第6話 邪龍暴走・オーバードライブ
「邪龍……暴走!」
「……オーバードライブ!」
ドラゴンファイターがドラゴンバックルの左レバーをもう一度強く引く。
アリスが勇者の職位、全ての能力と一体化する。
アンリミテッドを超える強烈な魔力の激流が、2人の全身を襲う。凄まじい力と引き換えに、2人の体にかかる苦痛はあまりにも大きい。
そう、それこそ地獄のように。
「ぐっ……!」
ドラゴンファイターの胸の装甲が開き、封印されていた力の根源である赤い竜玉が露出する。頭の2本の角が裂けるようにして6本に増える。背中の2枚の翼も開くようにして6枚に増える。
枷は完全になくなった。ドラゴンファイターは完全に邪龍の力と一体になる。
禁断の邪龍戦士、ドラゴンファイター・オーバードライブである。
「くううう……!」
アリスの全身を覆う青いオーラが力を増し、ピンク色の炎のようなオーラに変わる。
『勇者の職位を持つアリス』から『アリスに宿った勇者という職位』に存在が置き換わり、アリスは勇者に『憑依』される。
勇者の最終手段、オーバードライブだ。
「ドラゴンヘッドブレード! ……行くぞ、アリス!」
「うん、ハヤト!」
ドラゴンファイターの右手に、ドラゴンの頭をかたどった斧みたいな剣、ドラゴンヘッドブレードが出現。
全てを圧倒する力を手に入れた2人が放つ気迫に、7体のディアボロスたちも気圧される。
「な、なんだこの凄まじい力は……!」
「こ、これが……邪龍と勇者の奥の手だというのか……!」
「お、落ち着け! それでもやつらはボロボロだ!」
「そうだ、これくらいすぐに勝てる!」
ディアボロスたちも落ち着きを取り戻し、重力魔法で2人を押し潰そうとする。だが、オーバードライブの力を手にしたドラゴンファイターと勇者アリスは重力魔法の中を悠然と歩き、ディアボロスたちに迫る。
「ドラゴンスラッシュ!」
「稲妻斬り!」
まずは2体、ディアボロスが紙きれのように切り裂かれる。
「ひいいいいいい!」
「く、来るな……うわああああ!」
3体……4体……斬り倒される。残り3体。
「ドラゴンダークネスハンド!」
「ぐ! は、放せ!」
「う、動けない!」
ドラゴンファイターが召喚した巨大な龍の手が、残り3体のディアボロスをまとめて掴み、完全に動きを封じ込める、
「今だ、アリス!」
「閃光斬り!」
アリスの勇者の剣から光の刃が、大きく、長く伸びる。
龍の手に動きを封じられた3体のディアボロスをまとめて一刀両断する。
「お、おのれ……こしゃくな人間に……失敗作め……!」
最後に残った力で恨み言を呟き、全てのディアボロスは倒れた。
王都を滅ぼそうとした魔王軍は壊滅し、王都は救われたのである。
「や……やったか?」
「やったぞ! 王都は守られたんだ! 邪龍と勇者様によって!」
結界の中から戦っていた兵士たちの間からも大きな歓声が上がる。
「邪龍封印……がはっ!」
「解除……ぐはっ!」
周囲がざわめく中、ドラゴンファイターはドラゴンバックルの左右のレバーを押し込み、邪龍の力を封印してハヤトの姿に戻る。アリスも、全身に纏っていたオーラを解除する。
そして2人は、口から血を吐いて、地面に倒れてしまった。
「ごほっ! ごほっ! ……おかえり、アリス」
「……おかえり、ハヤト」
アンリミテッド、オーバードライブは凄まじい力と引き換えに、反動で使用者に精神的・肉体的なダメージを与える。これまでにも数回、このような無茶をしてきたアリスとハヤトの2人でも、未だになれない。
結界はいつの間にか消えてしまったようだ。
街を守り、代償として動けなくなってしまった2人に、兵士たちが駆け寄ってくる。
もう大丈夫だろう、あとのことは兵士たちに任せればいい。疲労困憊のハヤトとアリスが目を閉じようとしたその時だった。
「いたぞ! アリスちゃんをたぶらかす卑劣漢め!」
「死ね、邪龍!」
ハヤトの体が、槍と剣に貫かれる。
アリスの後を追って、南の山から帰ってきた雷鳴槍のボルトと、獣戦士のカマスだ。
2人の『勇者の仲間』によって、王都を守ったはずのハヤトは、殺されようとしていた。
しくじり1 兵士たちの目の前で、街を救った英雄を殺そうとした