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聴診
私は、名前を呼ばれて、診察室に入った。
先生は、白髪交じりの優しそうな先生だった。白衣のよく似合うナイスミドルだ。
先生は、私の症状を聞いた後、「失礼します」と言って、鼻に棒を入れてきた。鼻の穴の中に痛みが走った。
鼻の中をぐりぐりされて、その棒は看護婦さんに渡された。
次に先生は、「胸の音を聞きますね」と言った。私は、服をまくり上げた。
私の左下腹部にタトゥーが入っている。
世界地図が書いてあって、そこに方位コンパスと、東西南北を示す矢印がコンパクトにまとまっている。
先生は、それを見て驚いた顔をした。しかし、今の少し、やんちゃな若者なら、ファッション感覚でタトゥーを入れる時代だ。先生は、すぐに、普通の顔に戻った。
「はい、背中を見せてください。」
私は、椅子でくるっと回った。
背中にもタトゥーが入っている。
どくろの牛が、水晶玉のような光沢のある玉を頭の角の中に抱いている。
おまけに、背中には昔誤解で裏社会の人間に刺された傷痕があった。手術の傷痕とは明らかに違う。だから、私は、なるべく病院を避けてきたのだ。