プロローグ 二人の旅の終わり
ディメンダーXが終わっていないのに新作ですwww
長いのはプロローグだけです。このあとは各話1000字前後の短い文章になります(たぶん)
カインドック王国の王都を守る、分厚い石の城壁。その内と外をつなぐ4つの門のうちの1つ、東門の前に少年と少女が立っていた。
「やっとここまで来たね、ハヤト!」
「ああ……だがここからが始まりだ、アリス」
背の低い、銀髪を短く切りそろえた快活な少女――アリスは、伝説の勇者の装備――緑の魔石が埋め込まれ、金色のラインが入った青い装備で全身を覆っていた。勇者の鎧、勇者の兜、勇者の靴、勇者のマント、そして敵の攻撃からすべてを守る勇者の盾と、邪悪なものを消し去る勇者の剣。
一方のアリスより少し背の高い黒髪の少年――ハヤト、本名・石田隼人は、アリスよりもみすぼらしい装備だった。何の変哲もない黒い学生服の上に、途中立ち寄った村でアリスの叔父からもらった古びた旅人のマントと、魔物退治の報酬でもらった腕を保護する革のグローブのみ。
「そうだね……ここからは魔王軍との戦いの最前線になるんだよね」
「すでに南の山にはボスクラスの魔物が拠点を構えているという噂もある……気合を入れていくぞ」
アリスは勇者だ。山奥のライファ村に住む普通の村娘だった彼女は、半年前のある夜、夢に出てきた女神の導きにより伝説の職位である『勇者』に目覚めた。村の教会で勇者として仮認定を受けた彼女は、王都で正式な『勇者』として認定を受けるため、そして魔王軍の侵攻から人々を守るため、旅に出た。そして途中の『封印の森』でハヤトと出会った。
ハヤト――石田隼人は現代日本から、この魔王軍の脅威にさらされた異世界に転移してきた高校生だ。学校から帰る途中に原因不明の異世界転移によって、気が付くとこの世界の『封印の森』に飛ばされていた。そこで彼は『封印の森』の祠に封印されていた『邪龍の魂』に憑依された。そのまま世界を破壊に導く邪龍の憑代となるはずだったが、彼は気合と根性で『邪龍の魂』による精神支配をはねのけ、逆に邪龍の力を支配した。そして現代日本で見ていた変身ヒーローをモデルに、邪龍の力を変身ヒーロー風に改変、『邪龍戦士ドラゴンファイター』として制御することに成功したのだ。
『封印の森』で出会ったアリスとハヤトの2人は、とりあえず共に旅をすることにした。ライファ村を出たばかりだったアリスは実のところ王都までの旅は1人では心細かったため、話し相手がほしかった。ハヤトは日本に帰るため、とにかく手掛かりがほしくて、協力者が必要だった。
こうして利害の一致した2人は、共に王都に向けて旅に出た。
王都までの道のりはそこまで長くなかったが、途中の村や町を襲う魔物を倒したり、封印された勇者の装備を手に入れるための遺跡の試練によって、結局王都到着まで半年かかった。
その間、魔物との戦いや遺跡の試練でアリスは徐々に勇者の職位としてのレベルが上がっていった。先週、途中の教会で測ってもらった時にはレベル45、すでにベテランの騎士を上回る強さだ。
ハヤトのレベルは……わからなかった。『邪龍戦士ドラゴンファイター』を名乗ってはいるものの、それはハヤトの職位ではないらしい。アリスの横に並び立ち、2人で迫りくる魔物の大群を退けても、ハヤトのレベルは『なし』だった。
だが、2人はそれでもよかった。現に2人で力を合わせて、目の前の魔物を退けてきたのだ。時には意見の相違や自分勝手でケンカもしたけど、それでも戦ってこれた。アリスの成長に合わせるように、ハヤトの邪龍の力の制御もうまくなっている。きっとこのまま2人で強くなって、魔王も倒せる――この時はそう信じて疑わなかった。
「……よし、それじゃあ、行こう!」
「ああ。まずは王城でお前の勇者認定だ」
門番に通行証を見せ、2人は門をくぐり、城壁の中の城下町に足を踏み入れた。
多くの人々でにぎわう城下町を抜けて、アリスとハヤトの2人は王城に向かって歩く。途中、アリスの神々しい伝説の装備に目を奪われる人々の好奇の目にさらされながら、市場に並ぶ珍しいお菓子に引っ張られて寄り道をしようとするアリスをハヤトが引っ張りながら、そして初めて見る王都の賑わいを目にしながら、2人は王城に向かった。
「そ、その装備は……伝説の勇者の装備! 本物の勇者なのか……!」
「よ、予言のとおりだ……本当に少女だったとは……どうぞお入りください! 王がお待ちです!」
「伝説の勇者様がいらっしゃった! すぐに関係各位に伝達しろ!」
「勇者様と……従者が1人だ! と、とりあえず応接間にお通ししろ!」
アリスの身に付けた伝説の勇者の装備を見て、城の入り口を守る兵士たちは大騒ぎになる。勇者が現れることは予言はされていたようだが、実際に現物を見て、驚いたのだろう。
「なんかすごいことになっちゃったね……兵士の皆さん忙しそう……」
「これが勇者の名前の影響か……どうなってんだこの世界……」
アリスとハヤトは城の兵士に案内され、豪華な応接間に通される。そしてその応接間で待たされること、およそ2時間。初めははしゃいでいたアリスがソファで船をこぎ始め、初めは緊張していたハヤトが大きなあくびをしたころで、城の兵士が大慌てで飛び込んできた。
「お、お待たせしました! 王と面会の準備が整いました、すぐに王の御前までお越しください!」
「…………はっ!……おい、起きろアリス! 王様がお呼びだ!」
「ふああああ……は~い……すぐにいきまーす……」
ハヤトは半分眠ったままのアリスを揺り起こした。先導の兵士に王様の御前に案内される間に、寝起きの悪いアリスを揺らしてどうにかまともな受け答えができるようにしながら、アリスとハヤトは、王の謁見の間にたどり着いた。
「よくぞ参られた、勇者殿……伝説では1年かかったと言われる試練を、わずか半年で達成するとは、今世の勇者殿はなかなか優秀なようだ」
「も、もったいない、お、お言葉でございます……」
玉座に座るカインドック王を奥に、その周りを豪華な装備の騎士たちや聖職者、貴族たちが取り囲む中を、アリスとハヤトは大きな赤い絨毯の上で跪く。話しかけられているのは主にアリスだが、その声は緊張で震えていた。
カインドック王は勇者であるアリスに次々に話しかける。名前、出身、勇者の職位に目覚めた時のこと、勇者の試練や、旅の途中の魔物との戦いについて……
「なるほど……お主の話を聞く限り、そしてその勇者の装備を見る限り、いくつもの勇者の試練を乗り越えてきたのは本当のようだ。儂もお主が勇者で間違いないとは思う。しかし、これも決まりなのでな、聖職者による鑑定を受けてもらうぞ」
「は、はい」
王の横で待機していた位の高そうな聖職者たちがアリスの前に出てきて、水晶玉をかざす。『スキル』を使っているようだ。王の発言から『鑑定』のスキルだろうとはハヤトは推測した。
「って、あれ? 俺も?」
「はい。勇者の従者であるあなたも鑑定を受けて頂きます」
ハヤトの前にも高位聖職者たちが集まる。ハヤトのことも鑑定しなければならないらしい。
「勇者の鎧、勇者の兜、勇者の靴、勇者のマント、勇者の盾、勇者の剣……勇者の職位……偽装の痕跡、なし」
「膨大な魔力量、職位レベル45……間違いありません、彼女は本物の勇者です!」
高位聖職者たちが興奮気味に鑑定結果を王に告げる。聖職者の言葉に、王は満足げに頷いた。
「うむ……勇者アリス、貴殿を正式な勇者として認めよう。貴殿は人類の希望である。魔王軍との戦いの最前線で、多大なる戦果を期待する!」
「あ、ありがとうございます! 一生懸命頑張ります!」
アリスが勇者として認められた、その時だった。
ハヤトを鑑定していた高位聖職者たちが悲鳴を上げる。
「うわああああああ! な、なんだこれは!」
「す、水晶玉が砕けた!」
「なんだ、一体どうした?」
王の問いかけに、高位聖職者はハヤトを指さし、声を震わせて答える。
「へ、陛下、この男からは伝説の『邪龍』の気配がします! かつて初代魔王の失敗作と言われた、破壊をもたらすだけの最悪の魔物です!」
「初代勇者の手によって、封印の森の祠に封印されたはずなのに、どうして!?」
高位聖職者の言葉に、騎士たちがハヤトを取り囲み、槍を向けた。
思わずハヤトは両手をあげて無抵抗を示す。
「ハヤト! 陛下、ハヤトは何も悪いことはしていません! 邪龍の力を正しいことに使っています! これまで多くの魔物を倒してきました!」
アリスはハヤトの潔白を訴える。だが、高位聖職者は納得しない。
「ではお前の中のおぞましいままの邪龍の力は何だというのだ!」
「たしかに、封印の森で俺は邪龍の魂に憑りつかれました! しかし気合と根性で邪龍戦士ドラゴンファイターとして制御することに成功しました!」
「そんな言葉が信じられるか!」
「魔術師隊、捕らえろ!」
騎士たちに交じっていた魔術師たちが前に出て一斉に呪文を唱え、ハヤトの体を氷の鎖で拘束した。
「ハヤト! 王様、ハヤトを放してください!」
「騙されるな、勇者よ! そこの邪龍は人の姿で貴殿をたぶらかそうとしているのだ!」
「そんなことはありません王様!」
アリスはなおも王にハヤトの身の潔白を訴えるが、王を始め、この場にいる誰もその言葉を信じる者はいなかった。
「邪龍を地下牢へ連れていけ!」
「ハヤト!」
「アリス、落ち着け! とりあえず今は王様の指示に従うんだ。こっちは何とかする」
「ハヤト! ハヤトーっ!」
アリスは騎士たちに取り押さえられながらも、ハヤトの名前を呼び続ける。
しかし捕らわれたハヤトは、城の騎士によって地下牢へと連れていかれてしまった……