Third magic 夏休みの悲劇 5
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夏休みが終わったのに、こんなに学校再開を待ち望むことになるとは思いもしなかった。
しかし、三十分ほど遅刻してしまう。やることがあったからしょうがない。すべては放課後のため。授業も帰りのショート・ホームルームも終わり、ちょっと間を置いてから二階隅にある情報処理室に向かった。普段は表計算ソフトの学習や簿記、ワープロ、商業経済関係などの検定合格を目指す授業をする教室なのだが、放課後は情報処理部がIT技術を養う場となり、三十台のディスクパソコンが並んで使い放題である。
ドアを開けると三人の男子と二人の女子がパソコンに向かって作業していた。メガネ率が高く、真面目そうな生徒ばかりだ。
「なにか用か?」
団子を重ねたような体系の男子生徒が不機嫌に尋ねてくる。
「ここに情報処理部を陰で操っている人物がいるよね」僕が決めつけて言うと、妙な間があって何人かの生徒の視線がある一点に泳ぐ。「そっちかな」上下可動式の黒板の横に『情報処理準備室』とプレートがドアの上についていた。
「勝手に入るなよ!」
怒鳴られたが無視をしてドアを開ける。「十二分ぶりだね」情報処理準備室の窓際に座っている人物に、再会までの正確な時間を告げた。
「どうしてここがわかった?」
さすがに僕が突然訪問したので、その人物もびっくりした様子。彼の机には液晶ディスプレイが二面と青色LEDライトが光る大きなサイズのパソコンケースが机の下に置いてあり、特別待遇を受けているのがわかる。
「朝、スマホで調べたら、うちの学校のK氏という人物が情報処理部を影で牛耳って操っているという情報を掴んだんだ」
「へぇ~そうなのか」その人物はさも関心なさそうに後頭部に手を回して組む。
「なんでもその人物はこの学校に関わるネットでの悪質な書き込みや学校の裏サイトの削除をプロバイダに要請したり、学校のパソコンにフィルターかけたり、ファイヤーフォールを一時的に解除して都合の良い情報だけを流したりしているらしいんだ。これらの今朝は閲覧可能なSNSの書き込みも午後には削除されていたよ」
「早業だな」その人物は他人事のように言う。
「五味さんの妹さんの情報も操作したのかな?」
「あらぬ噂を排除しただけで、生徒達にはいらない情報だ」
「おかげで本人から聞かされることになってしまったよ」
「やぱり深い仲になったものだな。残りの夏休みは五味家でお泊りしてたのか?」
「泊まってない!」声を裏返して否定した。
「怒ることじゃないだろ」と言って、その人物は笑う。
確かに五味さんが自分から妹さんの秘密を話すかわりに、僕に泊まってくれと言われたのなら嬉しい気もするが、そんなアクシデントは起こらず、もう嫌がらせを受けないと判断した五味さんはクールなものでデレることはなかった。
「話が変な方向に向かってしまったね」
「自分で修正しろよ」その人物は鼻で軽く笑う。
「一連の犯人がわかったんだ」僕は断言した。
「わかってしまったんだ」
「あとは証拠だけなんだけど、ないんだよね」
「おい、おい、証拠がなくて大丈夫かよ」
「でも、証拠は作れる」
「情報を捏造しろと?」
「察しがいいね。嘘の情報を流すことによって、真実が明らかになるなら問題ないよね」
「まさか協力しろと?」
「協力させるために、揺する材料はあるよ」
「例えば?」
「情報処理室にあるパソコンのセキュリティー対策は頼まれているかもしれないけれど、先生が使っているパソコンにウィルスを仕込んで個人情報を盗んだりしているよね?」
「そんなことはしていない」
「そう……なのかな」疑いの視線を向けてもその人物の表情は変わらない。
「奴を一連の犯人と決めつけるのは時期尚早だな」
その人物は自分のことから五味さんの事件のほうへ話しを変える。
「なんだ、やっぱり犯人の検討はついていたんだ。いつわかったの?」
「さっきだ」
「彼らにも聞かれているけど信用できる?」
準備室のドアに隙間ができていて、何人かの生徒が会話を盗み聞きしていた。
「問題ない。俺がいないと新しいパソコンが買えなくなる」
「セキュリティー対策で予算でも増やしてもらえるの・か・な」
僕が視線を送ると、他の部員がそそくさとドアから離れていく。
「自動ドア状態にされていたファイアーウォールを一時的にガードする仕事は残っているが、あと二十分で終わらせる。そのあとで五味家に行く」
「やってほしいことがあるんだ」
「内容によつが、言ってみろ」
「今日の午後四時半頃に五味家で探し物を受け取る約束があって、異世界に行けるかも、的な噂を学校の裏サイトやSNSで流してくれないかな?」
「誘い出すのか」
「今日でケリをつけたい」
「学校の裏サイト復活に五分、SNSの書き込みは他の部員に頼むことにしよう」
その人物はキーボードをけたたましく叩き始めた。
「影野ぉ~一緒に五味さん家に行こぉ~」
聞き覚えのある声がしたかと思うと、情報処理準備室の廊下側のドアが勢いよく開け放たれる。まさかと思ったけれど、嘘だろと思ったけれど、現れたのは天山さんだった。
「ふ、ふ、ふたりは……」
その人物の正体を確かめ、協力を取り付けることに成功し、安心したところへ驚きの展開が待っていたわけで、恥ずかしそうに顔を赤く染める天山さんを見て、二人の仲が尋常じゃないレベルに達していることを悟る。
「何も聞くな」影野君の口からため息がもれた。




