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32 村3~奮起の兄弟

 


「だめえぇぇぇぇーー!!」


 空を切り裂く、悲鳴にも似た絶叫。

 村人達の身体のすき間から転がり出てきたのは、2人の男児だった。


 あの子どもらは……


 どこかで見た覚えがあると思えば、間一髪のところで私が助けた兄弟ではないか。

 ふいに、めり込んだ感触と血まみれのブラックスピネルの杖を思いだしかぶりを振る。


 兄弟は立ち上がり、弟は兄の足にしがみつき、兄は弟を守るかのように肩をかき抱く。


「みんな、何してるのさ!? そのお兄ちゃん達は僕達をたすけてくれたんだよ!? お兄ちゃん達がいなかったら、もっと危なかったよ! 僕達だって、そこの小さいお兄ちゃんに助けられたんだ!」


 ()()()という表現が私の心臓に突き刺さり、血へどを吐く。

 あのような子ども達にまで小さい認定されるとは……!


「ベルマおばちゃんだって、お姉ちゃんに傷治してもらったじゃんか! ジャックおじちゃんも、ミルトおばあちゃんも! ユグズおじちゃんだってそうでしょう!? なのに何で!?」


 幾人かの村人が、後ろめたい事を指されたかのように目を伏せる。

 だが、ユグズと呼ばれた男は退かず、更に声をはりあげる。


「ヴェイン、レオ! お前達の両親だって殺されたじゃないか!」


 あの兄弟の名はヴェインとレオと言うのか。

 その言葉に、弟のレオは目に涙をためる。

 兄のヴェインは、己の足に更にしがみつくレオに視線をやり、臆する事なく叫ぶ。


「お父さんとお母さんを殺したのは、アイミュラーの兵士だ! お兄ちゃん達じゃない! おじちゃん達はいつも言ってるじゃないか! 助けられたら、何かされたらお礼を忘れちゃいけない。謝罪と謝礼は人として当然の事だ。って! なのに何で、お礼も言わずに責めてるのさ!」


 怖いだろう。

 大人が何人も怒声を張り上げている中出てきて叫ぶのは、とても怖かったはずだ。

 そんな中、兄弟2人で支えあい、震える足で立ち上がり、目に涙をためながら精一杯叫んでいる。


「お兄ちゃん達は助けてくれた! みんながしてるのは、ただの八つ当たりじゃないか!」


 ヴェインの必死の叫びに、さすがのユグズもくるものがあったらしい。

 皆、ヴェインが言っている事は痛いほど解っている。

 だが、ぶつけずにはいられなかったのだろう。

 平穏に過ごしていたものが突如として壊され、大切な人が奪われる。

 八つ当たりもしょうがない。

 ユグズも、声には怒りだけではなく隠しきれない悲しみが満ちていた。


「ユグズ。もう、やめておきなさい」


 村長が声をかけると、ユグズは膝から崩れ落ち、声を殺して泣いた。




 ユグズが他の村人に支えられながら奥へ消え、村人達はこちらをチラチラと気にしている。


「申し訳ございません」


 村長が謝罪の言葉を述べるが、謝るのはこちらの方だ。

 配慮のない格好をしていた為、傷口を広げてしまった。


「ユグズも、普段はあのように感情を荒ぶらせる者ではないのですが……」


「こちらは気にしていませんから、大丈夫ですわ。失礼ですが、もしやユグズさんも?」


 目を伏せ、ゆっくりと首を振る村長。


「妻と一人息子を……今日が、その息子の10歳の誕生日だったのです」


 何と……

 それは、絶望し激昂もしよう。


「それ……は……なんと声をかけて良いのやら」


「何も……今は、何も響きますまい。……準備ができたら、出発いたしましょう」


 私達の間に、重苦しい空気が流れる。

 ふと、私の視界に映るものがあった。

 そうだ。出発する前に、礼をしなければならん。

 私は、重い身体を引きずりながら兄弟のもとへ向かった。


 兄弟は、焼け落ちた1軒の家の前で佇んでいた。

 こちらに気がつき、少し瞳に色が戻る。


「怪我は、大丈夫か?」


「うん、お姉ちゃんが治してくれたから」


「そうか……」


 ……伝えたい事はたくさんあるのに、どう切り出せば良いのやら。

 子どもと触れあってきた事などないからな。

 私が逡巡していると、ヴェインの方から話しかけてくる。


「あの、助けてくれてありがとう。小さなお兄ちゃん」


 ……うむ、まずはここから訂正しよう。


「小さなお兄ちゃんではない。私はカミュ。カミュ=バルモルト18歳だ。カミュと呼ぶがいい」


「あ、僕はヴェイン9歳。こっちが弟のレオ5歳……です」


 ヴェインの足にしがみつきながら、レオがペコリと会釈をする。

 うむ、挨拶ができるとは礼儀正しい子ども達だ。


「……ここは、お主達の家か?」


「……火をつけられて燃えちゃって。持ち出せたのは、小さな鞄1つだけです」


「僕の……本……」


 レオが涙声で呟きながら、ヴェインの上着に顔を埋める。


「本?」


「あ、レオは5歳の誕生日に絵本を買ってもらって。本は高いから、普段は中々買えないんだけど、お父さんとお母さんが奮発してくれて……でも、燃えちゃった……」


「う、うぅ~……」


「ああ、泣くなよ。レオ。僕まで泣きたくなってくるじゃない……か……」


 2人して涙声になり、抱き締めあいながら泣いている。

 泣き止ませる手段を知らない私は、焦って自分のマントの中をひっくり返して、何かないか探す。


 子どもに宝石や短剣などあげても泣き止まぬだろうし、えぇと、うーんと……はっ!これだ!


「こ、これをやるから泣き止むのだ!」


「これ……は……?」


「飴玉という甘菓子だ。食べてみるといい」


 丁度2つあったので、兄弟に1つずつやる。

 いざという時の食糧だったが、仕方ない。

 泣く子には弱いのだ。


 恐る恐る飴玉を口に放り込んだ2人は、一気に花開く笑顔に変わった。


「おいしい! お兄ちゃん、これすっごくおいしいよ!」


「ほんとだ! すっごい甘い!」


「うむうむ、そうであろう。アイミュラーの専用職人が手間暇かけて作った高級品であるからな」


 砂糖はまだまだ値がはる。

 小さな村の子どもにとって、甘菓子は滅多に食べられぬごちそうであろう。

 うむうむ。やはり、子どもには笑顔が似合う。


「「……」」


「……どうしたのだ?」


 やっと泣き止んだかと思えば、また俯いて重苦しい顔になっている。


「お父さんとお母さんにも、食べさせてあげたかったな……うぐ、えぐっ……」


 のおぁぁーーーー!!

 2人して、うわーんうわーん。と、泣き声の大合唱だと!?

 しかもこちらを怪訝な顔で見ている村人数名。

 怪しまれている!私が泣かせたと思われている!

 また、面倒な事になってしまうではないか!


「飴玉はもうないのだ! お、お主達の父母の墓へ、包み紙を埋葬しに行こうではないか!」


 苦し紛れの提案だったが、中々に効いたようだ。

 泣き止んでこちらを見上げている。

 よしよし、さすが私だ。


 ともに歩き、村人を埋葬したところへ向かう。

 ただ埋めただけの簡素な墓だ。

 墓標などはまだ作られていない。

 土を被せただけの墓へ、包み紙を1枚だけ供える。

 もう1枚は持っておきたいとの事だった。


 兄弟はしゃがみながら熱心に祈り、私は十字をきる。


 聞いた事のない祈りの言葉だが、タイタンの一族と関係があるとの事だったから、きっとタイタンに関係するものなのだろう。


 しばらく祈りを捧げ、兄弟はまた立ち上がる。

 そんな兄弟に、私は礼をする。


「2人とも、感謝する」


「「??」」


 感謝の言葉に、2人ともに目を丸くしてこちらを見上げている。

 唐突すぎたか。


「私達が責められている時に、助けてくれたであろう?」


「あ、うん……」


「とても助かったし嬉しかったぞ。2人とも勇気のある子どもだ。きっと、父母もお主達を誇りに思うであろう。小さな身体で立ち向かったお主達を、私は尊敬する」


 9歳と5歳の時の私は、1人で立ち向かうなどできなかった。

 ただ、膝を抱え泣くばかりだった。

 お互いに支えあえる兄弟がいた事も大きいのだろうが、それでも簡単な事ではあるまい。


「……えーっと?」


 少し、難しかっただろうか。

 ヴェインもレオも、首をかしげている。


「ありがとう、という事だ」


 そう伝えたら笑顔になり、2人とも私に勢いよく抱きついてきた。

 なんとかこらえ、2人を抱き止める。


 ……ん?この感覚は?


 浮かび上がってきた可能性に蓋を閉め、抱き止める事に専念する。

 ヴェインは力強く抱き締めてくるし、レオは這い上がろうとしてくるので、油断したら私は転ぶ。

 何とか2人をなだめ、もう時間だ。と皆のところに向かわせる。


「カミュさんも早く来てくださいねー!」


「かみゅー」


 2人に手を振り返し、私は1人村外れに向かう。

 そこには、この村を襲撃したアイミュラー軍兵士の遺体を埋葬した墓があった。

 村の中や、被害者である亡くなった村人達の近くに埋葬するわけにはいかなかったからな。


 墓標も何もない、ただ土をかけただけの簡素な墓。

 彼らが略奪をし、襲撃をした事実は覆らない。

 だが、生きて再び故国の土を踏めなかった彼らに、私だけでも祈りを捧げておこうと思ったのだ。

 私も、彼らの命を奪った1人なのだから。


 あの時とった行動に後悔などはない。

 ヴェインとレオの笑顔を見て、更にその思いは強まった。

 それと同時に、あの時の感触と、手にはしった衝撃を忘れる事もないのだろうと思う。


「せめて、安らかに……」


 十字をきって祈りを捧げた後、私は皆の元に戻った。




「やっと来たか、カミュー」


「すまない、私が最後だったか」


 皆、出来うる限りの防寒具を着込み、武器を持てる者は武器を。

 その他の者は、少しだけ残った物資や水を背負っていた。


「それでは、行きましょうか」


 村長の合図により、皆が歩きだす。



 目指すはクリアヌスタ峡谷。タイタンの一族の村。



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