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第29話 偽りの仲良し

 休暇3日目。最終日。

 宿の休憩スペース。


 「ボルトさん、行こっ!」

 「はははっ。待ってよ、アリスちゃん」


 勇者アリスと雷鳴槍のボルトは昨日に続いて二人で手をつないで街に繰り出していた。

 その様子は、まるで以前とは違うものだった。

 以前はアリスがボルトのことを突っぱねていたのに、今はまるで恋人のようだ。


 「あの二人、あそこまで仲良かったか? 一体何があったんだ?」

 「カマスさん、プライベートに首を突っ込むのはあまりよくないわ」

 「そうですよ。今までぎこちなかったのが改善されただけでも喜ばしいことじゃありませんか」


 獣戦士のカマスの疑問に、聖術師のティナと魔法剣士のジャスティンが反論する。

 それはまるで、「気にするな」と言っているようにも聞こえる。


 「ほう、何か知っているのかな、ジャスティン? ティナ?」


 聖騎士のレオナルド王子と電光石火のゲイルがやって来た。レオナルド王子の口調は穏やかだが、狩人のような鋭い目つきでジャスティンとティナを見る。


 「別に、なんでもないですよ、王子」

 「王子、ボルトさんの恋路を邪魔しようなんて、野暮なことはしない方が良いですわ」


 何があったかを見極めようとするレオナルド王子の言葉を、ジャスティンとティナは受け流す。


 「それもそうだな」

 「おう、王子。どこ行くんだ?」

 「温泉に。今日が最後だからね。君もどうだい、カマス?」


 レオナルド王子はカマスを温泉に誘うが、カマスは手をひらひらと横に振る。


 「遠慮しとくぜ。エイミィと約束があるんだ」

 「そうか、残念だ……君もエイミィと仲良くな」

 「……あんまり良い仲じゃねえよ」


 レオナルド王子が見えなくなったところで「じゃあ俺もそろそろ」とカマスも立ち上がり、休憩スペースから立ち去った。

 

 休憩スペースはジャスティンとティナの二人きりになった。


 「アリスちゃんの『導き』は順調のようね」

 「そうですね。今日で2日目、ほころびが出る様子もない。導きは成功ですよ」


 『導き』――それは、勇者アリスをお香で催眠状態にして、呪いの首飾りと精神医療用の魔法を併用して洗脳を行うこと。

 もともとボルトは、アリスをお香で催眠状態にし、呪いの首飾りを使うことで自分に好意を示す操り人形のような状態にしようと企んでいた。しかしそれでは、わずかにだが戦闘能力に支障が出る恐れがあった。しかもバレやすい。

 そこでジャスティンとティナはボルトを取り込み、これに教会や医療院で使われる精神医療用の魔法を使うことにした。具体的には、アリスの記憶の中にある、邪龍戦士ドラゴンファイター、つまりハヤトの記憶をボルトの記憶として置き換えてしまうのだ。これならばアリスを操り人形にする必要はない。しかもバレにくく、戦闘にも大きな影響はない。

 さらにこれは、好感度次第でアリスが自発的に協力してくれる効果も見込める。魔王との戦いが終わった後、ティナの所属する教会に、アリスを引き込むことだってできるのだ。


 「これで私も、勇者アリスを引き込んだとして教会で出世できるわ。悪いわね、私だけおいしいところ持って行っちゃって」

 「構いませんよ。僕は正義が実行されればそれで満足です。勇者が邪龍を崇拝しなくなっただけでも大きな成果ですよ」


 ティナとジャスティンは企みが成功したことで満足そうに笑う。

 その口元は、何か邪なもので歪んでいることに、2人は気づいていない。

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