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35 タイタンの一族の村2~美少女(?)探偵アシュリーちゃん

 


 3人の行動を気にする余裕もなく、1人長の家を出る。

 夕食の支度の時間なのか、煮炊きの煙があがる。

 野菜を刻む音や笑い声。

 無性に1人になりたくて、人の気配のないところを求めて、ふらふらと歩き回る。


 ふと、タイタンの祭壇の近くに階段を見つけた。

 登りの螺旋階段。

 何かに誘われるように、階段に足をかける。

 1分近くずっと上がり続け、上がり始めた事を後悔し始めた頃に、太陽の下に出た。



 屋上……みたいなものだろうか。

 外は外だが、結界の気配がするので一応結界の中らしい。

 南側に私の背丈よりは高い岩壁があり、何か彫られている。

 大分薄くなってきていてよく解らないが、何かの壁画か?


 壁画を避け壁にもたれかかり、ずるずると腰をおろす。

 沈みかけた夕陽。赤く、黒く染まる雪原。

 ここから村は……見えないか。

 アイミュラー軍の動向を知りたかったが、しょうがない。


 瞼を強く閉じ、膝を抱えこむ。

 幼い頃からのいつもの体勢。

 小屋に閉じ込められて泣く時は、いつもこの体勢だった。

 私はもう、何もできない小さな幼子でないはずなのに。


 忘れたら、どんなに楽になれるだろう。

 だが、決して忘れてはならないのだ。

 エリンとフォルマジーアの犠牲。

 封印、闇、楔。

 次から次へと、色々な事がわき出てくる。


 長は言っていた。

 楔となり得る巫子を、外から見つけなくてはいけないと。

 強い魔力を持つ気高き魂。

 この条件にあてはまる者が、今この場にいるのだ。


 アシュリーは魔力の強さ的に論外。

 ローゼリアとバドも足りない。

 私は魔力は余裕で足りているが、気高き魂にはあてはまらないだろう。

 この村にいる中で条件に全てあてはまる者達。

 それは、ヴェインとレオだ。


 抱き締めてみて解ったが、力ある術師や召喚獣でなければ気づかぬほどの身体の奥底に、強大な魔力が眠っている。

 バドやローゼリアを遥かにしのぐほどの、強大な魔力が。


 震える足で大勢の前に出、声を張り上げ、出会ったばかりの私達を助けてくれた2人。

 これが、気高き魂でなければなんなのか。

 2人は、巫子と楔になり得る素質がある。

 だが……認められるわけがない。


 あの小さな2人を。目に涙をためていた2人を。声を張り上げた2人を。私を力いっぱい抱き締めた2人を……

 私は、もう2人の名前も顔も、温もりも知っている。

 エリンの時のような後悔はもうしたくない。

 誰かが泣くのは、もう嫌だ。


 ……どうして、このような事態になっているのか。

 バハムートと契約して、父上に認められたかっただけなのに。

 見返したかっただけなのに。

 どんどんどんどん、わけがわからなくなってくる。


 私が、バハムートと契約しようなんて思ったからか?

 私と契約しないで、バハムートが竜王山にいたら、こんな事にはならなかったのではないのか?

 ぐるぐるぐるぐると、嫌な考えが頭の中を回り続ける。


「わたし……は……」


 強く閉じていた瞼を開け、顔をあげる。

 そこに映るは……


「あ、起きてた?」


 私を覗きこむアシュリーの顔のドアップ。


「……何をしているのだ?」


「巨人男に追いかけてって言われたから」


 形容詞的にバドだろうか。

 美しい景色を見るつもりだったのに、視界にあらわれたのはアシュリー。

 しかも、口に何かの食べかすつき。

 最悪だ。


「巨人男ではない。バド、バドゥル=マルタンだ。」


「おーけー」


 この、適当な返事。

 これは、覚える気ゼロだな。

 ……まあ、良い。


 壁画を指でなぞっているアシュリー。

 その背中に声をかける。


「ローゼリアとバドは下か?」


「皇女様は身体がキツいらしくて休んでる。巨人は土属性召喚獣で住居拡張の手伝いしてたかな」


 ユニコーンで怪我を治しまくっていたからな。

 魔力の消費でキツいのだろう。

 見舞いに行きたいが、私が行けば逆にローゼリアは休まらない。

 ……もどかしい。


「……ケンカ別れ?」


 ブオッフ!

 いきなりの突っ込みに、思わず吹き出してしまったではないか!


「私とローゼリアは、そのような関係ではない!」


「え、マジ? でも、お互いに意識してるでしょ?」


「……それは」


 くぅ、本当に遠慮がないな。

 バドや他の者が絶対に突っ込んでこない事を、平然と聞いてくる。


「こ、個人的な事だ。お主に言うべき事ではない」


「いいえ。私に知る権利はあります。何故なら私は、皇女様の護衛騎士(今のところ)だから!」


 言ってる事はそこそこまともなのに、何故仰々しいポーズをつけるのか。


「護衛騎士として、皇女様の事は知っておく必要があります! 仕事として!」


 くっ!アシュリーに護衛騎士をすすめ、転職させたのは私だ。

 推薦した責任というものがある。


「くぅぅ!」


「さあ! さあさあさあ!」


 しょうがない……か。

 分が悪い事を悟った私は、観念した。


「……本当に、お主が期待しているような関係ではないのだ。一国の皇女だぞ? ローゼリアはしかるべき国か高位貴族のもとに嫁ぐ事になる」


 バルモルト家はアイミュラー1の高位貴族だが、当主である父上に嫌われている以上、私とそういう関係になる事はあり得ない。

 むしろ、ローゼリアの将来の伴侶として一番可能性が高いのは……

 私とて、その位の事は理解できる。

 だから隠さなくても良いものを……


「ふーん? そうなの? ならいいや」


 こちらを見もせず、壁画をいじるアシュリー。

 あれほど催促しておいてこの女は……!

 しかも、タイタンの一族の村に残る壁画など、とても重要なものではないのか?

 それをいじくり続けるな!


「んじゃー、それはいいとしてー」


 それとは何だ、それとは!


「大声出して出てった理由は? 皇女様も巨人も長も心配してたけど?」


「それ……は……」


 それこそ、言えるものではない。

 世界の危機に、自分の大切な人達を犠牲にしたくないなど……


「んー、言いたくない感じ? それなら、この美少女探偵アシュリーちゃんが推理してみせましょう」


 誰が美少女だ、誰が。

 手の汚れを払いおとしながら立ち上がり、マントを自分で翻しながら、またもや仰々しいポーズをとり始めた。


「えー、あの時は楔の話をしていましたね。タイタンの一族には巫子がいない。外から見つけなきゃいけないという話でしたねー」


 ぐるぐるぐるぐると、辺りを歩き回りながら話している。

 正直、とてもウザい。


「そこで出ていった。つまり、君は巫子になれる人物に心当たりがあったのだー!」


 ビシィッ!と効果音つきで、人を指でさしてくる。

 まあ、それくらいはアシュリーでも見当がつくか。


「タイタンの一族の人達は、選択肢から外れる。つまり、候補者は村の人達か私達。しかし! 美少女探偵アシュリーちゃんには、すでに見当はついています!」


 この小芝居はいつまで続くのだろうか。

 もう、陽が落ちる寸前なのだが。


「そう。楔になり得る、強い魔力を持ち、超絶美少女で超優秀な気高き魂」


 なんか、余計な表現ついた。


「それは!! 美少女探偵アシュリーちゃんに他ならない!!」


「アホか!!」


 時間使って、小芝居見せられた結果がこれか!

 私の貴重な時間を返せ!


「何でー!? 私っていう選択肢以外なくない!?」


「一番あり得ぬ選択肢だ! 強い魔力の持ち主だぞ!? 優先ですらまともに呼び出せないポンコツ術師が何を言うか!」


「呼び出せますー! ちゃんと、ニュルンベルトを呼び出しましたー!」


「まともに制御も出来ていなかったではないか! 呼び出すのに何分かかったと思っている! 論外だ、論外!!」


 はあ。何故、私はこんな無意味なやり取りを……

 アシュリーはまだ納得がいっていないのか、ぶーぶーと不満を口にしている。


「さって……まあ、冗談はこのくらいにして――」


 雰囲気が変わる。


「あの、小さな兄弟でしょ?」


 落陽。

 辺りが暗闇に包まれ、激しく吹きすさぶ風の音だけが響く。

 私は、突然のアシュリーの言葉に動くことすらできなかった。



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