第28話 なんでここに魔化人が?
「はあ、はあ、はあ……」
ドラゴンファイターレッドは地面に座り込む。イフリートには勝ったが、消耗が激しい。装甲も焼け焦げてボロボロ、出血も激しい。もし戦いが長引いていたら、危なかったかもしれない。
それなのに……
「ウガアアアア!」
「くそっ!」
後ろから襲い掛かる気配を察知し、ドラゴンファイターレッドは間一髪のところで攻撃をかわす。激しい戦いの直後に、追い打ちをかけるように新たな敵が襲い掛かってくるとは。
「魔化人……一体だけか……」
だが、地下違法闘技場で救出した魔化人とは様子が違う。異常に発達した爪や牙など、獣のような姿は同じだが、身に纏うオーラのようなものが違う。まるで元が戦士であるかのような気配を感じる。
「何であっても、救い出すしかないか……ドラゴンファイト!」
「ウガアアアアア!」
魔化人が爪を立て、牙をむき襲い掛かってくる。ドラゴンファイターレッドは魔化人を救出すべく動き出す。
「ドラゴンチョップ!」
ドラゴンファイターレッドは魔化人の後頭部に手刀を叩きこもうとする。だが、魔化人に動きを察知され、攻撃を避けられてしまった。
「うわっ!」
さらにドラゴンファイターレッドは魔化人にかみつかれてしまう。魔化人の鋭く大きな牙が、ドラゴンファイターレッドの装甲を貫く。
「ぐっ……うう……!」
やはり、普通の魔化人ではない。魔化人はものすごい力でドラゴンファイターレッドを噛み砕こうとする。血があふれだし、激痛がドラゴンファイターレッドを襲う。
「な、なんの……!」
だが、これはチャンスだ。
魔化人と密着した状態の今なら、毒素を抜き取ることができる。
「うおおおおおお!」
ドラゴンファイターレッドは残った力を振り絞り、魔化人の肩を掴んで魔物化薬の毒素を吸い取る。
「ガアアアア……ウガアアアアアアッ!」
しかし、魔化人の猛攻は収まらない。どんなに毒素を抜いても、まるで体力が回復していくかのように魔化人の力は強くなっていく。
過酷な消耗戦だ。それでもドラゴンファイターレッドは一歩も引かない。
「うおおおおおおお!」
激しい痛みに耐え、全身からおびただしい量の血を流しながら、ドラゴンファイターレッドは毒素を吸い上げ続ける。
「まだまだ……まだまだ……!」
どれだけの時間がたっただろうか、ようやく魔化人の力が弱り始める。一方で、ドラゴンファイターレッドの方も限界が近い。
「一気に決める……チャージアンドブレイク! ドラゴンドレイン!」
「ウガアアアアあああああ……あああああ……あああ……」
魔化人の人間としての意識が戻り始める。そして、その姿が戻り始める。
女性の冒険者のようだ。17歳くらいだろうか、ゴンベエと同じくらいの歳だ。
「な、なんとか……なったか……」
魔化人から元の姿に戻った少女を地面に寝かせ、ドラゴンファイターレッドもゴンベエの姿に戻る。
「……疲れた」
そしてゴンベエは少女の隣で、倒れるように眠りに落ちた。
「ここは……?」
白騎士の女冒険者――リリナは目を覚ました。自分の隣には、ローブをまとい、顔を仮面で隠した血まみれの少年が倒れている。自分と同じくらいの歳に見える。
自分の行動を思い出す。
――たしか、炎の魔神を蘇らせた仮面の男女と戦って、女から変な薬を飲まされて……
そこから先の記憶がない。
だが、この少年に助けられたというのはわかった。
――この近くに、まだ炎の魔神や仮面の男女がいるかもしれない
リリナは血まみれの少年を背負い、気配を殺して洞窟の出口に向けて歩き出した。