第7話 ハヤト、連行
「ぐはっ……!」
「ハヤトっ!」
「ア……アリス……」
邪龍を宿すハヤトは、剣や槍で体を貫かれた程度では死なないが、それでも消耗しきった体にはきつい。痛みはそのまま感じるので、激痛で本当に気を失ってしまう。
「ボルトさん! カマスさん! なんでこんなことを!」
「アリスちゃん、騙されちゃだめだ。こいつは君をたぶらかして、殺そうとしていたんだ!」
「勇者、こいつは邪龍だ。殺さなければならない」
しかし、アリスは泣きながら反論する。
「ハヤトはそんなことする人じゃありません! 僕と一緒に、みんなを守るために戦っているんです! 今回だって王都の人たちを守るために戦っていたんですよ!?」
アリスの言葉に、王都を守っていた兵士たちも同意を示す。
「邪龍殿は、我々と住民を守るために結界を張ってくれました!」
「複数のディアボロスとデーモンの大群を相手に、命がけで戦ってくれました!」
「邪龍は悪い奴じゃありません!」
回復魔法を使う兵士たちが、ハヤトの治療に当たる。しかしそれを、ボルトとカマスは押しのけて妨害しようとする。
「おい、お前たち何をしようとしているんだ?」
「回復させちゃ意味ないだろ!」
兵士たちとボルト、カマスとの間でハヤトの回復をめぐってもみ合いになる。そんな中、王都を守る兵士とは別の軍服を着た兵士たち、憲兵隊が魔法剣士のジャスティンに率いられてやってくる。
「ここにいましたか、邪龍……憲兵隊の皆さん、こちらです。邪龍を捕らえてください。これくらいでは死んでいないはずです」
「ジャスティンさん……? ハヤトを連れていかないで……ハヤト!」
「憲兵隊! 邪龍は街を救った英雄だぞ! 捕らえるのは失礼だろ!」
「何を言っている。こいつは脱獄した邪龍だ。貴殿らが動かないのなら、我々が連行する」
アリスや兵士たちの言葉を一蹴して、憲兵たちは気を失ったハヤトを捕らえて、連れ去っていく。アリスは立ち上がろうとするが、もう体力は残っていない。ハヤトに手を伸ばして気を失った。
「悪いなジャスティン、汚れ役を押し付けてしまったか」
「汚れ役? 大丈夫ですよ、レオナルド様。邪龍に騙された愚民たちの反感を最小限にしつつ、邪龍を始末するには脱獄を理由に連行するのが一番です。もっとも、その場で処刑しようとしたボルト殿とカマス殿のおかげで台無しですが」
「そうか……」
兵士たちがアリスの手当や、今回のデーモンたちの攻撃による被害を確認する中、聖騎士のレオナルドと魔法剣士のジャスティンは城壁の影で話す。
「邪龍の強さは想像以上でしたが、ここまで消耗していればもう抵抗はできないでしょう。教会による裁判にかけて、力を取り戻す前に、一刻も早く公開処刑するべきです」
「慌てるな。邪龍の活躍は多くの兵士、住民が目撃している。処刑は慎重に行わなければならない」
「何を言っているのですか! 邪龍という悪は、一刻も早く消し去らなければなりません! ……わかりました、もう結構です。ティナ殿に話をつけてきます」
そう言って、ジャスティンは立ち去っていった。レオナルドは大きなため息をつく。
「王子と言っても、すべてが思い通りになるわけでもないか……今更だが」