12.5 sideユース1
『うっ……シア……』
ピクリとも動かず、ボロ雑巾のように打ち捨てられている友人に向かって、ユースは必死に手を伸ばす。
『うぁぁっ!』
身体を押し潰され、ヒールでグリグリと追い討ちをかけられる。
そんな彼女を、冷徹な目で見下ろすかつての契約者。
先ほど、長年交わされていた優先契約は解除された。
「あらあら、哀れな羽虫がゴミのように。たかが名無しのフェアリーが逆らうからよ」
小さな彼女を、なんの躊躇いもなく踏み潰す女。
どうして、今まで気がつかなかったのか。
(この女は、人間じゃない。この女が原因でアルは……!)
禍々しい空気。
名ありにも匹敵するのではないかという、膨大な魔力。
赤黒い炎の羽。
その羽から漏れた余波が、シアやユースに容赦なく火傷をつくっていく。
『シ……ア』
カミュとの約束通りシアだけは守りたいが、そんな余力すらユースには残っていなかった。
「さーて、この羽虫ちゃん達はどうしようかしらね」
「アリーチェ、その二人はまだ使いようがある。カミュに対する人質としてのな。牢屋にでも閉じ込めておく」
「そう? 貴方がそう言うなら、まだ殺さないわ。で・も」
不意にアリーチェがユースを持ち上げ、その羽を赤黒い炎で焼き付くす。
『ぃっ! ぎっ! あぁぁぁぁぁ!!!』
「虜囚は生かさず殺さず、よね。アーハハハハハハ!」
肉が焼ける臭いが立ち込める中、アリーチェの高笑いが響く。
(この女は危険だ。カミュ坊達だけじゃ……! アル、どうしてこの女と……)
かつての契約者と弟分に思いを馳せ、ユースの視界は暗転した。





