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7 アイミュラーとドラゴニア~私は知らないことが多すぎる

 


 私は、ゆっくりと目を開ける。


 まさか、自分が生きて戻ってくるとは思わなかった。

 しかも、契約には成功したが、使役する事などは到底無理な状態とは。

 皮肉がききすぎている。


 父上に告げた時のあの顔は見ものだった。

 でき損ないが契約に成功するとは思わなかったのだろう。

 あの顔を見ただけでも、生きて戻った甲斐はあるというものだろう。

 一矢報いてやった。


 だが、この事をローゼリア達には教えられない。

 家と、私の恥になる。

 既に察していようとも、明言はできない。


 過ごした日々に後悔などない。

 誰に決められたのでもない、私自身が選択してきた人生だ。

 自分の人生の責任は、自分でとる。


 まあ、少し後悔と言ったら、身長の事であろうか。

 成長期に睡眠と栄養を取らなかったから、私の身長は切ない事になってしまったのだろうか……


 ルーシェは14歳にも関わらず、既に私の身長を突破している。

 ………………私は考える事をやめた。


「カミュ。言いたくないのなら、言わなくても良いです。生きていれば、言えない事もあるでしょう。ですが、これだけは言っておきますわ」


 ローゼリアが立ち上がり、私の目の前まで移動してくる。

 なんだ……?



 パーーーーン!!!



 手を広げたかと思ったら、思いっきり、両手で私の両頬を挟み込んだ。


「あら、いい音」


「いい音。じゃない! いきなり何をするのだ!」


 ヒリヒリする頬を押さえ、抗議の声をあげる。

 絶対、赤くなってる。


「これは、私とバドを心配させた罰です。バドじゃなく、私だった事に感謝なさい」


 確かに、バドがやっていたら私の頬は凄まじく腫れる事になっていただろう。

 だが……


「感謝などするか!」


「カミュ。貴方は、自分が死んでも誰も悲しまないと思っていませんか?」


 うぐっ。

 それは確かに……むしろ、私がいなくなった方が喜ぶ者の方が多いだろうからな。


「貴方は、自分を大切にしなさすぎです。私とバドは貴方の友人でしょう? 貴方が死んだら、私達が悲しむとは思わなかったのですか?」


 ……正直、頭の中をかすめもしなかった。


「思い付きもしなかったという顔ですわね。今まで生き残るのに必死で、周囲を全然見てこなかったから気づかないのです。もう、バルモルト家に忠をつくす必要はないでしょう? 自分の為に生きてください」


 ……自分の為に生きろと言われても、どうすればいいのか全然解らないんだが。


「ローゼリア、少しいいかー?」


 今まで黙ってたバドが声を出す。


「いいですわよ、バド。どうしましたの?」


「さっきからカミュを見てて、少し気になってな。カミュ、その影はなんだ?」


 バドが指差したのは、室内でもクッキリと見えている私の影。


「ああ、それはバハムートが私に寄生しているからだ」


「「は?」」


 二人の声が重なる。


「ちょ、ちょっと待って? カミュ。貴方、契約は失敗したのではなくて?」


「失礼な。失敗したなんて一言も言っていない。一応、成功したんだ」


「一応? ……カミュ、詳しく話してちょうだい」


 私は、二人にバハムートとの契約の事に関して説明した。

 そうしたら、ローゼリアはズドーンと肩を落とした。

 バドはなんだか、とても深刻そうな顔をしている。


 うむ、二人も召喚師だからな。

 バハムートが面倒くさがりのひきこもりなんて、認めたくなかったのだろう。


「カミュ……貴方、これがどれほど大変な事か解っていますの?」


「何がだ? 契約はできたがひきこもりだぞ? 私がエリートから劣等生になっただけだ」


「それだけではありません!! ……カミュ、この事、他に誰かに教えましたか?」


「帰って来て即、父上に教えたな。陛下と対応を考えるから、大人しくしておけと言われたぞ」


 ガタガタっと音をたてて、慌ててローゼリアが立ち上がる。

 皇女としての品を保つ事を第1としているローゼリアが珍しい。


「それはいつの事ですの!?」


「昨日だな」


「っ! この、お馬鹿ーー!!!!!!」


 パーーーーン!!!


「痛いではないか! そう何度も叩かれては、私の頬が変形してしまう!」


「変形しておしまいなさい! よりにもよってバルモルト公爵とお父様に教えてしまうなんて、何を考えていますの!?」


「父上の鼻を明かす事しか考えていなかった(キリッ)」


「もう一度ぶっ叩いてやりますわ!」


 部屋の中でローゼリアとの追いかけっこが始まった。

 訳がわからぬまま叩かれてなるものか!

 ぶちギレているローゼリアは鼻息荒く迫ってくる。


「はーい、そこでストーップ」


 のんびりとしたバドによって、私もローゼリアも捕まった。

 二人とも子猫のように首根っこを捕まれている。


 バド!さすが親友!私の危機を助けてくれたのだな!


「ローゼリア、じゃれあう前に説明しよう。カミュは、何で怒られているのかわかっていないぞ」


 断じて、じゃれあい等という可愛いものではなかった。


「そうですわね、私とした事が」


 バドからおろされ、またソファーに腰かける。

 ふう、大変な目にあった。

 喉がかわいたので、紅茶を一口。

 すっかり冷めてしまっているが、さすがローゼリアお気に入りの紅茶だ。

 冷めても中々の味。


「カミュ、聖女エルマの事は当然知っていますわね」


 もちろんだ。

 バハムートの初代契約者で、ドラゴニア(旧ミストレイル)を救った救国の聖女。


「知っててもらわないと困りますわ。そのドラゴニアを侵攻した国がどこかは知っていますか?」


「……知らないな」


 教科書でも文献でも、「大国」としか記されていない。


「その大国とはアイミュラー皇国です」


「!!!?」


 待て待て待て待て待て待て!!!


「文献なんかでは、大国はドラゴニアの隣国だと書いているぞ!? 皇国とドラゴニアは国を挟んでいる! 隣国ではない!」


「……ドラゴニアとの争いの後、クーデターが起こりいくつかに分裂したのです。バハムートによって軍が弱体化していた為、防ぐ手段がありませんでした」


 そうだったのか……

 だが。


「なぜ、隠す必要が?」


「プライドの問題でしょう。アイミュラーはその当時から大国でした。軍事に優れ、経済力があり、何もかもがドラゴニアより勝っていた。大勝して当たり前の戦いだったのです。それが、蓋をあけてみればバハムートの加護でこてんぱんにやられ、大量の戦死者を出し、何の成果もあげられなかった事に国民は激怒。国は割れました。そんな歴史、残せるわけがないでしょう」


 まあ、確かに。

 黒歴史だ。


「なので、アイミュラー皇国では、徹底的に隠されているのです」


 ん?アイミュラー皇国では?

 つまりそれは……


「ええ。他国では思いっきり、大国ではなくアイミュラー皇国と記されています。アイミュラーは、言ってしまえば召喚師による独裁政権ですからね。アイミュラーや召喚師に都合が悪い事実は徹底的に隠されます。出入国審査が厳しいのもそのせいです」


 不都合な事実や知識が入ってこないように……か。

 思えば、他国が出版した書籍の取り寄せも厳しい審査が入っていたな。

 それが当たり前と思っていたから何も感じなかったが。

 他国に友人もいないしな。


 だが……


「確かに驚くべき事実だが、私がぶっ叩かれるほどの事か?」


 私の形が整った美しい頬を歪ませるほどの理由ではない!


「ここまでが前提です。本題はここから。ドラゴニアが勝利した時に、敗戦国とドラゴニアとの間に結ばれた和睦の条件が問題なのです」


 和睦の条件?

 この先、ドラゴニアに攻めこまない事。だろう?


「正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。契約者がいないバハムートは竜王山が住みかです。この場合は、アイミュラーはドラゴニアに攻め込めません」


 竜王山がドラゴニアにあるからだな。


「でも今はカミュ、貴方と契約しています。なので、バハムートの住みかはカミュ、貴方です。その貴方自身は、今どこにいますか?」


 どこって……アイミュラーだな。


「そう、今のバハムートの住みかはアイミュラー皇国。条約を守る必要がない。今すぐにでも、ドラゴニアに攻め込めるのです」


 攻め込める。

 その言葉に、ゴクリと息を呑む。


「だ、だが! アイミュラーがドラゴニアに攻めこむ理由はなんなのだ! 竜王山があるとはいえ、ドラゴニアは小国! 大国であるアイミュラーがわざわざ攻めこむ理由は!?」


 わざわざ戦争を起こす理由。

 益があるとは思えん。

 民衆も、納得しないはずだ。


「竜王山と竜王バハムート。理由はそれです」


「……何?」


「この世界は召喚師と召喚獣がとても重要です。その召喚師達にとっての中心は竜王バハムート。つまり、竜王山があるドラゴニアです。アイミュラーが世界の中心だと思っているのはアイミュラーだけ。実際の世界の中心はドラゴニアです」


 ……そうだったのか。


「それが、アイミュラーは気に入らないのですよ。ドラゴニアより全てが勝っているのに、世界の中心はアイミュラーではない。というのが。だから、奪おうとしているのです」


 ゾクッとした。

 それだけの為に?

 それだけの為に戦争を起こそうとしているのか?


「嘘と偽りにまみれ、虚栄心が強く、虚飾ばかりの国と皇帝。それが、アイミュラー皇国です」


 ……私は、今まで何を見ていたのか。

 自分の事で精一杯だったとはいえ、自分の住んでいる国の事について私は余りにも知らなさすぎた。

 いや、知ろうともしなかった。


「……バドも、知っていたのか?」


「まあ……な。ほら、うちは商売やってるから。そこから色々と。召喚師教育を受けていない家族はなんとも思ってないみたいだけど、俺は色々思うところはあった」


「バドも知っているのに……私は、戦争のきっかけを作り出してしまったのか……?」


 ポリポリと言いにくそうにこめかみをかくバド。


「まあ……そうとは言えない」


 どういう事だ?


「6年前。先代が崩御し、現皇帝が帝位に就いてから締め付けが更に厳しくなった。そこから、軍に就職する召喚師も激増している」


先代皇帝(おじいさま)の頃より、ここ6年で3倍です」


 3倍!?多すぎる。

 それでは民間に所属し、民の暮らしを豊かにする為の召喚師が激減しているという事ではないか。


「カミュの件がなくとも、現皇帝(おとうさま)は確実に戦争の準備をしているという事です。ですが、バハムートにカミュと言う契約者ができた事で、一刻の猶予もありません。今、この瞬間カミュが捕縛され監禁されてもおかしくないのです。契約の事を知っていたら、皇宮などに連れてきませんでしたのに。今すぐに、契約解除をしてください」


「ローゼリア、その事なんだが……」


 これを言ったらまた怒られる。

 私は、モゴモゴと話し始めようとした。


 その瞬間。

 バアァーーーン!!と、盛大な音をたて、部屋の扉が開いた。


 一足遅かったみたいだ。



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