第33話 魔王軍艦隊に突入せよ!
カインドック王国の西、エスタード王国と中央海を隔てて向かい合う西の港町。普段は静かな漁業の街だが、今日は様子が違う。
漁船を押しのけるようにして、カインドック王国の水軍の主力部隊が港に集結。
対して沖の方には魔王軍の艦隊が集結していた。
双方、にらみ合いの状態が続き、動きはない。
だが何か事が起きれば、両軍一斉に動き出すだろう。まさに一触即発である。
「勇猛なる、カインドック王国将兵の諸君!」
そんな中、勇者の仲間の一人、聖騎士のレオナルド王子は将兵たちに向けて、拡声器を通して演説を行う。
「今、中央海には、エスタード王国の大部分を占拠した魔王軍の大艦隊が集結している! ……悪しき者たちに、我らがカインドック王国の大地を踏ませてはならない!」
西の港町の住民は既に近隣の村々に疎開しており、街は現在、カインドック王国の水軍の将兵、応援で王都から駆け付けた騎士団の精鋭たちによって守られている。そこに先日、勇者アリスを中心とした勇者パーティーも入った。
「今回の戦いには、勇者アリス殿も出陣される……勝利は我らの手にある!」
最新の発明である映写機が、伝説の勇者の装備で身を固めたアリスの姿を映し出す。将兵たちの間から歓声が上がる。
士気の盛り上がりは上々のようだ。
「よし、みんな、我々も乗船しよう」
演説を終えたレオナルド王子が屋外に設置された雛壇から降りて、アリスと他の勇者の仲間たちに呼びかける。
勇者パーティーが乗り込むのは、王国水軍の保有する艦の中でも一番大きな旗艦。通常の兵法とは大きく外れるが、この旗艦を強襲艦として魔王軍の艦隊に突っ込ませる。
そして勇者パーティーが先陣として魔王軍の艦隊に突入、艦隊を指揮する『高い知能を持った魔物』を探し出し、これを討ち取るのだ。偵察部隊の情報によれば、艦隊を操っているのはゾンビやスケルトンといった知能を持たない魔物ばかり。『指揮官』さえ討ち取れば、魔王軍の艦隊は機能を停止し、統率の取れていない烏合の衆になり果てるという算段だ。この残存勢力を打ち倒すために、騎士団からの精鋭も応援として参戦する。
戦の仕方としては強引な面も強いが、勇者の力があれば力押しでもなんとかなる。参謀本部の了解もとった。ある意味では無敵の布陣だと、レオナルド王子は自負していた。
「出陣!」
勇者パーティーと応援の騎士団の精鋭部隊が乗り込んだのを確認し、船長が叫ぶ。船員たちが一斉に動き出し、旗艦を魔王軍艦隊に向かって前進させる。後続の突入部隊を乗せた戦艦も後に続く。
「諸君、準備はいいか?」
レオナルド王子は勇者パーティーの面々に問いかける。
「ボルトさんと一緒なら、大丈夫です!」
「ありがとう。期待しているよ、アリスちゃん」
最近、雷鳴槍のボルトに依存気味のアリスは大きくうなずく。ボルトの方も嬉しそうだ。
他の面々も、気弱な氷狙撃手のスナイト以外は、自信たっぷりにうなずく。
(アリスとボルトは、こんなに浮かれていて大丈夫か……?)
レオナルド王子の胸に不安がよぎる。
最近のアリスの異変は、確実に魔法剣士のジャスティン、聖術師のティナ、そして雷鳴槍のボルトが絡んでいる。大丈夫だろうと思い放置していたが、戦場でもいちゃつかれると困る。まだ気弱なスナイトの方が慎重なだけましである。だが、今更気にしている余裕もない。これから敵艦隊に突入するのだ。
(力ずくでも何とかしてもらうぞ……)
不安を押し殺し、レオナルドは前を向く。
「総員、突入!」