第1話 勇者の仲間たち
「やはり情報のとおり、ドラゴンファイターは邪龍だった……追い出すのにはちょうどいい口実だったな。手はず通り、今は城の地下の魔術師用監獄に入れられている。あそこなら邪龍の力も使えないだろう」
『勇者と勇者の仲間たち』のために用意された豪華な広い部屋で、カインドックの王子・レオナルドはほかの『勇者の仲間』にそう説明した。
『勇者の仲間』は、今代の勇者と共に戦う、選ばれた高等職位の戦士たちである。先代の勇者と共に戦った勇者の仲間たちは、今でも世界を救った英雄として語り継がれている。
そして、今代の『勇者の仲間』として選ばれたのは、この部屋にいる9名。
「そんなことはどうでもいいさ……そんなことより、僕のかわいい勇者ちゃんはまだかい?」
『雷鳴槍』の高等職位を持つ、実力はあるが女好きな青年。
ボルト=ベル=ポワール。
「まったくあなたは……それよりも、あのおぞましい邪龍を追い出すことができて良かったです」
『魔法剣士』の高等職位を持つ、自ら絶対の正義を標榜する騎士。
ジャスティン=アルバ=ブランクロウ。
「2人とも相変わらず吞気ね。これからどこの勢力が勇者様を取り込むのかの争奪戦になるというのに」
『聖術師』の高等職位を持つ、教会から派遣された聖女の1人。
ティナ=セイル=ブロンゲール。
「勢力争いをしている奴らは大変だなあ。こっちは金さえもらえれば文句はねえな」
『五色魔導士』の高等職位を持つ、金にしか興味を持たない女魔導士。
エイミィ=マイジ=ウィズガス。
「……しかし、これでよかったのでしょうか? 邪龍とはいえ、奴は実績のある冒険者です。もっとうまく使いこなせれば……」
『重装戦車』の高等職位を持つ、勇者の仲間の中では唯一平民から成り上がったベテラン騎士。
ゴーシュ=シェル=デルファン。
「だからさっさと潰すんだろうが、オッサン。どんな良い奴かは知らねえが、俺の手柄を横取りするなら要らねえよ!」
『獣戦士』の高等職位を持つ、気性の荒い野獣のような大男。
カマス=ザキス=マイトロン。
「でも、カマスさん……あ、いえ、なんでもないです、すみません……」
『氷狙撃手』の高等職位を持つ、気が弱くて一番若い勇者の仲間。
スナイト=バレル=チェリーウッド。
「勇者様――アリス様は湯浴みが終わり次第、私たちと面会することになっているっス。とりあえずこれからはみなさん仲良くした方が良いっス」
『電光石火』の高等職位を持つ、情報収集が得意な女戦士。
ゲイル=エッジ=スピーダー。
「そういうことだ、諸君。これから我々は勇者殿と……いや、親しみを込めてアリスと呼ぼうか、彼女と南の山に潜んでいる魔王軍の討伐に向かうことになる。みんな、よろしく頼むよ」
『聖騎士』の高等職位を持つ、カインドック王国の第一王子。
レオナルド=プライマ=カインドック。
アリスとハヤトが王都に到着する前から、邪龍戦士ドラゴンファイターの情報は彼ら勇者の仲間たちに伝わっていた。伝説の勇者と共に各地で魔王軍と戦い、華々しい戦果を上げるドラゴンファイターの存在は、彼らにとっては邪魔だった。ゴーシュとスナイトの2人だけはドラゴンファイターを仲間にしようと主張していたが、聞き入れられなかった。
彼らにとっては、世界の平和よりも大切なものがあった。
己の欲望、名誉、野心、金……
「邪魔なドラゴンファイターは無事に追い出せた。これからは我々が伝説を作る番だ。栄光ある我ら勇者パーティに、乾杯!」
レオナルドの音頭で、勇者の仲間たちは杯をかわす。
それは正義や平和とはほど遠い、上辺だけの結びつきだった……