第26話 炎の魔神、現る
「この気配は……!」
勇者パーティを追って火山と温泉の街にたどり着いた、ドラゴンファイターレッドこと、ナナシノ・ゴンベエ。到着直後、彼の全身が強力な魔物の気配を感じ取る。
「まさかこれが……彼女の言っていた炎の魔神とやらじゃないだろうな……!」
気配のする方――火山の方へ、ゴンベエは走る。
観光客でにぎわう人混みの中をすり抜け、細い道を通り抜け、最短距離で火山の洞窟の中に向かう。
「しまった……遅かったか!」
火山の洞窟の内部は、普段観光客向けに開放されている。今回はそれが仇になった。洞窟の奥にいる魔物――炎の魔神が放つ炎魔法によって、洞窟内は大混乱に陥っていた。
洞窟の壁は燃え上がり、このままでは炎や煙に巻かれて死者が出でしまう。それだけは避けたい。
「はっ!」
ゴンベエは手から魔力を込めた衝撃波を放ち、壁の炎をかき消す。
「おりゃあ!」
そのまま炎の魔神に飛び蹴りを浴びせる。
不意打ちを受けて、炎の魔神の注意がゴンベエに向く。
「貴様……我が魔王軍一の炎の使い手、炎の魔神・イフリートと知っての狼藉か?」
「知らないな。暴れまわるのなら、倒させてもらうだけだ」
ゴンベエは手の中に赤いドラゴンバックルを出現させ、装着する。
「この気配……貴様……邪龍なのか?」
「知らないのか? 俺は、邪龍戦士ドラゴンファイターレッド……邪龍炎上!」
ゴンベエは赤いドラゴンバックルの右レバーを思い切り引っ張った。ゴンベエの全身を赤い炎が包み込み、その姿をドラゴンファイターレッドに変える。
「邪龍め……簡単に人間共の手に落ちるとは……」
「行くぞ、炎の魔神とやら……ドラゴンファイト!」
ドラゴンファイターレッドは目覚めた炎の魔神・イフリートに挑む。
「赤いドラゴンファイター……!」
「やれやれ、困ったことになったねえ……」
物陰で炎の魔神・イフリートの様子をうかがっていた五色魔導士のエイミィと獣戦士のカマスは、想定外のことに頭を抱えた。まさかこんなところで赤いドラゴンファイターに妨害をされてしまうとは。
「どうする? 予定では街中で炎の魔神を暴れさせるはずだったろ?」
「しょうがないねえ……ここはあきらめておとなしく炎の魔神様を倒すしか……おや……?」
エイミィとカマスが後ろを振り向くと、そこには一人の女冒険者がいた。教会騎士の制服を着てはいるが、背中に大荷物を背負っていること、鎧を着用していることから、元教会騎士の冒険者だということがわかる。
「あなたたちですね? 炎の魔神の封印を解いたのは」
女冒険者はエイミィとカマスに剣を向ける。
「相棒くん、彼女のレベルとか、君の直感ならわかるだろう?」
「白騎士っぽい高等職位だな。レベルは40くらいか?」
高レベルの高等職位……エイミィにとって、こんなにおいしい物件はない。
魔化人の素体にできれば、大きな戦果を上げることができる。
「質問に答えなさい!」
「相棒くん……彼女、絶対に捕らえるよ、いいね?」
「……わかった。何とかしてみよう」
ドラゴンファイターレッドがイフリートと戦う横で、素性を隠したエイミィ・カマスと、通りすがりの高等職位の冒険者との戦いが始まろうとしていた。