16.魔物狩りとピアス
それでも時間だけは平等に過ぎていく。次の日、サボから連絡が入り、妖銃の訓練を再開することになった。学園の授業が終わり、門のところでサボが待っていた。少し気まずい思いがしたが、サボは何もなかったかのように、アイリスに接した。
「さてアイリス、今から魔獣狩りに行こう。アレンは一緒だよね。」
「師匠!私、学園帰りで何の用意もできていません!靴も、防御用の服も着ていません。」
今日は、制服だ。森の中で魔獣と戦える装備ではない。唯一、妖銃アレンを持ってきていたことが、救いだった。
「君の赤のピアス、かなりの防御だよ。・・・ああ、紫の探索用も、森の中なら役に立つかな。」
帝国一の妖銃使いとして有名なサボは、その魔力も絶大であった。帝国の正規軍に所属せず、自由に仕事を請け負う傭兵として認められているのは、その強大な力ゆえ、でもあった。
そして、二人は魔窟の森の入り口へ到着した。森の奥には、魔物がうごめく気配がしている。
「さぁ、僕の一番弟子は、どこまで成長できたかな。成果をみようか。」
サボはアイリスを魔窟の森の中に一人、置き去りにした。スカートをまくり、足につけていた妖銃アレンを構え、森の中の気配を探る。―――いた。ピリピリとした気配を、斜め前から感じる。森の中であれば、先に見つけた方が有利だ。
魔物の姿を確実にとらえたら、弾丸を放つ。アイリスは妖力を練り上げ、魔力を通し、妖魔弾を形成する。連続して打てるよう、3発用意する。
斜め前の魔物の気配に集中する。あまり上級な魔物ではなさそうだ。まだ森の入り口だから、下級魔物の可能性が高い。それであれば、アイリスにも勝機がある。3発で仕留める。そう、意気込んでいたその時、後ろから何者かが襲い掛かってくる気配がした。
「ギャアギャアギャア」
マズイ、鳥型魔物の黒カラスだ。アイリスを狙って、その嘴を大きく開き、迫ってきた。黒カラスの気配をみて、斜め前の魔物も、アイリスに気が付いた。
「ひぇぇえ、どっち?どっちから先に撃てばいいの?」
魔獣狩りでは、一瞬の判断ミスが命取りとなる。アイリスは、二つの魔物を前にし、判断することができなかった。鳥型魔物は、撃ち落とすことが難しい。かといって、狙わなければ襲われてしまう。そして斜め前の魔物も、アイリスを襲いかかろうとしていた。それは、猪に似た魔物であった。突撃されたら、命がない。
―――間に合わない!
そう思った瞬間、黒カラスはアイリスの周囲をドーム状に取り囲む見えない壁に弾き飛ばされていた。魔猪も、突っ込んできた鼻先を、同じく壁に阻まれて打ち付けていた。
こんなに強い防御は、レオンのくれた紫のピアスの威力だった。一瞬、何が起きたのか理解できなかったアイリスであったが、気を取り直して銃を構え、体制と息を整えた。また突っ込んでくる気配で睨んでいる魔猪に向かって、パン、と1発弾丸を放った。―――当たった。この距離であれば、外さない。
アイリスは向きを変えると、今度は今にも飛び立とうとしている黒カラスを、狙った。パン。乾いた音が、森に響いた。妖魔弾は、確実に二つの魔物を打ち抜いた。
「はぁぁぁ、終わったかな。2匹同時なんて、厳しすぎるよ~。このピアスの防御がなかったら、私は今、こうして息をしていないかもね。・・・助かった。」
そうやって一息つくと、周囲の気配をみつつ、それぞれの魔物の核から形成される魔石を取り出し、袋の中に入れた。ふと、レオンの顔が思い浮かんだ。
彼の防御魔術が凝縮されたピアスを、昨日つけてくれなければ・・・今頃、自分は攻撃を受けていただろう。気が付けば、冷たい汗が背中に流れていた。
そういえば、赤と紫、ピアスは彼とお揃いだった。お揃いで何かをつけるのも、初めてだったけど、レオンに教えていなかったな。と、ちょっと思い出して、少し顔を赤らめた。




