第15話 地下違法闘技場
深夜。
酒場の裏から地下に続く階段を、2人の男女が下りていく。
「ったく……昼間も地下、夜も地下かよ。俺はモグラになった覚えはないんだがな?」
「まあ、そう言わないでよ。何でも言うことを聞くって約束だったろう?」
獣戦士のカマスと、五色魔導士のエイミィだ。
エイミィは、カマスが勇者アリスを殺そうとしていたことを黙っておく代わりに、カマスを『護衛』としてこの場に連れてきていた。
2人は長い地下通路を抜け、その先にある広い空間にたどり着く。
そこには地下とは思えないほどに大きな、闘技場のような空間があった。
100人近い仮面をつけた人間が、そこかしこにいる。まるで本物の闘技場のようだ。
「な……経済都市の地下にこんなただっぴろい空間が……!」
「すごいだろう? 裏社会の魔導士たちが徐々に広げていったのさ。あ、カマスくん、この仮面付けて。素顔を晒すのはマナー違反だから」
エイミィはカマスに仮面を渡し、自分も仮面をつける。
2人の視界が一変する。
「……認識阻害魔法か。ここまで強力にする必要があるのか?」
「何かあった時のための保険だよ。ここには地方の有力貴族もいるからね」
「なるほど。で、ここは何を戦わせる闘技場で、俺は何の護衛でここに連れてこられたんだ?」
「そのうちわかるさ。さて、私は受付をすましてくるよ」
エイミィはカマスと別れて、受付らしきところに向かう。
カマスは闘技場を見渡す。
強い認識阻害魔法のおかげで、誰が誰かは全く分からない。だが、通常の闘技場のように、屈強な戦士が魔物や猛獣と戦うのとは違う空気がある。カマスの獣戦士の鋭い感覚が異様なものを感知する。
一般的な感覚で言えば、この場の空気は……『狂気』だろうか……?
「おまたせ! 賭けの手続きは済ませてきたよ」
「おう。ということは、もうすぐ始まるのか?」
「そうだね。まあ、見ていてよ」
2人は客席に腰かけ、しばらく待つ。すると闘技場の真ん中に、仮面をつけていない普通の人間が連れられてきた。服装から察するに平民だろうか? 心ここにあらずといった様子で、ふらふらとしている。服もボロボロだ。少なくとも戦えるような人間ではない。闘技場で戦うにはあまりにも不似合だ。
「おい、こいつが戦うのか?」
「そうだよ、さて、相手は……新人くんか」
そんな彼が戦う相手は……またも平民だ。やはり戦いには向いてなさそうな人間だ。両手を拘束され、自由に動けないようなされている。
「なんだこりゃ? ここは素人の闘技場か?」
「まさか……まあ、見ててよ」
2人の平民を仮面をつけた人間たちが取り押さえる。そして何かの液体を、無理やり2人に飲ませた。
2人の様子が一変する。
「うがあああああああ!」
「う、うわあああああああ!」
肌の色が赤黒く変色し、爪が長く伸びる。歯が牙のように鋭く伸び、目が赤く変色する。全身の筋肉が膨張し、手かせが引きちぎられる。
これはまるで……魔物のようだ。
「お、おい……! これ、まさか禁制の魔物薬じゃあ……!」
「察しが良いねえ、カマスくん。ここは魔物薬で魔物化した人間たちを戦わせる、違法闘技場なのさ!」
エイミィは狂ったように笑いだす。
「い、違法……」
「違法な分、金の周りもよくてねえ……普通の闘技場よりも稼げるのさ! しかも今戦っているのは私が出資していてねえ……」
カマスはその先のエイミィの言葉を聞いていられなかった。
自分は大変なものに巻き込まれてしまった……!
その事実にカマスは戦慄した。
しくじり7 国を代表する立場でありながら、違法行為に手を出した