25 旅は道連れ。同行者(?)+1名追加
「要するに、カルトばっかり私のそばにいて、呼んでくれなかった事が不満だったと」
『ゲコーゲコー』
私はベルを抱っこしながら、寝そべったカルトの足の間に座っている。
どちらも、私のそばにいるという事を譲らなかった為、苦肉の策だ。
左手はベルを抱っこし、右手は常にカルトを撫でているという苦行。休ませろ。
「それで、ムカついて私達を追撃していたアシュリーと契約したと」
『ゲコ!』
胸をはって、そうだ。と、宣言するベル。
「で、カルトは私の敵と契約し、私の前に立ちふさがって邪魔をしたベルが許せなかったと」
『バヒバヒ』
「愛されてるなー、カミュ」
バドのその発言に、私は喜んでいいのだろうか。
短時間でゲッソリとやつれてしまったような気がするのだが。
ベルもカルトも競うように、私にスリスリとひっついてくる。
時おり、それぞれの邪魔をし威嚇をするのも忘れない。
……愛が重いのだが。
「よし、アシュリーの治療も終わりましたわよ」
水竜巻に高く打ち上げられ、受け身を取りつつ着地したものの、足が変な方向に曲がってしまっていたアシュリー。
ユニコーンの治療を受け完治。
流石に、あの状況のアシュリーを放置しては行けない。
「ふ、ふん。礼など言わないぞ。いくら皇女とはいえ反逆者。反逆者に下げる頭など…………いや、助けてもらったらお礼は必要。それが人の道。……あ、ありがとうございました」
「ふふ、どういたしまして」
とてつもなく小さな声で、顔をそらしながらお礼の言葉を口にしたアシュリー。
私にくっついているベルを見て、何とも言えない顔をしている。
「……えーと、何で私の契約召喚獣が、反逆者になついてるの?」
「元は、私と契約していたからだ」
『ゲコ! ゲコゲコゲコ!』
ご機嫌に私にくっつくベルを見て、アシュリーが悲鳴をあげる。
「なんで!? 私には抱っこさせてくれないのに! ニュルンベルト、抱っこ。ほら、私にも!」
『ゲコ』
腕を広げ抱っこしようとするアシュリーを、つれなく袖にするベル。
『ゲコ!』
「ん? どうしたのだ、ベル」
何かを思い出したとばかりに、両手を広げて天に向けるベル。
まさか……
『ゲーコー!!』
「え、ちょっと待って!? ヤダヤダヤダ!」
ベルとアシュリーを白い光が包み込み、繋がっていた魔力回路が断ち切られた。
ベルによって、優先契約が解除されたのだ。
「あ、あぁ……」
アシュリーは目に見えて意気消沈しているが、ベルは満足したようで、また私にまとわりついてくる。
「ああ。見せつけるのも終わりましたし、カミュと仲直りもしたから……」
「用ずみ、という事だなー」
『ゲーコー♪』
なんとむごい真似を……
「私のエリート街道が……一等術師への道がぁ……」
「なんか、すまぬ……」
何となく謝らなくてはいけないような気がして、地面に突っ伏しているアシュリーに謝罪する。
「謝るなー! なんか更に惨めになるでしょ! 負けないんだから、私は負けない! 優先契約してエリートになってやるんだからー!」
意気込みは素晴らしいのだが、鼻を赤くしてグスグス言いながらでは、どこか説得力が……
「というか、お主召喚師に向いてないのではないか?」
「なんでそんな酷い事言うの!?」
酷い事というか、純然たる事実だ。
「お主が向いているのは召喚師より剣士だと思うが」
「そうですわね。先ほど腰の剣を握った姿の方が、とても自然でしたわ」
見た事もない剣だが。
「それ、刀とかいう東国の剣じゃないかー? こっちら辺まで来るのはとてつもなく珍しいぞー」
東国?遥か海の向こうの国ではないか。
独自の召喚術と文化を持ち、海に囲まれている小国の島国の為か、他国との交易はほぼないと聞くが。
アイミュラーもフェブラントもドラゴニアも、国交はないはず。
「資料も乏しい為、ほぼ何も知られていませんわね。時々世に出る交易品は、高値で取引されると聞きますわ。その東国の品を、なぜ貴女が?」
「祖父の形見なんだけど。私の剣術とかはお祖父ちゃんに教えてもらって……え? これ高く売れるの?」
「形見なのだろ? 売ってはならんぞ」
「え、駄目?」
ダメに決まっているだろう!何という不届きものな孫なのだ。
「お主が向いていない召喚師にこだわる理由はなんなのだ?」
「決まってるじゃん! お給料がいいから!」
「……そうなのか? ローゼリア」
「兵士より召喚師の方が1.5倍ですわ」
結構違った。
「だが、お主の実力ではエリート召喚師は到底無理だろう。一生三等術師だぞ」
「え? 一生?」
「しかし、剣士なら一等剣士になれる可能性がある。流石に、三等術師よりは一等剣士の方が給料はいいだろう?」
「約2.5倍ですわ」
「2.5倍!?」
うむ、順調に意識を変えていっているな。
「皇女の護衛剣士になったら、更に倍だぞ」
「さらに倍!?」
「カミュ!? 貴方何を言っていますの!?」
私を止めるローゼリアに耳打ちをする。
「いくらポンコツ術師とはいえ、ずっと追撃されるのはストレスだ。ならば向いている剣士に進路転換させた上で味方につけた方がマシであろう」
「で、ですが……」
「術師としてはポンコツだが、体力と生命力には目をみはるものがある。いい感じの護衛や火の番になるであろう。バドが持っている荷物も分担する事ができて、バドの負担も減る」
「別に俺は大丈夫だぞー」
無視。
「というかだな、そもそも気に入らないのだ。剣には天賦の才がありそうなのだから、才能の欠片もない召喚師にしがみつく理由がなかろう。金だけが目的なら、剣士で稼げば良い。才能を無駄にするのはこの私が許さん!」
この女兵士を剣士にさせる。
何だかんだ理由をつけてはいるが、端的に言ってしまえば八つ当たりだ。
私は肉体も貧弱だし、召喚の才もなかった。
魔力量はあったが、コントロールできなければ宝の持ち腐れ。
私にあったのは、名門バルモルト家に生まれたという地位のみ。
何故バハムートと契約が結べたかも解らぬし、今でも自身に召喚師としての才があるとは思わん。
寝食をおしみ、身長を犠牲に私はここまで来た。
「アシュリーは召喚に興味があるわけでも好きなわけでもなかろう。金を稼ぐ手段なら剣士で良い。よって、アシュリーを転職させる」
「他人の将来を変えてしまうなど、とてつもない傲慢な行動ではありません事?」
「私はあくまでも促すだけだ。実際に決断するのはアシュリー自身だ」
道は、強引に促すがな。
「というわけでどうだ? 皇女の護衛の任は?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ。いや、反逆者の側につくわけには……!」
ち。金目当てのわりには、細かいところを気にするな。
「アシュリー。私達は今、皇帝陛下の退位の為に動いています」
む、ローゼリアも説得に加わるとは予想外。
「貴女も平民の出なら、今のアイミュラーの状況が解るでしょう?」
「……っ」
「アイミュラーがドラゴニアへ侵攻する義はありますか? 窮乏する民の暮らしに、更なる負担をかけてまで侵攻する義が。貴女がお金を求めるのも、家族の暮らしの為ではないのですか?」
なんと。そうなのか?
それは予想外。確かに、そういう一面もあるのか。
私には気づく事のできなかった点だ。
「アシュリー。私達と一緒に来てください。アイミュラーを良くする為に、私達に力を貸してください」
「……反逆者に力を貸す事はできない。だが、今のアイミュラーの現状に思う事があるのも確か。いくら隠して取り繕っても、下からなら見える事もある」
今までのドジやポンコツ具合がなりをひそめるほどの、真剣な表情。
さすがに、ポンコツなだけではないという事か。
「それでも、私はアイミュラーで生まれ育ち、皇帝陛下に忠節を誓った軍の兵士。国と陛下を信じる気持ちもある……色々助けてもらった事には感謝しているが、お前達を信じきれない」
「アシュリー……」
ダメか。アシュリー味方ひきいれ作戦は失敗か。
「なら、一緒に来ればいいぞー」
「は?」
バドの提案に、間抜けな声をこぼしてしまう。
「一緒に来て、見極めればいいぞー。義があるのはどちらか。信じられるのはどちらか」
「それは、いい考えですわ!」
「うむ、確かに」
アシュリーは私達を見極められる。私達は追撃者が減り、更に護衛と荷物もちをゲット。双方に利のある提案だな。
「いや、待って!? 反逆者と一緒にいるところ見られたら、私のエリート街道が!」
「元々そんなものはないから問題ない。むしろ、反対しても無理矢理連れていく。優先もいなくなり、召喚に時間のかかるお主が、私達に敵うと思うか?」
「横暴すぎない!? それ、むしろ脅迫じゃん! 無理矢理じゃん!」
「縄をかけられないだけありがたいと思え。ほら、さくさくと行くぞ。お主のドタバタ劇でかなり時間がとられたのだ」
「馬鹿ー! 卑怯ものー!」
アシュリーのキャンキャン声に耳を塞ぎながら歩を進める。
目指すは南。アイミュラー軍。





