第16話 赤いドラゴンファイター
「お、おい……なんで俺を護衛として連れてきたんだ?」
カマスは激しい後悔に苦しみながら、エイミィに自分を連れてきた理由を聞く。
「ああ……今日、アリスちゃんが下水道のゴブリンを全滅させちゃっただろう?」
「……それがなにか関係があるのか?」
「大ありなんだよね。今までは魔王軍の仕業ってことで、ゴブリン達が隠れ蓑になってくれていたんだけど、それがなくなっちゃったからね。当局が来た時には君の馬鹿力で追い返してほしいのさ」
「……まさか、最初からゴブリンの仕業だと知っていたのか?」
「さあね~? ……お、もう決着がつくかな?」
エイミィが出資したという魔物化した人間――通称『魔化人』と呼ばれるそれは、相手の魔化人にとどめを刺そうと爪を立てる。
闘技場の内部が一際大きな興奮に包まれる。
「行けっ! やれ!」
理性を失った『人』だったものが、『人』が化け物と化したものを殺す――そんな非人道的な光景が広がろうとした、その時だった。
「とうっ!」
客席から人影が飛び出し、魔化人たちの間に割り込む。
魔化人の鋭く大きな爪を受け止め、蹴り飛ばす。
「誰だあれは⁉」
「勝負を妨害するとは、何者だ⁉」
「まさか当局の者か?」
客席がざわめきだす。
「お、おい、これは何かの演出か?」
「いや……アクシデントだね……!」
カマスに話しかけられたエイミィは仮面越しに焦りの表情を浮かべる。
「カマスくん、出番だよ。あの招かれざる客を追い出してくれないかな? 何なら殺しちゃってもいいよ」
「わ、わかった!」
エイミィの指示を受け、カマスも客席から飛び出す。
他の客の傭兵たちと一緒に、勝負を邪魔した謎の人影を取り囲む。
「悪いな、あんた……死んでもらうぜ」
謎の人影は、全身を黒いローブで覆い、頭をフードで隠している。さらに認識阻害魔法のかかった仮面をつけているためその素顔は全く見えない。体格から男だろうか?
「…………」
大勢に取り囲まれ、剣を向けられた謎の男は、ローブを翻した。
「そ、それは……!」
あらわになった腰に巻き付いていたものは、ドラゴンの顔をかたどった赤い大きなバックル――イシダハヤト、ドラゴンファイターが着けていたものと同じ、ドラゴンバックルだった。
「邪龍炎上」
謎の男がバックルのレバーを引く。
謎の男の全身を真っ赤な炎のような魔力が覆う。
「はあっ!」
謎の男が炎を振り払うと、その姿はローブと仮面で素顔を隠したものから、ドラゴンファイターの姿に変わっていた。
いや、ドラゴンファイターでは……ない……?
全身はドラゴンファイターの黒ではなく、錆びたような赤い装甲に包まれていた。さらに装甲の上からはまるで力を厳重に封印するかのように細い鎖が巻きつけられている。
「ドラゴンファイター……なのか……?」
「……ドラゴンファイト!」
カマスの問いかけに、謎の男――いや、赤いドラゴンファイターは答えない。
代わりにドラゴンファイターと同じように、戦闘開始を告げる、ドラゴンファイトを叫んだ。