15.妖銃アレンの正体
寮に帰り、一人になって、落ち着いて考えてみた。昨日から、いろんな情報が一度に来て、私は混乱していた。
「ねぇ、アレン。私、どうしたらいいの?アンケートに、なんて書けばいいの・・・」
アンケートの締め切りはもうすぐやってくる。それまでに、決めないといけない。
ソルか、レオンか。そして今や、師匠のサボを選ぶという選択肢も増えた。こんなこと、誰にも相談できない。家族である父に話しても、王国支持者なので、ソル一択なのは明らかだった。
レオンから「俺を選べ」なんて言われたことは、恥ずかしくて誰にも言えない。今まで、会えば喧嘩ばかりしてきたのだ。甘さを増量されても、今も自分はレオンのプロポーズを半分も信じられない。
まして、サボ。サボを知っている人は、限られている。亡国の姫である自分が、妖銃使いを目指して指導を受けている相手が、サルベニア王国の滅亡への引導を渡したサボであることは、秘密であった。
「そういえば私、昨日から3人とキスをしている・・・。なんて週末だろう。これがいわゆるビッチ、というのかな。」
男性を弄んでいるつもりはないが、結果的に3人の男性からプロポーズされている。しかも騎士に、魔術師に銃士。女性にとって、結婚する相手としては理想以上の人材だ。
今までは、『赤の日』に帝国の選んだ相手、・・・多分ソルと婚約し結婚する。そうとしか思っていなかった。それが今や、どうして私が選ぶことになっているのだろう。いつもの癖で、妖銃アレンを触りながら、青、赤、茶色・・・それぞれの男性の眼の色を思い浮かべ、ため息をついた。
緊張からの疲れが出たのか、二日酔いの影響か、アイリスは昼間であったが、いつの間にか眠っていた。
「・・・あい・す・・・」
誰か、懐かしい声が呼んでいる。
「・・アイリス・・・」
「アイリス、アイリス!」
大きな声で呼ばれた気がする。アイリスはぼうっとしながら、誰が自分を呼んでいるのか、目を開いた。霞のかかった先には、黒いレースを使った、華やかでありながら上品な服を着た、ふくよかな、お年を召した女性の方を見た。優しそうな、黒い眼をしている。
「はい、アイリスですが、私を呼ばれましたか。」
「あぁ、良かった。やっと話ができたわ。貴方、本当に鈍感なんだもの。」
「あの、私のことを、ご存じなのでしょうか?」
「ご存じも何も、いつも一緒にいるじゃない。今日も、足にくっついていたでしょ。」
いつも一緒で、足にくっつけている・・・それは妖銃アレンしかいない。
「アレン?―――もしかして、アレンなの?」
「そうよ、いつも私に話しかけているでしょ。貴方のことは、何でも知っているわよ。」
妖銃アレンが、自分に話しかけている・・・銃と会話ができるなんて、どれだけ凄い妖銃なのだろうか。
「私、アレンっていうくらいだから、もっとこう・・・おじ様のような方を想像していました。女性だったのですね。」
本当は、レオン風に言えば「エロいおっさん」を想像していたとは、言えなかった。
「あら、想像と違っていて、ごめんなさいね。エロいおっさんだったら、貴方の太ももも、大歓迎よね。」
そう言うと、ケタケタと笑っていた。なかなか陽気な妖銃のようだ。
「貴方も大変ねぇ~、一気に3人から求婚されているでしょ。その3人と、キスまでしているしねぇ。なかなか、情熱的でいいことだわ!それでこそ、私のマスターだわ!」
ちょっと興奮してきたみたいだ。自分のことながら、客観的にみると確かに上等なソープオペラだ。
「私も、困ってしまって。考えたこともなくて。特に、レオンとか、サボ師匠とか。」
「そうね、貴方の立場からすると、単純じゃないわよね。旧王国の姫として、国民のシンボルとして暮らしていくのか。帝国の皇子の花嫁となって、故郷を離れるのか。はたまた、腕っぷしの強い妖銃使いと、外国を旅するのか。」
どの男性の手をとっても、同じような未来はない。結婚で、女はどうしてこうも、変化しないといけないのだろうか。
「でも、単純に考えなさいよ。誰が一番、好きなのかしら?」
「その答えがすぐに出るのであれば、迷わないわ。ソル兄さまとは、長い親愛の情があるし、レオンは同級生として、等身大の恋のように思うし。サボ師匠は、そもそも私の初恋の相手なのよ。今はちょっとエロ親父になっていて困るけど・・・」
「そうねぇ、サボは困ったわねぇ。根はいい子なんだけど。ちょっと捻くれちゃったかしら。」
妖銃であろうと、こうして相談できる相手がいる。そのことが、アイリスを励ましていた。
「まぁ、悩んでも今すぐ答えが出そうにないので、流れに任せようかな、と思う自分もいるけどね。」
「そうねぇ、自分の意見が大切といっても、決めすぎるのも問題だわ。そもそも好き、なんていう感情は、時と場合で変化するものだからねぇ。そんなに時間もないし、流れに身を任せるのも、いいアイデアと思うわよ。」
主体性のない答えを、肯定してくれるとは、思わなかった。決めることのできない私を、肯定してくれる。嬉しかった。
「ふふ、そういえばアレンは、すぐに私をマスターと選んでくれたのにね。」
「あら、魂が呼び合ったのよ。当たり前だわ。」
「はぁ~、私も魂で呼ばれたい!この人だ!って、すぐにわかるといいのになぁ・・・。」
贅沢な悩みと、批判されかねないが、当人にとっては、未来を決める重要なポイントだ。どの男性を選んでも、どこか心残りが出てしまう。かといって、一人の男性を情熱的に好いているわけでは・・・今はそうではない。
「昔のように、決闘でもしてくれれば、簡単なのにね。あら、誰が勝つかしら?剣士に、銃士に、魔術師。経験があるだけ、やっぱりサボかしら?」
「そうね、その戦いは見てみたいかも・・・レオンが本気で、あの二重鞭をうならせるのを、見てみたいわ。ソウ兄さんも、剣士としてはなかなかの腕だというけれど、剣はやはり接近しないと攻撃できないしね。銃は遠方からの攻撃に優れているけれど、かえって近距離では、剣よりスピードはないし。」
決闘は遠慮したいが、3人が戦う様を想像してみたが、どう考えても現役傭兵のサボが一番だろう。サボは帝国一の妖銃使いとして、その名を知られている。
「アレン・・・、また話を聞いてね。」
「アイリス、私は傍にいるわよ。また声をかけるわ。アデュー・・・」
日が暮れたころ、アイリスはようやく目を覚ました。夢の中で話したことは、くっきりとアイリスの記憶の中にとどまった。―――妖銃アレンは、おばあちゃん銃だったことが、少しショックだった。
が、想像通りにエロいおっさんだったら、もう太ももに装着することができなくなるところだった、と、アイリスは思いながら黒光りする妖銃を眺めた。
明日は登校日だ。妖銃アレンも、制服の下に装着しておこう。自分の周囲が騒がしくなってきたことが、アイリスに緊張感を与えていた。
赤の日まで、あと3週間。慌ただしい週末であったことを思い出し、何度目かのため息をついた。




