11.夕暮れの甘い囁き
日暮れの時間が近づいてきたころ、ソルは高台にある時計台広場に、アイリスを誘った。街の中心から少し離れているが、街を一望できるその場所は、恋人たちには人気だった。生憎今日は、曇り空なのもあって、周囲に人はいなかった。
「そういえば、赤の日のアンケートだけど、レオンの話を聞いてから提出しろって、どうしたの?」
話を他の人に聞かれる恐れがないことを確認してから、アイリスはレオンに聞いた。
「ああ、アンケートな。俺にも来たが、俺の場合、ちょっと特殊なんだ。帝国の皇子である俺の相手、条件がそろえば、大抵希望通りとなる。」
「え、そんな・・・、帝国の中央が決めると聞いていたけど、皇帝一家は特別なの?」
「ああ、ただ、これは属国の王族にも、あてはまることが多い。多分、ソルディーエル王子も知っている。」
だからだろうか、ソルはアイリスが婚約者に選ばれることを前提としていた。
「ただ、例外はある。条件にそぐわないような、平民の娘だったり、相手が他の王族に求められていたり。」
ドキン、と、胸がなった。もしかしたら・・・
「アイリス、俺は、希望する相手にお前の名前を書こうと思っている。」
ドン、と叩かれたような衝撃のある言葉だった。レオンは両腕で、アイリスの肩をつかみ、その瞳をみつめて告白した。
「アイリス、俺を選べ。ソルディーエルでなく、俺を。」
「そんな、そんなこと・・・どうして。」
「帝国の皇子の意見が優先されると思うが、ソルディーエルは旧王国の王太子だ。領民の精神的な意味合いを考えると、俺の意見が覆される可能性がある。だが、相手であるお前も、王族の一人であるお前も、俺の名前を書けば、俺たちが組み合わされる可能性は高い。」
衝撃的な言葉から、何も考えられなくなっていた。ソルがアイリスの名前を書くことは容易に想像できた。
「それは、私がソルの名前を書けば、確実にソルと組み合わされる、ということでもあるわよね。」
沈黙は、回答が是であることを表していた。つまり、自分がアンケートに書く名前が、決定権を持つことになる。
「レオン、あなたは私と婚約したいの?これまで、そんな素振りなかったよね。私、考えたことなかった。」
言葉を終えると、レオンがアイリスをぐっと引き寄せて、抱きしめた。
「アイリス、俺を選べ。冒険者になりたいなら、一緒にダンジョンを回ろう。俺が守る。姫として暮らしたいなら、俺に与えられる領土に、城を立てる。・・・俺を、選べ。」
そう、言い終わるかどうかというところで、アイリスの唇を奪った。前回の軽いキスとは違い、レオンは喰いつくように唇を貪った。
「んっ・・・」
アイリスの吐息が漏れる。レオンも、唇をあわせながら囁いた。
「...アイリス、好きだ。」
少し唇を離して、囁く。そしてまた、すぐに唇を求めてきた。
「ずっと好きだった。俺を、選んでほしい。」
レオンはまた、少し唇を離すが、またすぐにアイリスの唇を貪った。
「レオン・・・」
時間の感覚がなくなっていた。挨拶のキスとは違う、情熱的なキス。その相手がレオンであることが、信じられない思いでいた。あんなに意地悪で、あんなに嫌味しか言わない、あんなに変態な皇子が、どうして私をこんなに翻弄しているのか。唇をあわせながら、私は痺れるように、何も考えられなくなっていった。
だが、そんな甘い時間は、カチャッという銃の引き金がかけられた音とともに、終了した。




