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42 イリアレーナ王女3~目覚め、片鱗



 これはきっと夢だ。

 小さな泉のほとりに寝そべる黒い竜。

 その竜に寄りかかっている私。


 そのほとりに咲く白い花。

 頭を垂れたような茎の先に、丸みを帯びたランプのような白い花びらがついている。


 私は笑顔で、寝そべる黒い竜も笑っている。

 2人の間には、とても穏やかな空気が流れていた。


 あの男は私。

 なら、黒い竜はバハムート。

 場所は竜王山だろうか。

 笑いながら会話している……

 私とバハムートが?

 親しい間柄だったのか?



 場面が変わる。


 薄曇りの空の下、私が立ち尽くしている。


「何故駄目なのだ。私はお主と契約がしたい。下山したくはない、ここにいたいのだ」


『……駄目だ。人間が長くここにいてはいけない』


「友だと、言ってくれたではないか……!」


『私は召喚獣、竜王バハムート。……人間の友などいない』


 その言葉に、夢の中の私は駆け出した。

 その背中を見送りながら、バハムートはポツリと呟く。


『お主と過ごした一時。決して忘れはせぬぞ、カミュ。我の唯一の友よ』


 その言葉と姿に、私は少なからず動揺した。

 私の記憶の中のバハムートは、軽薄でちゃらんぽらんで。

 決してこのような偉大な召喚獣の威厳を放っているものではなかったから。



 また場面が変わる。


 炎に包まれた荒れ地、焦げる草花。

 煙と曇天で陽の光が届いていないのか、とても暗い。


 その宙に浮かぶ紅い影。

 あれ……は……


「貴方を殺す者よ」


 この……声は……


「あっ、ぐぅっ……!!」


 夢の中だというのに、また頭痛がする。

 痛む頭をおさえる私を尻目に、またもや場面は変わる。



「……リ……チェ、貴様ーー!!!!」


 夢の中の私が何かを叫び、杖を振りかざしながら走っている。

 その声は、怒りに満ちている。

 そんな私に向かって無数の炎剣が襲いかかる。

 私は、それに気づいていない。


 あわや大惨事というところで、横から飛び出してきた影が私を救った。

 勢いよく地面を転がる。

 あの影は……


 イリアレーナ王女?



 またも場面が変わる。


 血まみれになった私が、地面に横たわっている。

 その腹部には、深々と剣が突き刺さっていた。


「しっかり! 目を閉じては駄目です!」


 珍しく慌てているイリアレーナ王女。

 不機嫌そうな顔か怒っている顔しか見たことがないから、何だか感慨深い。



 次から次へと場面が変わる。

 これは、やはり私の過去なのか?

 忘れてしまっている、竜王山での出来事。


 次の場面は、地面に横たわった私が、イリアレーナ王女やバハムートに押さえつけられている図だった。

 何だ、これは。


『我自身をなるべく小さな魔力体に変換しなくてはならぬのだが、機会がなかったからやった事がなくてな。やり方は解るのだが、どんな感じなのか正直よく解らん。初心者だからな。その点はシヴァが経験者だから、こうして手伝ってもらうのだ』


 会話的に、契約した後の事か?

 バハムートが私の体内に住み着く時の出来事。

 いや、バハムートが住み着いていたのは体内ではなく私の影だ。

 体内から影に移動した?


 しかし、気になるのはそれより、シヴァが経験者だという事。

 シヴァは、代々フェブラントの第1王女と専属契約をかわしていると聞いた。

 私は勝手に、フェブラント王家に伝わる宝石かなんかに住み着いていると思っていたが、体内だったのか。


 なら、イリアレーナ王女も強大な名ありが体内にいる事により、何かの不調があるのか?

 パッと見、何ともなさそうだったが……

 そういえば、と思いつきそうになった時、腹部に痛みがはしり視界が歪んだ。


 最後に視界が捉えたのは、あの白い花だった。



 ◆◆◆◆◆◆



「竜の……なみだ……」


 目をあけ、今自身が口にした言葉に首をかしげる。

 竜の涙とは、一体何だ?

 ここは……


 見覚えのある景色だ。

 天蓋つきのベッド。

 枕も敷布も掛布もモッコモコ。

 フェブラント王宮の一室だ。


「私は……たしか……」


 そうだ。イリアレーナ王女に思い出せと言われ、腹部に激痛がはしり気を失ったのだ。

 ゆっくりと体を起こせば、腹部にはしる痛み。

 激痛とまではいかず耐えられるほどだが、それでも不快な痛みだ。


 気を失っている間に着替えさせてもらったのか、服も変わっている。

 防寒に適したモッコモコの寝間着だ。

 おそるおそる服をめくり、腹部の状態を確認する。

 白い包帯が巻かれており、僅かに滲んだ血が乾いていた。

 さすがに、包帯をとり傷まで確認する勇気は私にはない。

 巻き直せないだろうしな。


 寝間着を直し、私の服を探すが見当たらない。

 洗濯中なのだろうか。

 サイドテーブルに水差しを見つけ、ゆっくりと口に含む。

 少し温くなった水が、私の唇や喉を潤していく。

 暖炉も赤々と火が入っている。


 うむ。私は、2度も同じ失敗を繰り返さない。

 暖炉には近づかぬ。


 そんな時、ゆっくりと部屋の扉が開いた。


「失礼しま……まあまあまあ! 目をお覚ましになられたのですね!」


 入ってきたのは、侮れぬ侍女アルマだった。


「3日も眠っていたのですよ。無事で良うございました」


 3日。

 大分寝てしまった。


「食事はとれそうですか? 軽いものを今お出ししますね」


 そう言い、アルマ殿は部屋を出ていく。

 タイタンの里からここまで、どれほどの時間がかかるのだろうか。

 3日たったのなら、バドとローゼリアは大分近くまで来ているのでは?

 それと、アイミュラー軍……


「……まずは、体調を整えねばな」


 腹部の痛みをこらえながら、私はベッドから起き上がった。



 柔らかく炊かれたオートミールが喉を優しく滑り落ちる。

 薄めに味付けられているのな、弱った身体にはちょうど良い。


「おかわりもありますからね」


「いや、もう十分だ。ありがとう」


 給仕してくれたアルマに礼を言い、温かいお茶をゆっくりと飲む。

 先ほど手渡された私のマントとローブ。

 傷んだり汚れたりしていたから、私が眠っている間に直してくれていたらしい。

 補修してくれた職人は、中々の腕だ。

 補修した場所がどこか、持ち主の私ですら解らぬ。


「私はさがりますが、何かあったらこちらをお鳴らしください」


 そう言いながら鳴らすのは、チリンチリンと音がする呼び鈴。


「この部屋から出る事は可能だろうか?」


「申し訳ありませんが、それは……」


「アイミュラー軍の進軍状況は?」


「申し訳ありませんが、それも……」


「ならば――」



「それならば可能です。少々お待ち下さいませ。それと、後でイリアレーナ王女がお見えになられます」


 ふむ。それはちょうど良い


「では、失礼いたします」


 アルマが礼をして部屋を辞する。

 今のうちに、と私は着替える事にした。



とてつもなく遅くなって申し訳ありません。

一番重要なところは書き終わったので、ここまで長くお待たせする事は多分もうないと思います。

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