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第14話 孤独な勇者の戦い

 「疾風連続斬り!」


 鬼神のような勢いで、勇者アリスは下水道に巣くう無数のゴブリン達を切り裂いていく。勇者の仲間たちも奮戦するが、彼らの比ではない。


 「アンリミテッド……オーバードライブ!」

 「よせ、アリス! うかつに切り札を使うな!」


 聖騎士のレオナルド王子の言葉も無視して、アリスは体に負担のかかるアンリミテッド、オーバードライブを発動させた。アリスの全身がピンク色のオーラに包まれる。勇者の剣から放たれる衝撃波で、ゴブリンの数がどんどん減っていく。


 「あちゃー……これは完全に暴走しているね」

 「ちょっと、アリスちゃん大丈夫なの?」


 五色魔導士のエイミィが困った顔をする中、聖術師のティナがアリスの状態を心配する。だが、アリスの暴走は止まらない。目が血走り、口から血を吐きながら、壁の穴から次々と湧き出てくるゴブリン達を倒していく。


 まるで、心の中に鬱積した、誰かにぶつけられない何かを吐き出すように。


 ――きっとそれは、ハヤトのことなのだろう。


 ずっと一緒だった相棒がいない不安。

 ずっと一緒だった相棒を何もできず失った無念。

 ずっと一緒だった相棒を殺した人間たちへの不信。


 アリスはそれらを背負って戦っている……


 「スナイト殿、勇者殿を集中的に援護してください! 敵は自分が引き受けます!」

 「了解しました、ゴーシュさん!」


 アリスの心中を察した重装戦車のゴーシュは、自らアリスの盾になることを決意した。氷狙撃手のスナイトに遠距離攻撃による援護を依頼し、自分はアリスを後ろから狙うゴブリン達の前に出て、注意を引き付ける。


 ――アリス殿……貴殿は一人かもしれない。我々のことも信じられないかもしれない。それでも私は、貴殿のことを放っておくわけにはいかない!


 「ぐわっ!」

 「ゴーシュさん!」

 

 無数のゴブリンの猛攻を防ぎきれず、ゴーシュは後ろに倒れる。他の仲間たちからと距離が開きすぎた。援護も間に合わない。


 「稲妻落とし!」


 もはやこれまでかと思われたその時、オーバードライブ状態のアリスが神速を使い、一瞬でゴーシュの近くに移動した。すかさず稲妻落としを放ってゴーシュを袋叩きにしようとしたゴブリンを一掃する。


 「そこっス!」


 ゴブリンたちの主を見つけた電光石火のゲイルが、主の眉間に特製の毒を塗った吹き矢を打ち込んだ。指揮官を失い、ゴブリン達の統制が乱れる。

 

 「みなさん、今っスよ!」


 大部分のゴブリン達は逃げ出し、残ったゴブリン達もアリスと勇者の仲間たちに倒される。


 こうして東の経済都市を密かに荒らしまわっていたゴブリンは、勇者たちの手によって討伐された。




 「ふう……がはっ!」


 アリスがオーバードライブを解き、下水道の中に倒れる。そこに、雷鳴槍のボルトやレオナルドが駆け寄る。


 「アリスちゃん、大丈夫!?」

 「無茶しすぎだぞ、アリス。一体どうしたんだ?」

 「……近寄らないでください。僕は大丈夫なんで」


 抱き起こそうとするボルトの手を払いのけ、アリスはふらふらと自力で立ち上がる。

 しかし、バランスを崩してアリスは再び倒れる。


 「アリスさん、大丈夫ですか?」

 「レオナルド王子の言う通りです、アリス殿。今後はこんな無茶はしないでください……

我々のことを信用していないのはわかりますが」

 「すみません、スナイトさん、ゴーシュさん……お二人のことは信じています。本当に、ありがとうございます」


 アリスの体をスナイトとゴーシュが受け止める。アリスは素直に二人に謝ると、左右から抱きかかえられ、出口へと向かった。



 ――なぜだ……なぜだなぜだなぜだ!


 アリスを見送りながら、雷鳴槍のボルト=ベル=ポワールは激しい怒りをたぎらせる。

 

 なぜ自分はダメで、スナイトとゴーシュは良いのか?

 自分の方が家柄もよく、美形であるのは間違いないのに!


 どうしてもこのボルト=ベル=ポワールを無視し続けるというのなら……


 ボルトは何もわかっていない。

 そしてボルトは、最悪の方法に走ろうとしていた……

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