第8話 処刑の結果
勇者アリスとドラゴンファイターがデーモンの襲撃を退けた翌日。
王都の広場にて、教会主導でハヤトの処刑が行われることになった。
勇者の仲間である、魔法剣士のジャスティンと、教会の所属である聖術師のティナの差し金だ。
処刑の前には、正当性を高めるため、邪龍の力でデーモンを王都に誘きよせたという嘘の情報が広められた。
「ドラゴンファイターを名乗り、呪われし力を持ちながら、正義の冒険者を騙る邪龍! 此度も多数のデーモンを呼び寄せ、王都を滅ぼそうとした! 邪龍は神の名において処刑する!」
手足を縛られたハヤトは、王都の広場に設置された処刑台の上で、教会兵団の兵士から10本以上の剣で体を貫かれる。普通の人間なら確実に死んでいるようなその状況でも、邪龍の力を宿しているハヤトならば、この程度で死ぬことはない。激痛で気を失うだけだ。
「火をつけよ!」
だからハヤトの処刑を行う教会は、さらに火をつけて焼き殺すことにした。体を灰にしてしまえば、さすがの邪龍と言えども再生はできまいという考えだ。
気を失い、おびただしい量の血を流すハヤトをつるし上げ、可燃性の高い油をかける。そして、教会魔術師たちが、一斉に炎魔法を放った。
「ぐわああああああ!」
全身を焼き尽くす聖なる炎に、ハヤトは絶叫を上げてもだえ苦しむ。
それを眺める民衆の目は冷ややかだ。
ハヤトの処刑は、12時間に及んだ。長時間炎で焼かれ、ハヤトの体は黒い炭になり、最後に真っ白な灰になって崩れ落ちた。
1週間後。
「……あんまり良くないお知らせっス。私たち勇者の仲間たちに対する民衆の評価は最悪っス……」
「邪龍を処刑したのが響いたか?」
「はい……」
「やはりか……」
聖騎士のレオナルドの問いかけに、情報通である電光石火のゲイルが疲れた顔をして答える。
『王都を救った英雄を殺した勇者の仲間』『魔王軍以上の外道』……これが現在、勇者の仲間たちについたあだ名らしい。
一方の処刑されたハヤトは、『呪いの力に打ち勝った正義の戦士』『民衆を救い、呪われた力のために処刑された悲劇の英雄』として密かに民衆の間で称えられているようだ。
「何故だ……! 悪しき邪龍を葬ったというのに……!」
「しゃあねえよジャスティンくん。実際王都守ったのはアリスちゃんと邪龍くんなんだし。それを多くの兵が見ているんだもん」
「随分吞気ですね、エイミィさん! 僕たちは正しいことをしたのに、民衆からは全く評価されない! ティナさんも何か言ってください!」
「構わないね。あたしは金さえもらえれば十分さ。その点では、邪龍が消えてくれたのは嬉しいことだけどね」
「悪しき邪龍は滅ぼされました。神の思し召しを知ろうとしない民衆は放っておけばいいでしょう。それよりも問題なのは、邪龍の処刑でアリスちゃんが引きこもってしまったことね……」
民衆にハヤトの処刑が認められず、怒り心頭の魔法剣士のジャスティン。それに対して金にしか興味がない五色魔導士のエイミィは何ともない、という顔をしている。
そして聖術師のティナは、もっと大きな問題を提起した。
ハヤトの処刑が行われてから1週間、勇者アリスはカインドック王国が用意した勇者の自室に引きこもってしまった。部屋の前に置かれた食事は食べてくれているようだが、トイレ以外では部屋からは一歩も外に出ようとしない。
そしてついに今日の朝、部屋の前には食べ終わった食器と一緒に、勇者の装備一式がおかれていた。これは非常にまずい。
レオナルドがため息をついて聞く。
「ジャスティン、ティナ、カマス、ボルト、無駄だとは思うが、邪龍を殺したことについて、アリスに謝るつもりはないか?」
「謝る? 冗談じゃない。僕が何をしたというんです?」
「私も謝るようなことはしていません。教会の方針です」
「俺は邪魔な奴を消したまでだ。悪いか?」
「……アリスちゃんは混乱しているだけだ、俺は悪くない。悪くない……」
裏でハヤトの処刑を進めたジャスティン、ティナ、最初にハヤトを突き刺したカマス、ボルトは、全く謝るつもりはないらしい。
「しょうがない……これを使うか」
レオナルドは一通の手紙を取り出した。
しくじり2 王都を救った英雄をよりにもよって公開処刑
しくじり3 流した誤情報が世間に浸透する前に処刑を実行してしまった