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Secondo magic 形あるモノ  1


               1


「ちょっと」不機嫌そうな声で呼び止められた。

 三時間目が始まる直前の休み時間のことである。場所は二年三組の教室のドア付近。自分の教室に入る間際に止められたということは、クラスメイトじゃないらしい。一瞬、五味(ごみ)さんかなと思ったが、声が違う。

「な、なんでしょう」

 女子に声をかけられるのは、五味(ごみ)さん以来なのでドギドキしてしまう。

「あなた、五味(ごみ)さんの変な噂を流しているでしょう」

 初対面なのに尋ねるのではなく、決めつける言い方をされた。その人物はベェージュ系の長い髪にウェーブをかけ、黒目がちで済んだ切れ長の目をさらに細くしてきた。髪と目以外は特徴のない顔立ちではあるが、美人さんではある。けれど、上から目線な態度は五味(ごみ)さんより棘がある感じがした。

「そうですね」

 胸のバッチで【ⅢノⅠ】を確認できたので彼女は五味(ごみ)さんとクラスメイトということになる。

「どうして噂を流しているの?」

 僕が素直に答えたからなのか、今度はちゃんと疑問符をつけてきた。

五味(ごみ)さんから適度に噂を流してほしいと言われたので」

五味(ごみ)さんとはどんな関係?」

「一度助けてもらったことがあります」

「噂を流しているのは、助けてもらったお礼ってこと?」

「ええ、まあ」自慢するようなことじゃないし、答えを濁す。

「なくしたモノを五味(ごみ)さんが探してくれるって本当なの?」

 胸を掴まれ、耳元で聞かれた。最近耳に(ささや)かれることが非常に多い。

「ええ、まぁ」

「はっきりしないさいよ」

「条件や誓約が伴います」

「堅苦しい言い方するんじゃないわよ」

「すいません」

「探してくれる可能性があるってことで理解していい?」

 休み時間が終了するチャイムが鳴り、早口になる五味(ごみ)さんのクラスメイト。

「放課後、校門前で待っているから、一緒に五味(ごみ)さんの家に行くわよ」

 上級生の女子は強迫に近い言い方をしてくる。

「一人で行ってもいいと思いますけど」

 このとき〝一人で行けばいいだろ!〟と強く言えばよかったと僕は後悔することになってしまう。

「あなた、五味(ごみ)さんの家に行ったことあるの?」

「入ったことがあります」

「怖いでしょうあの家。だっていまゴミ屋敷になっているそうじゃない。そんなところへ乙女一人で行かせる気なの?」

 乙女とか、どんだけ自己中なんだよと思ったが、僕は「わかりました」と返事をした。僕らしい弱い意志が成せる屈服の表れである。

 去り際、あることを思い出してちょっと大きめの声を出してしまう。

「水着を忘れないで!」

「変態!!」

 親切心で言ったつもりなのに怒られてしまい、肩を落として席に座った。

「新しい彼女か?最近モテモテだな」

 自分の席に座ると、(かげ)()君が前の席から振り向いて茶化してくる。

「はいはい、新しい彼女さんですよ」と素っ気なく返す。

「へぇ~でも気を付けたほうがいいぞ。なんたって父親はプロレスラーだからな」

「いま、なんて言いました?」

「メジャーな団体じゃないらしいがな」

「彼女を知ってるのですか?」

「名前は天山(てんざん)麻美(まみ)だったかな」

「詳しいね」

「恋多き女で知られている」

「ネット掲示板での噂?」

「学校の裏サイトが祭り状態で荒らされていた」

「他には?」

「知らんよ。さくっと他のことを検索していたら、たまたま引っかかった。父親が変わった職業だからターゲットになりやすいんだろ」

 素早くスマホで調べてみると、学校の裏サイトは消されていた。

「三ヵ月前のことだから消されて当然か」(かげ)()君もスマホを使い検索してくれたが、引っかからなかったみたいだ。「最近の学校のサイバー対策も半端ないな」

「そうだね」

 いじめや犯罪の温床となり、消してもいつの間にか復活する学校の裏サイトは学校側にとって迷惑な存在なだけで、予算を出して本格的に対策に乗り出す、なんて噂が流れたばかりだった。その噂もネットの掲示板や学校の裏サイトが発信した情報なので信憑性に欠けるが、話しのネタとして盛り上がるうちに信じてしまうのがネットの力。

五味(ごみ)さんの家に行くことになったんだけど、付いてきてくれないかな?」

「嫌だ」(かげ)()君がにべもなく断られた。天山さんが絡んでいることは周知の事実になってしまっているわけで、関わりたくないと思うのは当然のこと。

「ふぅ~」僕は深いため息をもらして机の上にひれ伏した。

「おまえの家でマンガを読ませてくれるなら付き合ってもいい」

「ほんとに!」すぐに顔を上げた。聖人とは、(かげ)()君のためにある言葉らしい。

「ただし、五味(ごみ)さん家のプールには入らんぞ」

「わかった」思わず(かげ)()君の手を掴む。

「やめろ」すぐに離されたてしまったが、僕の笑顔がしばらく絶えることはない。

「早く自分の席に戻れよ。先生が来るぞ」

 あくまで冷静な影野君はクールに黒板の方へ姿勢を直す。

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