第12話 暗殺と取り引き
数日かかって、アリス達勇者パーティーは北の経済都市にたどり着いた。
北の経済都市は、カインドック王国内で王都に次ぐ第2位の経済規模を誇る大都市だ。港が隣接し、広さだけならば王都をも上回る。
この経済都市の東部に、魔王軍は潜んでいるようだ。まだ表立って活動はしていないようだが、この経済都市内では最近、不審なことが立て続けに起こっていた。
大金を運んでいた人物の失踪、建物の連続火災、そして停泊していた船の沈没……
多発するこれらの事態に、王国は魔王軍の散発的な攻撃だと分析、勇者パーティーの派遣を決定したのである。
「よし、魔王軍の探索は明日にして、今日はゆっくり休もう」
聖騎士のレオナルド王子の提案で、アリスたちは経済都市の一番豪華な宿屋に宿泊することになった。カインドック王国の中でも特に大きな経済規模を誇る都市なだけあって、宿屋もまるで小さな城のように豪華な造りだ。
勇者パーティーはこの宿屋を拠点に、経済都市での活動を行うことになる。
その日の夜。
勇者パーティーの全員が寝静まったころ、暗闇の中を一つの物影がアリスの部屋に近づいていく。ゆっくりと、誰にも気づかれないよう気配を殺しながら。
獣戦士のカマスだ。
その手には毒針が握られている。
「……」
カマスは周囲に誰もいないことを確認しながら、一歩一歩進んでいく。
そしてアリスの眠る部屋のドアノブに手をかけた。
「何をやっているんだい、カマスくん」
その時、カマスは後ろから声をかけられる。
五色魔導士のエイミィだ。
「な、なんだ、エイミィ?」
「声が上ずっているよ、カマスくん」
あからさまに手にした毒針を隠すカマスに、エイミィは彼の弱みを握ったかのような意地の悪い笑みを浮かべる。
「カマスくん……キミ、アリスちゃんを殺そうとしたね?」
「な、何の話だ!?」
大きな声で否定するカマスだったが、図星だった。
カマスは毒針と獣戦士の能力・暗殺を用いて、決闘で自分を負かしたアリスを突然死に見せかけて殺そうとした。
「そんな大きな声で怒鳴っちゃ、みんな起きちゃうよ……それよりも君が毒針をもってここにいたって私が証言したら、レオナルド王子はどう思うだろうねえ……?」
「た、たのむ、ここに俺がいたことは黙っていてくれ!」
自分が不利だと悟ったカマスは慌てて頭を下げる。
「そうは言われてもねえ……」
「なんでも、なんでもする……そうだ、金! お前金が好きだったよな? いくらだ、いくらほしいんだ?」
「あ、今なんでも、って言った?」
エイミィはカマスの言葉尻を捕らえて目を細める。
「君の持っているはした金は期待していないけどねえ……ちょっと君に、私の金稼ぎを手伝ってもらおうかな? それで私は何も見ていなかったことにする。いいかい?」
「わ、わかった、それで手を打とう!」
こうして、カマスとエイミィの間で黒い取り引きが成立した。
しくじり5 仲間を殺そうとした
しくじり6 仲間の弱みを握り、暗殺未遂をもみ消した