高校生活初めての部活動
「お兄ちゃん。どこ行くの?」
俺は出掛けるために準備をしていた。
今日は宿泊研修の振替休日の二日目。
いわば振替休日の最終日だった。
「用事だよ。」
何言ってんのって顔で俺を見る。
「休日なのに?」
目を細める。
こいつ完全に怪しんでいるな。
「そうだよ。」
「ねね、本当は何の用なの?」
「なんでもない。」
「何でもない訳ないよね?」
本当にしつこい。
このままでは恐らく永遠に問い続けられるだろう。
ここは俺が折れるしかないな。
「遊びに行くんだよ。」
えっと驚く妹。
そのあと透かさず口元を押さえる。
いや、もう遅いけどな。
「あ、もしかしてこの前の女?」
お前って本当に他の女の話になると急変するよな。
ここまで好かれると逆に辛い。
そもそもこれは好かれていると言えるのか。
「いや、違う。」
「じゃ、誰と?」
こわい。
俺の妹こわい。
「その、友達?」
友達と呼べるのかわからないが。
友達以外いい表現が思い浮かばなかった。
「え、えええええええ!」
そこまで露骨に驚くかよ。
すると妹は、
「お母さん!お母さん!」
と叫びながら物凄いスピードで俺の部屋を飛び出していった。
本当に奴は嵐だな。
「お兄ちゃんが友達出来たんだって!!」
本当に余計な事を話す奴だな。
それはそうと友達というのは四人組のことである。
なぜ彼らと遊ぶことになったのかというと帰りのバスで…
「そりゃそうと、お前、あのとき興味ないとか散々言ってくれたじゃないか。
だからよ、今度の休みにお前に二次元の良さをたっぷりと教え込んでやる。」
と鏡屋が言い出したのが事の発端である。
靴を履く。
いつもなら憂鬱だと感じるが、今日は違う。
心のどこかで楽しみにしている自分がいた。
「お兄ちゃん。私、嬉しいよ。
あのお兄ちゃんに友達ができて。
それだけじゃなく遊びに行くなんて!
今日は記念すべき日だから、私、学校休むね!!」
お前が休みたいだけだろ。
「お母さん~!ってことで休む!!」
そう言いながら去っていった。
玄関の扉が閉まると同時に家の中から
「ばかやろう!!」
と叫ぶ鬼親の怒鳴り声が聞こえた。
昔から俺の母親は厳しかった。
おそらく早くに夫を亡くし、子育てに強い責任感を持っていたからだろう。
だが、あの一件以降、俺には優しく接するようになった。
それと同時に妹にはさらに厳しくし始めた。
だから妹は俺に甘えてくるんだと思う。
妹には悪いことをしたなと思っている。
集合場所が見えてきた。
そう学校だ。
「遅いぞ。」
「寝坊だべ?」
「俺らを待たせるとはどういう身分してんだ。」
「…」
と朝から煩わしい奴らだ。
前の俺は嫌気がさしていたが、今はなんだか気持ちの良いものである。
「それにしてもなぜ学校なんだ?」
俺が聞くとみんなが顔を合わせる。
さては何か企んでいるな。
俺は身構える。
「じゃーん!」
と鏡屋が俺に紙を突き出してきた。
近すぎて何も見えない。
「近い。」
ああ、悪いと言って普通に紙を見せてくれた。
その紙を手に取って読み上げる。
「部活申請書。二次元愛好部を本校の正式な部活として認める。」
と書かれていた。
「は?」
俺は思わず声に出す。
「そう。今日来てもらったのは他でもない。
二次元愛好部の記念すべき初日だからだ!!」
いやいや、待て待て。
なんも話を聞いていないぞ。
そもそもなんだよ、二次元愛好部って。
俺、二次元に興味ないんだが。
付き合ってられない。
「帰るわ。」
そう言って帰ろうとしたら囲まれた。
「待て。お前に二次元の素晴らしさを教え込む。
それが俺たちの部活動だ。」
なるほど。
要するに表向きの活動内容は二次元の良さを伝えることね。
「どうせ、お前らだけで勝手に盛り上がるんだろ?」
図星かよ。
みんな揃って核心を突かれたような反応しやがって。
「帰るわ。」
すると今度は俺にしがみついてきた。
どんだけ必死なんだよ。
「なぁ、頼む。俺たちに居場所をくれ!」
そう言って頭を下げる琴音。
それはずるい。
そんなことを言われたら俺は断ることが出来ない。
実はあの一件のせいで俺たちは悪目立ちをしていた。
女子を泣かせた二次元オタと。
紛れもなく泣かせたのは俺なのだが、矛先は全て四人組に向かっていた。
「わかったって。入部するが、部活動には参加しないこれでいいな?」
みんんが涙目になり、
「ありがとう!」
と抱き付いてきたのであった。
それから少し談笑して俺は帰宅した。
部屋に戻ると携帯が光っていた。
そう言えば忘れていったんだった。
確認してみるとメールが一件来ていた。
山吹からだった。
【宿泊研修では本当にすみませんでした。
あれから京子は反省した様子でした。
それと、有栖からの伝言です。
叩いてごめんなさい。でも私は間違ったことはしていないと思っているわ。
あなたは意外と友達思いなのね。】
という内容だった。
褒められたのか。
アリスも良い奴じゃないか。
【大丈夫だ。俺の方こそ言い過ぎた悪い。】
と返した。
あのときの光景が頭をよぎった。
金崎の言動で一つだけ引っかかっているものがあった。
それは山吹への態度だった。明らかに他の奴らと違いがあった。
それに掃除の一件といい偶然といえるのだろうか。
いまは気にしても仕方ないか。
どうすることもできない。
それがなんとももどかしい。
そして休日が明けた。
「お兄ちゃん!」
ドン。
「今日は学校だぞ!」
ドン。ドン。
「起きろって言ってんだろ?」
ドン。ドン。ドン。
「痛いって言ってんだろ!」
きっと今日は女の子の日なんだ。
今日は機嫌が悪い。
そう言うことだ。
「女の子の日か。」
その一言は余計だったようだ。
「うっさい!」
今日も朝からめんどくさい奴だ。
それからは妹の話を素直に聞いた。
そんな妹だけど嫌いにはなれない。
これが兄妹愛というものだろうか。
学校に着くと何か騒ついていた。
その原因はすぐに判明した。
廊下の至る所に2次元愛好部の募集ポスターが貼られていたのだ。
あいつら。
本当に悪目立ちしかしないよな。
もう本当に関わるのをやめておこう。
という俺の願いも儚く消えた。
「おはよう、我が団員よ。」
いや誰だよ。キャラぶれすぎだろ。
そう変な口調で挨拶して来たのは琴音だった。
しかも、廊下で挨拶するなよ。
よし、ここは他人のふりをする。
するとさらに追い討ちを掛けてきた。
「おはよう。今日も君の笑顔は素敵だね。」
ヤンキーの次は王子かよ。
あ、誰かはヤンキーで察してくれ。
それと誰も笑顔じゃない。
むしろ絶望顔だわ。
「おはよう。みんな面白いべ?」
お前は変わらないのか。
寧ろなにかを求めていた俺がいる。
誰かは、べ、で察してくれ。
「ズゴー」
いや、なにそれ。
もしかして黒くて赤く光る剣をもったやつ?
なんで?
なんでみんなキャラぶれぶれなの?
そんな疑問を琴音が教えてくれた。
「実はな、今げんざい部員を集めるために、こうして二次元のキャラを演じているのだよ。」
だとしても俺を巻き込むな。
俺は部外者だ。
俺の気持ちを汲み取ったように
「君は僕と契りを結んだだろ?」
と不良王子が決めポーズをした。
まじでやめてくれ。
周りの視線が痛すぎる。
それと似合ってない。きもい。
それから俺は一週間ほど学校を休む羽目になった。