかけてきた。
「お客様、人をお待ちでしょうか?よろしければ、奥にご案内致します。」
レオンが先に来ていたのだろうか。私は案内されるままに、個室に入る。そこには、私の会いたかった彼がソファーに座り、貴石を手に取ってみているようであった。彼の隣に座ると、ちょっと肩が触れた。
「レオン・・・会えて嬉しいよ。」
二日前に会ったときは、あれほど婚約できることへの嬉しさでいっぱいだったのに。今は、目の前の障害の大きさに、胸が押しつぶされるようだった。




