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MAKE A FRIEND  作者:  
他人
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集団というものの恐さ

入学してから数ヶ月の月日が経った。

いきなり友達になろうと誘われて数ヶ月だ。

月日が経つのは早い。

時は金なりと言う言葉がある。

その言葉が今ではすごく染み渡る。

中学生では長く感じていた日々の長さが、高校生になると一気に短く感じる。

高校生ですら短く感じてしまうのだから、大人にはきっと一日が十二時間程度くらいなのだろう。

それは大人になってみなければ、わからないことだが。

そして、高校に入学した当時の俺では到底、感じることのできなかったことだろう。

なぜなら、高校入学当時は友達など必要とせず一人で学生生活を送ると決めていたのだから。

それがどうだろうか、今ではこんな馬鹿でめんどくさくて、時に気持ち悪い、でも、最高な四人組に囲まれている。

入学当時の俺には想像もできなかったことだ。

またこうして友達に囲まれ学生生活を送るなんて。

少し前置きが長くなってしまった。

では、本題に入ろうか。

いま、俺たちの学校は非常に盛り上がっている。

それは、なぜか。

高校生活の一大イベント、文化祭だ。

その文化祭の準備が始まろうとしていた。

俺の学校では文化祭に力を入れており、地域と協力して行うくらい盛大な学校祭なのだ。

もはや、学校祭ではなく地域を巻き込んだ一つのお祭りとして認識してもらっても構わない。

そのため準備期間は1ヶ月と長い。

それに地域も協力しているため文化祭にかける費用が多い。とにかく多い。

なぜ、俺がこのような情報を知っているかというと実は父親が地方公務員を勤めていて、そのため少しばかり情報が耳に入ってくるからだ。

そして今日は文化祭準備初日。

俺たちはクラスで出し物で何をするか話し合っていた。

一年生は各クラスで出し物をしなければならない。

二年生、三年生は自由。

自由といっても全てのクラスが模擬店を出すのだが。

出し物は一年生の役目らしい。

入学して一年も満たない後輩に舞台を盛りあげろというのだから酷い話だと思う。

それで話し合い初めてから二時間は経過していた。

え、放課後から二時間も?と思う方がいると思うが俺の学校では文化祭準備期間は、午前授業になる。

本当にどんだけ力を入れているんだよ、と校長につっこみたい。

最初はダンスが有力候補だったのだが、みんなを満足させられる程のキレのあるダンスが出来るのかと反論が出たため即却下となった。

次に出たのが、丸ばつクイズ。

全員に動いてもらうというものだったのだが、余りにも人が多過ぎて動けないだろう、と当たり前過ぎる意見が出たので即却下となった。

もうこうなったら劇しかない、という話にまとまったのだが今度は何をやるのかで議論していた。

いや、議論と呼べるものではなかったが。

最初は、ロミオとジュリエットの話が出た。だが、ありきたり過ぎると反対意見が出た。

続いては、アリスと不思議の国。こちらは世界観が難しいと反対意見が出る。

次は、水戸黄門という何とも渋いものが出てきた。これに関しては知らない人が意外にも多く、とりあえず却下となった。

ま、簡単にまとめると劇なんてやりたくない、そんなところだろうか。

人前に立つことが苦手な俺からしてみれば、劇なんて死んでもやりたくない。演じることは得意だが。

人前ではクールだが妹や家族の前では素を出してしまう。そういった点では俺は役者だ。

俺だけじゃない、きっとこの世の中の人間は全て役者だ。

あれ、みんな演じることが得意なんじゃないかと意味のわからない結論に至っている間に話がまとまったようだった。

俺は黒板を睨む。

そこには、大きく、シンデレラ、と書かれていた。

ん?シンデレラ?

それこそ、ありきたりじゃないか。

ならロミオとジュリエットでも良いだろ。

俺は心の中で毒吐く。

せっかくやる事が決まったので、役は早めに決めて練習に取り掛かった方が良いという事まで決まったらしく今から役決めを始めるそうだ。

明日でいいだろう、そう思う。

すると女子の一人が、明日決めよー、と言い出した。

ナイス。

だが、眼鏡を掛けたおさげの委員長が、今日決めてしまいます、では、シンデレラから決めましょうと宣言した。

さすが、THE委員長といったところだ。

ま、きっとクラスの中心人物が勝手に盛り上がって決めてくれるだろうと高を括っていたのが間違いだった。

いつも率先して手を挙げる奴らが大人しい。

そして誰一人と委員長と目を合わせようとしない。

明らかに無関心オーラが教室中に漂っていた。

そんな空気を壊した勇者がいた。

それは金崎だった。

「あのー、立候補」

と言い出した。

え、あいつってそんなキャラだったっけと俺は少し困惑した。

クラス想いな奴なんだと評価を改めなければならないなと思った矢先だった。

「あ、私じゃなくて山吹が。」

おそらく俺だけじゃないだろう。

このクラス中の奴らが困惑したに違いない。

チラッと山吹を見たが彼女自身も驚きの色を隠さずにいた。

そりゃそうだ。

誰もが金崎がシンデレラ役に立候補したんだと思っていたのだから。

それがどうだ、立候補したのは山吹だと言うじゃないか。と言うより、それは立候補とは言わない、推薦と言うのだ、と大きな声で言ってやりたい。

クラスのみんなはどう反応すべきなのか戸惑っている。

すると金崎の取り巻きたちが、良いんじゃね、などと囃し立てる。それに遅れて、少しずつ賛同する声が上がっていく。

これが集団の恐さだ。少数の人間の意見が波となって徐々に伝わる。周りが同じ意見を持ち出すとそれに流されていく。

俺が最も嫌いなものだ。

そしてもう一つの恐さがある。

それは…

委員長がその場をまとめるようにこう発言した。

「皆さんは良いかもしれませんが、それは山吹さんの意思なんでしょうか?」

ごもっともな事を言う。

そりゃそうだ、周りは早く決まれと願っている。そこに立候補者が現れた。それは願ったり叶ったりな事だろう。

だが、それは本人が立候補した場合の話。今は違う。彼女はあくまでも推薦されただけだ。

するとそれに金崎が反論する。

「良いじゃん。過半数が賛成してるし。」

お前らは良いのだ。

面倒な役を押し付け、楽ができる。

だが本人はどうだろうか。

一人の生徒が立ち上がる。山吹だった。

彼女はゆっくり、そしてはっきりと言う。

「私、やります。」

そうもう一つ恐さがこれだ。

ときに集団の声は本人の意思さえも曲げてしまう。

先ほどの彼女の様子からして、やりたいなどと微塵も思っていなかったはず、それなのに今は、やりたいと口にした。

だから俺は集団が嫌いだ。

だから、だから、もう二度とあんな事はさせない。

俺は自身の正義感に駆られ、自分でも思わない行動に出てしまった。

「なら、俺が王子やります。」

そう手を挙げて立候補をしたのだ。

クラスが静まり返る。

当たり前だろう。シンデレラが決まった直後に間髪入れず、王子役に立候補が出たのだから。

「対抗馬がありませんね。では決まりです。山吹さん、楓馬さん、よろしくお願いします。」

と落ち着いたふ雰囲気で場をまとめた。

さすが委員長といった感じだ。

それから、重要な役決めを始めたのだが先ほどと打って変わって決まるのが早かった。

主役はやりたくないけど、重要な役はやりたいといった感じだろうか。

魔女役に有栖。三女役に金崎、橋本、須藤。よくわからんが馬車および案内役に琴音、雄大、龍央、叶が立候補した。

取り敢えずは役者が揃った。

役決めは少々あれだったが、委員長が上手くまとめてくれたお陰で何とか無事に終わった。

俺は無事ではないが…

おそらくだが、俺と山吹の関係についても噂になるだろう。

その点は山吹に悪いことした。あとで謝っておこう。

そして誤解を解いてもらわなければ。

それ以外は俺の責任だ。

最後まで全うしよう。

そう心に決めた。

ここから文化祭準備期間の始まりだ。



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