私は白。
山吹 白の告白
私は昔から一人でした。
大きなお家で一人。
だから孤独には慣れていました。
しかし、小学生になって初めて友達ができた頃から私は孤独を酷く恐れました。
今でもあの瞬間を忘れられません。
誰かとお喋りをして、一緒に帰って、遊ぶ。
誰かと笑って、泣いて、時には喧嘩もして。
誰かと一緒にいるっていうことは素晴らしいです。
楽しい。
幸せ。
それから私は一人でいることが出来なくなったのです。
常に誰かと一緒にいたいと思ってしまう。
一度甘い蜜を吸ってしまうとそれを求められずにはいられないと言いますが、まさしくその通りです。
一人で何かするより友達と一緒にやる方が何十倍、何百倍と測りきれないくらい楽しいです。
少し話が逸れてしまったので元に戻しましょう。
私の両親は共働きでした。
はっきり両親は育児に興味がありませんでした。
私が一歳になる頃にはすでに家政婦に預け、働きに出ていました。
両親は研究者です。
だからこそ余計に育児よりも自分の仕事を優先したいのでしょう。
当時の私には理解に苦しみましたが、いまの私なら納得できます。
家政婦さんも仕事と割り切っている方でしたので、そこまで深く関わることがありませんでした。
家政婦がもう少し子供思いの方なら私も少しは変わっていたのかもしれません。
そうやって私は外の世界も知らずに育てられました。
両親は教育には五月蝿かったので、読み書きなど基本なことは全て叩き込まれました。
そして小学生に入り、初めて友達が出来たのです。
しかし、その友達達とは長く続きませんでした。
なぜなら両親の仕事の関係で転校をしなくてはならなくなったからです。
それも一度、二度ではなく高校生になるまで度々、転校を繰り返していました。
新しい環境。
周りは知らない人ばかり。
だから余計に心細くなり友達を欲する気持ちが強くなっていったのでしょう。
そして、私は友達がどういうものなのかを忘れてしまいます。
皆さんにとって友達はどういう存在でしょうか?
いつしか私にとっての友達は、一緒にいてくれるだけの存在になってしまいました。
一緒にいてくれる。
それが友達。
私はそう思い込んでしまいました。
入学してから三ヶ月が経った。
私はいつものように学校へ向かう。
宿泊研修前までは軽快な足取りで学校に向かっていたはずなのだが、最近はどうも重たい。
それがなぜなのか、私にはわからない。
私はクラスの中心グループに所属している。
毎日が青春だ。
世間でいうリア充だと思っている。
休み時間には喋り、昼休みは屋上で食べたり、放課後にはみんなでカラオケに行ったりカフェに行ったり。幸せだ。
だって、いつも誰かと一緒に居られている。
だから足取りが重くなる理由はない。
ただ異変は感じていた。
宿泊研修以降、京子ちゃんの接し方が変わった。
そして、最近はさやかちゃんまでもが変わった。
宿泊研修前までは話に参加していたが、最近は輪の中に入り辛い。
気が付くと自分の教室の前にいた。
一学期のテストが終わったせいだろうか、いつも以上に活気がある。
教室に入るとすでに有栖以外そろっていた。
「おはよう。」
と声をかける。
前までは向こうから声をかけてくれたが最近は私からかけないと掛けてくれなくなった。
「おはよー」
と元気のない返事が返ってくる。
みんな疲れているのかな。
私に挨拶をすると話を再開し始めた。
仲良く三人で話を進めていく。
いつもなら、どう思う?、白は?、と言った質問などをされていたが最近はされない。
だからこそ話の輪に入り辛いのだ。
私のことを空気のように扱っているのだ。
空気は喋らないし、話しかけられない。
だから私は黙って話を聞くことにしている。
私は別に話に参加なんてしなくていい。ただ一緒に居られるだけで満足だ。
だから、いまの現状を悲観したりしない。
それよりももっと可笑しなことがある。
それは有栖だ。
なぜか最近、彼女は私達と関わろうとしなくなった。
いや、私たちは間違いかな。
正しく言えば私以外とだ。
そして、彼女は私を京子ちゃん達から引き離そうとしてるように感じられることがある。
実際にはそんな意図はないんだろうけど。
これは私の深読みのし過ぎだと思う。
すると有栖が教室に入ってきた。
有栖を目で追っていると四人組と楽しそうに戯れている楓馬くんの姿が飛び込んできた。
宿泊研修以降、彼はいつもあんな感じだ。
友達と仲良くしている。
昔の彼とはかなり変わったと思う。
昔と言っても数ヶ月前の彼しか知らないのだけれども。
彼を見ていると何故か少しだけ嬉しくなる。
肝心の有栖だけれど、彼女は本を読んでいた。
私は読書の邪魔をしてはいけないと思い声をかけるのをやめた。
そんな私を横目に京子ちゃんたちは私抜きで楽しんでいる。
改めて実感してしまう。私は空気だと。
私は構わないけど。空気でも。
それから授業が終わり放課後を迎えた。
朝の話を聞いている限り、今日はクレープを食べに行くらしい。
どうやら駅前に人気のお店が出来たらしい。
「白、行くよね?」
そう桃花ちゃんに聞かれる。
自慢ではないけど、遊びに行くとき誘われなかったことは一度もない。
なんだかんだ言って私も一緒に連れて行ってくれるのだ。
私はそれだけで嬉しくなってしまう。
もちろん、と答えた。
学校前のバス停から駅へ向かった。
すると駅の前には行列が出来ていた。
大半が制服姿だったので下校途中の学生がクレープを求めて並んでいるのだろう。
それにしても人気なんだろう。何度も駅を訪れた事があるけど、こんな行列ができていたことは一度もなかった。
私はその行列を見て心が踊った。
私だけではない、京子ちゃん達も同じようだ。
30分くらいだろうか。
ようやくメニューらしき看板が近付いてきた。
どれも800円以上と少し割高であった。
すると、京子ちゃん達が
「ごめん、金欠だから奢ってくれない?」
と私に懇願してきた。
ま、いつものことなので私は、
いいよ、と答えた。
当たり前だろう。
友達が困っていたら助ける。
私は友達を助けたまでのこと。
それに私は金銭関係で苦労した事がない。
嫌味とかでも何でもない。
あまり表に出すべき事ではないと自負しているので隠していた。
だから彼女達はその事を知った上での発言ではないだろうと私は思う。
本当に彼女達は困っているんだ。だから助ける。
結果、私はみんなの分を支払った。
みんな美味しそうに食べていた。
私も一口たべる。美味しい。
きっと一人で食べても美味しいと思うだろう。
でも、みんなで食べた方がやっぱりもっと美味しくなるんだと私は改めて実感した。
みんながクレープを食べ終わったと同時に解散した。
私以外は電車通学だったので、そのまま駅で解散した。
改札まで見送ったあと、私も帰路についた。
偶然にも彼とすれ違うかなと少し期待したが、そんなことはなかった。
そして家の前まで来た。
無駄に大きい家。
この家で生活しているのは私だけだ。
両親は研究室で寝泊まりしている。両親にとってきっとそこが生活の場なのだ。
外では青春を謳歌する女子高生。
しかし一旦、家に入ると私は孤独のお姫様になってしまう。
お姫様と例えるほど上品な女性ではないが。
あぁ、誰か私を拐ってくれないかと願ってみたり。
実際、私が拐われたら両親はどのような反応を示すのだろうか。
少しだけ面白そう、楽しそうだな、と思ってしまう。
なんて親不孝ものだろうか。
家政婦さんが作ってくれた夕食を温め食べる。
きっと美味しいんだろう。
でも美味しくない。
例え、どんな豪華な食材を使った料理でも家族や友達と一緒に食べる料理には負けると私は思う。
いや、私だけかも知れないが。
そして、片付けをしシャワーを浴びる。
濡れた髪のまま自室へ向かう。
ここまで一連の動きに無駄がない。
それもそのはず。私は中学生の頃から、ずっとこれを続けてきたのだから。
部屋に入るならスピーカーをつける。
そして、私の好きな歌手の曲を大音量で流す。
こうでもしないと静か過ぎて不気味さを感じてしまう。
ただでさえ、大きな屋敷に一人しかいないのだから。
明日の課題、予習、復習をある程度やる。
私の両親は教育だけにはうるさい。
だから、ある程度の成績を取らないと怒られる。
だから私は常に学年五位以内をキープしている。
それでも両親は毎回、当たり前だ。と言う。
私は…
思い出すとなぜか泣きそうになり、寂しくなった。
そんな気持ちを紛らわせようと携帯を開く。
一件もメールが来ていない。
余計に寂しくなる。
京子ちゃん達から一度もメールを向こうから送られたことはない。
少し寂しいなと感じるが、それでいい。
彼女たちとは学校で会える。そしてメールで話すより直接話すことに意味がある。
ああ、早く明日にならないかな。
私はそう思いながら目を閉じた。