表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/80

5 悪魔襲来2~巨大クロワッサン喪失

 


「さーて、どうしてくれようかしら」


 鞭にからめとられたまま、地面に転がる芋虫な私。

 そんな私を舌なめずりしながら見下ろす捕食者。

 せめてほどいてほしい。


「ダメです。ほどいたら、確実に貴方は逃げるでしょう」


 チッ!


 ローゼリア=シャルドゥ=アイミュラー 18歳 ♀

 通称ロゼ。

 名前の通り、ここアイミュラー皇国の第1皇女様だ。

 上に変態兄がいるから、皇位継承権は第2位だが。

 その変態兄は研究馬鹿なので、ローゼリアが皇位継承権1位ならば…という嘆きは日々伝わってくる。


 私との関係は……いわゆる幼なじみというものだろうか。

 幼い頃はそこまで頻繁に会う関係でもなかったが。

 14歳で互いに召喚師の学院に入学してからは、学友でもあるからほぼ毎日顔をあわせていた。


 お気に入りの金髪たてロールをわっさわっさと揺らして闊歩するさまは、まさしく皇女に相応しい姿だろう。

 私にとっては、どこの巨大クロワッサンだ。という感じだが。


 憎々しげにクロワッサンを見上げると……ない。


「ご自慢の巨大クロワッサンはどこにいったのだ!?」


「オーッホッホ! やっと気づきましたの。あれは(わたくし)の気合を込めた戦闘服ですが、セットに時間がかかるのです。急いでいましたので、今日はたてロールではありませんのよ」


 だから今日は早かったのか。


 腰より更に長い、サラサラとした金髪が風になびく。

 あれは……ハーフアップというのだろうか。

 後ろ髪を編み込んで半分あげ、残りの髪はそのまま流している。


 服装もいつもの豪奢で華美なドレスではなく、簡素だ。

 首周りのファーがモコモコしてローゼリアの顔が埋もれ、更に小顔に見える。

 化粧も、いつもより薄目ではないだろうか。


 ふむ……


「ローゼリア、そっちの方が似合ってるんじゃないか? 少なくとも、私はこちらの方が好みだ」


 鞭で拘束され、芋虫になりながらも感想を伝える。


「!!???? は、反則。反則ですわ、いきなり……」


 ローゼリアが真っ赤な顔をしながらしゃがみこむ。

 どうしたのだ?いつもなら鞭を振り回す女王様なのに。

 やはり、金髪たてロールじゃないと調子がでないのだろうか。


 モゾモゾと動き、ローゼリアの方に身体を移動させる。


「ローゼリア、どうしたのだ? 大丈夫か?」


「カミュ!!」


「うぉっ!?」


 しゃがみこんでいたローゼリアがいきなり顔をあげた。

 危なかった、ぶつかる所だった。


「こちらの方が似合っていると言いましたわね」


「言った」


「こちらの方が好みだとも言いましたわね」


「言った」


「こちらの方が、か、可愛いとも言いましたわね」


「言ってな……」


「わかりましたわ!」


 私の言葉を遮って、何か一人で納得した。


「カミュがそこまで言うのなら、私の髪型はハーフアップを基本といたしましょう。金髪たてロールは、いざという時の戦闘服です」


 いや、だから言ってない。


「ええ、ええ。みなまで言わなくても良いのです。これからは毎日、私の可憐な姿を見る事ができるのですから。崇め奉りなさい、アイミュラー皇国の宝石箱と謳われたこの私を!」


 人の話を聞かずドヤ顔の皇女様。

 ここは市民が行き交う公共の道路だという事はご存じでしょうか。

 ここだけ結界が張られたかのように人が寄ってきませんが。

 遠巻きに見られていますけど。

 いや、市民の皆様方は皇女様を見られて嬉しがっていますけどね。

 私は衆人環視の中、ずっと芋虫なんだ!

 早くほどけ!!


「あら、忘れていましたわ」


 この女……


 ローゼリアはヒョイッと手を動かし、私の身体に巻き付いていた鞭を手もとに戻す。

 相変わらず見事な鞭捌きだ。

 ようやく解放された私は、立ち上がりながらコートやマフラーについた雪をほろい落とす。


「でも、カミュなら召喚で簡単に抜け出せますでしょう?」


 ……私はさっと目をそらし、少しずつ後退しながら、ローゼリアから距離を取る。

 が、バドにがっしりと羽交い締めにされた。


「逃げちゃダメだぞー、カミュ」


「バド! 友人の私を見捨てる気か!?」


「ナイスですわ、バド。さ、行きますわよ」


 羽交い締めにされたまま、ローゼリアが乗ってきた皇家の馬車に乗せられる。


「ゆっくりと、事情を聞かせてもらいますからね。カミュ」


 天使の微笑と名高い、ローゼリアの微笑みを見た私は逃げる事を諦めた。

 天使とは名ばかりの、悪魔の微笑。


 その微笑みを見た瞬間、長年の付き合いの私はローゼリアが激怒している事が解った。

 この表情のローゼリアに逆らってはいけない……

 私は、来たりくる恐怖からどう逃げようと、ダラダラと冷や汗をかきまくっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ