第3話 邪龍覚醒
デビルの名前をデーモンに変えました。
ご了承ください。
カインドック王城地下、魔術師用監獄。ここでは特殊な魔方陣で魔法の力は大幅に制限される。と言っても、邪龍の力の前には何でもない。ハヤトにとっては紙でできた檻のような物だ。
だが、ここで抵抗しても何にもならない。だからハヤトは監獄の中でおとなしくしていた。
「これからどうしよう……」
尋問とかされるんだろうか、そんなことを考えながらハヤトは横になる。そしてそのまま眠りについた。
「…………っ!」
安らかな眠りは、急にやってきた凍てつくような悪寒によって覚まされる。
魔物の気配だ。邪龍と一体化したハヤトは、近づいてくる魔物の気配を察知できるようになった。
今回攻めてくる魔物の気配は、デーモンと呼ばれる翼の生えた悪魔型。数は……ダメだ、数えきれない。だが、強力な指揮官クラス、通称『ボスクラス』と呼ばれる魔物の気配が10体。
魔王軍は本気で王都を、この街を潰すつもりだ!
「看守さん! 魔王軍だ! かなり大きな軍団が攻めて来る! 早く住民の避難を!」
「そう言ってここから逃げるつもりだな? そうはいかないぞ、邪龍!」
看守は、邪龍であるハヤトの言葉を信じようとしない。
魔王軍の気配は近い。騒ぎなっていないところを見ると、今は擬態して潜んでいるのだろう。だが、このままではあと数分でこの街は火の海になってしまう。
……やむを得ない。
ハヤトは素手で檻を破壊した。邪龍の力を使えば造作もない。
「えい!」
「な、お、檻が壊されただと!」
「すみません、看守さん。今はこの街の危機なんです!」
腰を抜かす看守を放置して、ハヤトは檻を出た。風の流れを読んで、外を目指す。
「待て! 捕らえろ!」
「邪龍が逃げたぞ!」
途中、行く手を遮ろうとする警備兵たちの間を猛スピードですり抜け、鍵のかかった扉を破壊し、ハヤトは城の外に出た。
時刻は夕刻。仕事終わりの労働者や買い物帰りの主婦が街の中を行き交う。
魔王軍の到達までもう1分もない。住民の避難は間に合わない。
城の外、王都の広場に出たハヤトは、手の中に目と口を閉じたドラゴンの顔をかたどった、左右にレバーのついた大きなバックル――ドラゴンバックルを出現させた。そのドラゴンバックルを腰に当て、ベルトを出現させる。
「邪龍覚醒!」
ハヤトはドラゴンバックルの右のレバー思い切り引っ張った。ドラゴンバックルの目が開き、ハヤトの全身を黒い煙のような邪龍の魔力が覆う。
「はあっ!」
周囲が騒然とする中、ハヤトは……いや、邪龍戦士ドラゴンファイターは黒い煙を振り払う。そこにハヤトの姿はなかった。邪龍の姿をかたどった黒と紫の鎧の上に、力を抑制するように全身に被された銀色の装甲。顔は邪龍の頭をかたどった2本角の禍々しい兜で覆われ、その表情は見えない。
「じゃ、邪龍だ……邪龍が目覚めてしまった……!」
追いかけてきた警備兵のつぶやきに、広場は騒然となった。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中、ドラゴンファイターは右手を天に掲げた。
「ドラゴンバリアー!」
ドラゴンファイターが叫ぶ。人々は破壊魔法が発動したと勘違いしてうずくまるが、実際には王都全域に巨大な半球状の結界が張られただけだった。
そしてその結界に、空から攻め入ろうとしてきた影が弾かれる。
魔王軍のデーモンだ。
再び人々の悲鳴が上がる。
ドラゴンファイターの結界で王都は守られてはいるが、デーモンたちの攻撃を受け続ければ結界は消えてしまう。迎撃しなけらばならない。
「ドラゴンヘッドキャノン!」
敵の数は多い。ドラゴンファイターは敵を可能な限りまとめて倒すため、ドラゴンの頭をかたどった大きなおもちゃみたいな銃、ドラゴンヘッドキャノンを出現させる。
「行くぞ……ドラゴンファイト!」
ドラゴンファイターはデビルたちを迎え撃つため、上空に向かって飛び上がった。