20.魔窟の森でまた、絡まっている私。
―――マズイ。また捕まった。
魔窟の森の、少し奥の方に入ったところで、アイリスはまた魔蔦に捕まった。
「しまった、師匠・・・に頼らないでも、何とかしなきゃ。」
この前、ダンジョンの入り口で捕まった時は、レオンが助けてくれたが、今回は単独で森に入っている。今回は、休憩をしようと森の中の木に寄りかかっていたら、木に絡まっていた蔦が、動き始めた。
アイリスを狙う魔蔦の動きは早かった。妖銃アレンを腰に装着したまま、魔蔦は素早くアイリスの腕と銅を、寄りかかっていた木に巻き付けた。このままでは、妖銃を扱えない。
シュルシュル…シュルシュル…
意思を持つように、魔蔦がアイリスを縛り付けていく。さらに、魔蔦の先っぽから、何か透明な液体がでてきた。―――マズイ。魔蔦の中でも、服や皮膚を溶かすといわれる、淫魔蔦だ。
「もう!どうして魔蔦につかまっちゃうの!私!」
怒ってもしょうがない。今回は、魔窟の森に入る装備で来ているのが、まだ幸いだった。前回よりは、重厚な装備で来ている。
「ええと、ええと、ファイアかなぁ。でも、また火傷しそうだし。」
迷っている暇はない。が、焦れば焦るほど、打つ手が思い浮かばなくなる。そうしているうちに、透明な液体がジュッと服を溶かし始める。そのうち、首にも絡まり始めてきた。
「ああん!助けて!師匠!」
恐ろしさで、慌てたアイリスは、師匠のサボの名を呼んだ。私が今日、ここに来ていることを知っているのは、サボだけだからだ。
その時、首を這う魔蔦が、アイリスの紫のピアスのある耳の部分をさわった。
「カチッ」
紫のピアスが、一瞬光る。アイリスは、何か魔力が発動した感じがしたが、それが何かまでは、わからなかった。
そうしているうちに、魔蔦はアイリスの足を縛り上げ、完全に身動きがとれなくなってきた。服も、鎧も、ところどころ解け始めている。そのうち、肌を溶かされるかもしれない―――と、思ったその時
「姫、僕を呼んだ?」
魔窟の森の入り口でアイリスを待っていたサボが、慌ててきた様子で、現れた。
「師匠!また、魔蔦に捕まってしまいました!」
「うん、それは良くわかるよ。・・・イイネ。」
「良くありません!助けてください!肌が溶けちゃう!」
既にドロドロとした液体が、身体中に回り始めていた。このままでは、火傷より酷く、肌が焼けてしまう。
「ああ、この魔蔦は・・・淫魔蔦か。まぁ、姫にはちょっと早いかな。」
そう話すと、サボは妖銃アレンをアイリスの腰から外した。
「えーと、妖魔煙だった?姫の開発した魔蔦対策用の煙。僕も打てるかなぁ。」
言い終わる前に、ドンっと妖銃をアイリスに向けて1発放つ。
「師匠・・・ありがとうございます。」
妖魔煙は、アイリスに纏わりついていた淫魔蔦を全て消し去った。所々服が溶けているが、肌を溶かされるほどではなかった。
「師匠、私の場所が、よくわかりましたね。」
「君の紫のピアスだよ。僕の名を呼びながら、反応したからね。すぐに教えてくれたよ。」
「はぁ~、助かった。師匠、さすがアレンも使いこなせるんですね。以前は使えない、って言っていましたが。」
「ああ、君とアレンの関係も安定しているみたいだし、今回はアレンが許してくれたよ。」
サボは、自分の来ているロングコートを、アイリスに着るように渡した。妖銃アレンも、アイリスに返す。
「さて、その姿では今日は難しいかな、帰ろうか。僕の宿がいい?君の寮がいい?」
「・・・私の寮に帰ります。」
安定のエロ親父っぷりだが、最近は落ち着いてきたようだ。こうして妖銃使いとしての訓練をしてくれるのは、本当にありがたい。サボを結婚相手に選べば、妖銃使いとしての腕を磨き、もっと人に役立てるのかもしれない。
ここではない世界に旅立ち、新しいことを体験し、冒険できる・・・それも、隣には強くて、ちょっとスケベで、でも安心感のある男性―――サボがいる。
ふと、紫のピアスが、サボを呼んでくれたことを思い出した。この紫のピアスは、元々はレオンが魔術を付与してくれた、あのピアスだ。前回も、赤のピアスが守ってくれた。今回は、紫が。レオンを思い出し、胸の奥がキュッとなった。
アイリスがサボと訓練をしている間、レオンは学園に来ることはなく、また何故かソルも、その後アイリスを訪ねることはなかった。―――そして、運命の『赤の日』となった。




