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24 再会、ヴォジャノーイ

 


 ヴォジャノーイ 個体名ニュルンベルト。

 ニュルンベルトもニュルも呼びにくいので、私はベルと呼んでいた。

 ペガサスのカルトに続き、私が優先契約を結んだ2番目の召喚獣。


 カルトと違い、ベルは向こうから私に契約を申し込んできた。

 理由は聞いた事はないから知らぬ。

 その時の私は、召喚獣を当主になる為の力、道具としか考えていなかった。

 道具の理由など、私の意識するところではなかった。

 理由はなんでも、私の力になるのならどうでもいいと。


 今思えば、ベルは私の何かを気に入ってくれたのだろう。

 優先契約で必要ないというのに、カルトと同じように私のそばにいたがった。

 最後にラミアと契約する時など、これ以上私の召喚獣は必要ないと怒って大変であった。

 ラミアと3日3晩に渡って喧嘩をし続け、最後はお互いに認めあったのかガッチリと握手をして終わっていたが。


 竜王山で別れる時も、ベルは一人で行かせられないと怒っていた。

 自分達を置いていくとは何事だ。と。

 カルトに説得されて大人しくなっていたが、瞳は変わらず怒っていた。


 そんなベルと、まさかこんな再会をするとは……


 でっぷりとした白い腹。

 脇にそって入る黄色い一線。

 左目の近くにある、赤いハートのような模様が自分のトレードマークだと気に入っていた。


 アシュリーのそばにピッタリと寄り添う1体のヴォジャノーイ。

 その左目の近くには、赤いハートのようなマークが確認できる。

 あの個体は、間違いなく私と契約を結んでいたニュルンベルトだ。


「あのヴォジャノーイって……」


 ローゼリアとバドも気がついたらしい。

 二人も、ベルのハートマークを知っている。

 かつては私の契約召喚獣だったとしても、今は違う。

 私達を捕らえようとする敵だ。


「え、えっと。お知り合い?」


 アシュリーも、微妙な空気から何かを感じ取ったらしい。


「何もないぞー」


 バドが陣を起動し、ホビットを召喚する。


「いいんだな、カミュ」


「もちろんだ」


 バドの気遣いに感謝する。

 せめて、別れの時はあわせられなかった目を、しっかりとあわすべきであろう。

 久しぶりに見るベルの瞳は……

 ん?怒っているというより……というか、なんかでかくなってないか?

 1m程度の大きさだったベルは、倍ほどに膨らんでいる。


「ん? うぉ!」


 いきなり、私達とベルの間に何かが現れる。

 白い体躯に白い翼。それは――


「カルト!? いきなりどうしたの……だ?」


『…………』


「か、カルトさん?」


 怒っている。

 顔はベルとアシュリーの方を向いている為見えないが、空気で解る。

 とてつもなく怒っている。


「ふ、二人とももうちょっと下がるのだ」


 私は危険を察知し、ローゼリアとバドを下がらせる。

 これは、巻き込まれる。


「え? え? なになになに?」


 カルトとベルのにらみ合いに挟まれたアシュリーが、おろおろと辺りを見回している。

 ……すまぬ、アシュリー。

 お主までは助けられん。何とか逃げ延びてくれ。


『バルァァァァーー!!』


『ゲコォーー!!』


 2体ののいななきと共に、力が激しくぶつかり合う。

 カルトの風、ベルの水。

 力があわさり、巨大な水の竜巻ができあがる。


「キャァァー!」


「ローゼリア!」


 強すぎる風でローゼリアが飛ばされそうになり、慌てて手を掴むが、私の体重では軽すぎたみたいだ。

 私の足まで地面から離れていく。


「二人とも、しっかり捕まってろー」


 バドが私達を捕まえてくれ、名無しを召喚し土の壁を作る。

 これで少しはこらえられる。

 アシュリーは……「あぁぁあー!」と叫び声をあげながら、竜巻の中をグルグルと回っている。

 ベル、己の召喚師まで巻き込んでどうするのだ。

 アシュリーも自身の召喚獣を制御しなくてどうする。


 2体を見ると、『ブルァー!』『ゲコゲコォー!』と叫びながら力を増していく。

 このままではまずい。目立ちすぎだ。

 あの巨大な水竜巻と魔力のぶつかり合いに気づかぬフェブラントの兵士ではない。

 国境の警備が厳重になってしまう。


 それに、ベルは貧弱ながらも召喚師持ち。

 このままでは、カルトの方が先に力尽きてしまう。

 カルトが何に怒っているかは解らぬが、止めなくては。


 私は、出来る限りの大声をはりあげる。


「カルト、力を弱めろ!」


『ブルァー!』


 お断りだと。ならば。


「アシュリー! ベルを制御しろ!」


「むーーりーー」


 ……まあ、竜巻の中でグルグル回りながら制御も無理か。

 生きているだけでもうけものだ。

 なら……ベルを説得してみるか。


「ベル! 何がそんなに気に入らないのだ!!」


『……ゲーーコーー!!』


「……なに?」


 今の瞳は……


「カミュ。思ったのですが、ニュルンベルトは拗ねているのでは?」


「……は?」


 拗ねている……だと?


「それはありうるなー。ニュルンベルトは元々嫉妬深いだろ? 契約を解除されて落ち込んでいたところに、カルトだけカミュのそばにいて嫉妬爆発ってところかー」


「いや、待て待て! カルトは私が呼んだわけではないぞ?」


「でも、私にもバドにもニュルンベルトとラミアを呼び出す事を頼みませんでしたでしょ?」


 いや、それは……確かに、カルトからベルもラミアも怒っていると聞いて、二人への謝罪は後回しにしたが。

 ……要するに、私のせいか?


「いや、それなら何故ベルは他の者と契約を結んだのだ?」


「あてつけではありません事? 自分の方を見てほしい、追いかけてほしいのにカミュは見てくれない。自分ばかり嫉妬して追いかけてほしいと思ってる。それがきにくわない。だから、他の召喚師と契約して見せつけているんですわ」


「……」


 解ってはいたが、何という面倒な性格をしているのだ。ベル。


「それに、ニュルンベルトは自分から追いかけるより、追いかけてほしいタイプですもの。どうにかしてこちらを見てほしいという乙女心は、よく解りますわ」


「いや、ベルは両性具有だが」


「男でも女でもあるんですから、乙女心でも間違っていませんわ。ニュルンベルトの中の乙女が嫉妬して拗ねているのです」


「……」


 なんか、凄い逃げたくなってきたのだが。

 そんな私の肩をポンと叩き、バドが白い歯を見せながら笑顔で言う。


「カミュ、男を見せる時だぞー」


「何をだ! 私に死ねというのか!?」


 あの魔力のぶつかり合いに入って、私が無事でいられるわけがないだろう!


「大丈夫ですわ、カミュ。死なない限り、私とロディが治してあげますから」


「死んだらアウトではないか!」


 しかも、私が大ケガをする前提!


「元々カミュが逃げたからいけないのです。さ、男らしく責任をとってニュルンベルトに謝ってきてくださいな」


「やーめーろー!!」


 ローゼリアが土壁から私を追い出しにかかる。

 ぶぉっ!凄まじい風が吹き荒れ、私の髪の毛やマントがバサバサと音をたてる。

 腕を顔の前に出し、前傾姿勢で進む。


「ベルー!」


『ゲコォァー!』


『ブルォァー!』


 えーい!カルトも何故そんなに怒っているのだ!

 二人して私の声を聞かないとはなんたる不届きものだ!

 私のせいかもしれぬが、フツフツと怒りがわいてくる。


「ベル! お主は何年私と契約していたのだ! 追いかけてほしいタイプ? 知るか! 私は言われないと解らないタイプなのだ! 察してほしい乙女心など解るわけがないだろう!」


 私の怒りの叫びが聞こえているのか、二人の魔力のぶつかり合いが少しずつ弱まっていく。


「私のそばにいたいなら自分から来い! ……そうしたら、抱き締めるくらいはしてやる」


『ゲコゥ……』


 プシュウと音をたてながら縮み、元の大きさに戻ったベル。

 あれは、嫉妬と怒りパワーで膨らんでいたのか。

 カルトとの喧嘩をやめ、うつむきながらピョンピョンと私に近づいてくる。

 私は腕を広げ、ベルを迎え入れた。


『ゲコ……』


「すまなかった、ベル。お主を傷つけた。私が言えた義理ではないが、戻ってきてくれるか?」


『ゲコ! ゲコゲコ!』


「ありがとう、ベル……」


 ベルの体液が私の全身にねっちょりとつくが、些末な事。

 私はベルが求めるまま、ずっと抱きしめていた。


「……逆ギレ告白ですの?」


「まあ、ニュルンベルトが納得しているならいいんじゃないかー?」


 外野のうるさい声など聞こえん。

 水竜巻が消え、「あぁぁー!」とか叫びながら落下していくアシュリーの声も聞こえん。

 不機嫌そうに、こちらをジロリとねめつけているカルトの視線は後でどうにかしよう。

 お主も抱き締めるから少し待て。



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